大事な賭け

果実Mk-2

第1話

 騒がしい、耳に刺さるほどの騒音、銀の球を打ち出しデジタル抽選で大当りを待つ、それだけなのに焦ってしまう、当然だここで勝てなきゃ家賃すら払えなくなっちまう。

「頼む......当たってくれ......二倍ハマりだろ⁉そろそろ当たっても可笑しくないだろぉ」

 この台は大当り確率1/319、確変確率変動は50%そこに行けば絶対に取り返せるんだ、出玉は全部1500発五連でもすれば三万くらい返ってくる、三万?投資を考えても到底足りねぇじゃねぇか!投資が五万、家賃が四万諸々合わせると七万ちょっとって事は17,500発は必要になってくるって事は12連必要だ。

 ピギューン

「うぉっと、ここで赤保留か、60%もあんだ、外したら終わりだここにかけるしかねぇ!」


 と言うがパチンコ自体球がスタートチャッカーに入った時点で当落が決まっている、赤保留も所詮は打ち手を楽しませるだけの演出でしかない。


「役物も......動いた!よし!これも80%くらいある頼む!当たってくれ!頼む頼む頼む!」

 台に付いているレバーの振動、最終当落はレバー!よし!これで大当たりは取れた、ここで確変さえ取れれば......ッよし取った、俺はこの台で即転落なんてしたことがねぇんだ。

「あぁ~よがっだ~、せめて万発出たら何とかなるか」

 そこからは、連荘に次ぐ連荘、俺の席の後ろには大量のドル箱が積み上がり、15連で転落し今日の勝ち額は四万、総額9万の勝ちになった。

「やーあそこで連荘したのが良かった、ってかもう八時かかなり打ってたな」

 家賃と生活費の面は何とかなったが、バイト代まであと一週間弱、借金もあるしで結局足りねぇんだよなぁ......

「はぁ......シフト増やすかっても今人手足りてるから中々入れねぇし、どーっすかなー」

 仕送りも無理だろうしってか元々期待してないし、実質実家から飛び出してるみたいなもんだし。


「おやおや~?そこに居るのは村瀬君じゃ~あないか、パチ屋からルンルンで出てきたって事はもしかして勝ったのかな~?」

「うげぇ」

「おや~そんな反応して良かったのかなぁ?」

 こいつは金を借りている、【高橋】天才科学者らしい性別は女だ

「悪かったな、そもそもパチ屋の前で出待ちしてる借金取が居たらそんな反応するだろ」

「僕には世間一般といういのには当てはまらないからね」

「常識考えろ常識を」

「それで、僕から借りている30万、いや今は15万は返せそうかい?返せないなら僕のお願いを聞くことになるが」

「話を飛ばすな、もう少し待ってろ、もうちょいすりゃ完済できっから」

「その言葉を聞くのは二週間ぶり三回目だが、一体何時になったら完済はできるんだい?それとも僕のお願いを聞く気になったのかい?」

「お前の実験とやらに付き合うのはごめんだね、だから会う度に一万返してるだろほれ」

 財布から、万札を渡す、こんな場所で会わなきゃちったぁ贅沢で来たのによ。

「別に実験を手伝って欲しいとは言っていないだろ、よっと、これで14万だね」

「俺に何させるつもりなんだよ、それになんだ大荷物は」

 両手にキャリーケース背中には大きなリュックサックまるで夜逃げの様な荷物だ。

「まぁこれは追々話すとして、一つ賭けをしないかい?」

「いやだ」

「おや、パチンコはするのに賭け事はしないとは、可笑しな話じゃないか」

「お前から持ち掛けられるのは危険な匂いしかしない」

「そうだね、君が勝ったら借金をチャラにしてあげようじゃないか」

「うっ......」

 正直、その提案は魅力的だ、はっきり言えば生活も少し苦しい、シフトも増やせない、借金がなければ確実に生活は楽になる、乗るしかない。

「分かった......それで賭けの内容は」

「ちょうど、ここはパチンコ屋の前だ、ならパチンコで賭けをしようじゃないか」

「千円で当りが引けるかどうかでもすんのか?」

「お、その通りさ、確かネットで確率変動状態に入るのが厳しいのが出たらしいじゃないか、それで賭けをしよう」

「賭けの内容はお前の勝手だが、それは俺に有利じゃないか?」

「確率変動状態になったら僕の勝ち、ならなかったら君の勝ち」

「あのな、人の話を少しは聞いたらどうだ、珍しくこっちがフェアじゃないって言ってんのによ」

「あ、後僕が勝った場合だけど、君の借金は倍ついでに僕のお願いを聞いてもらおう」

「は?」

「何を驚いた顔をしているんだい?当然だろ?僕に不利な賭けをしているんだ、これくらいのしなければフェアじゃないだろ」

「ま、まぁ1/512だしなそれくらいは」

「それじゃあ、はい」

 目の前の借金取は俺に向けて手を出してきた

「なんだその手は」

「僕はキャッシュレス派だ、現金を持っている訳がないだろ」

「つまり、俺に出せと」

「そうだが?あ、当たった場合は出玉ごと君に渡そう」

「はいはい、出せば良いんだろ」

「物分かりが良いじゃないか、では入ろうか」


 つい、さっき出たばかりなのに、また連れていかれるとは思わねぇよ


「うむ、やはり騒がしい場所だな」

「あ?なんて言った?」

「騒がしい!と言ったんだ」

「仕方ねぇだろ、パチ屋は大抵そんなもんだ」

 パチ屋の環境音に慣れない奴は、大抵耳を塞ぐしまともに会話ができない

「さあ、案内してくれ、自慢じゃないが僕は方向音痴だ」

「ほれ、付いてこい」

 人気な台を置いてあるブースを抜け、最新台を置いているブースに賭けに使う台が置いてある。

「おや、これはアニメタイアップの台だったのか」

「らしいな、サンドに金入れるからさっさと座れ」

 千円札をサンドに入れパチンコ玉を借りる、4円貸なら250発、1,000円で18回も回れば上々なのが、最近のパチンコ事情だ。

 そもそも、パチンコは回れば回るほど勝ちやすい、回らない台は負けやすい、そうできている。

「さて、どこら辺を狙えばいいのかね?」

「矢印のところを狙ってハンドルをひねればいい」

「ふむ、これくらいな」

 1/99つまりは1%を引きその後20%を引ければ確変に入れる、突入率の低さの代わりに出玉は多く3000発強、一回で一万弱になる、博打台としての人気が高い台だ、万発も余裕で狙えるそんな魅力的な台だが、確変が取れない時はとことん取れないなんて当たり前だ。

「おや?レバーがバイブしたがこれはどういう意味だい?」

「は?まだ2回転目だよな、ちょっといいか?」

 十字ボタンを押し、カスタムにレバーバイブが入っているか確認するが、カスタムされていた、つまり当りを取っている、しかも確変も取っている......

「君の反応からするに当たっているようだね、だが私にはさっぱり分からない、ハンドルは離していいのかい?」

「離していいぞ......」

「ふむ、なら演出を楽しませてもらおうか」

「俺はタバコでも吸ってくるわ......画面の指示に従ってりゃいいから」

「ほう、最近のアニメはここまで作画が良くなっているのか」

「聞いてねぇし」


 これで、俺の借金は振り出しにもどった、後半分だったのによ、新しいバイトをでも探すか、最悪あいつのお願いを聞く事になるのか......


「ッス......はぁ、あいつ持ってんなぁ......ちっとでいいから分けて欲しいもんだ」

 タバコを灰皿に置き、台に戻ると、やはり当りを継続させていた。

「ん?おや、タバコから戻ってきたか、君がいない間に三回ほど当ておいたのだが、この台はすごいな」

「お前はパチンコにハマんなよ?」

「こんなものより研究のほうが楽しいからね、ハマりそうにはないさ」

「そうか」

「それで、一体いつ辞めればいいのかな?」

「外れるまでか、閉店までだな」

「そうか、君としては当たれば当たるほど、お金は増えるからいいものだろ?」


 それから、一時間ほど当りは続いた、最終的に37,000発の回収になった、現金換算すると約15万はっきり言ってイカサマやゴトを疑われても可笑しくない。


「さてと、これで君の借金は元に戻り、僕のお願いを聞くことになった、間違いないかい?」

「煮るなり、焼くなり好きにしてくれ」

「なら、君の家に泊めてくれ」

「そんなもんでいいのか?」

「僕は今宿無しだからね、研究に没頭していたら家賃を滞納していたようだ」

「だから、んな大荷物だったのか」

 夜逃げという感想もあながち間違いじゃなかったのか。

「ざっくり半年ほど家においてくれ」

「は?」

「家の家賃が確か四万ほどだったな、そして君の借金が28万だから7ヶ月ほどか」

「いやいや、いきなり言われても困るが」

「別にいいだろう、付き合っている人間がいる訳でもないし」

「......わかんねぇだろ、もしかしたらいるかもしれねぇだろ」

「いや、いないさ、週に4日間8時間のバイト、休みの日にはパチンコを打っている、そんな人間に彼女がいるとは思えないのだが、どうだろう?」

 高橋は当たり前だろうという顔でこちらを見つめながらそう言った。

「ストーカーかよ」

「いや、ただの推測だよ」

「もう勝手にしてくれ」

 俺は今日1日でどれほど疲れれば良いんだ、確かにパチンコの話だけなら大勝して気分はいいが、賭けに乗るんじゃなかったって思っても手遅れか......

「おいおい、僕を置いていくんじゃないよ、こっちは荷物が大量にあるんだ、君も男なら少しはもったらどうだ」

「俺は疲れてんだ、さっさと帰って寝てぇんだ」

 キャリーケースをひったくり、無言で帰路につく。

「全く君は素直じゃないね」



「ようやく、眠ったのかな?当然か、疲れているのに荷解きも手伝ってくれていたし」


 君との出会いは今でも思い出せるよ、大学の講義で出会ったね、周囲になじめない僕に君は話かけてくれて、初めはなんだこいつと思ったが、話して会っていくうちに君に惹かれていった、だんだんと君との思い出が増えて、研究に行き詰まった時に連れていかれた場所も君との会話も全て覚えているよ、君からお金を借りたいと言われた時は驚いたが君を信用をして貸したが、半分返せたのに今日の事は意地悪が過ぎたかな?


 しょうがないじゃないか、金の切れ目が縁の切れ目というし、もしもこのまま君がお金を返していけばいつか僕と君の関係が終わってしまうと思うと不安なんだ。


「やはり、どうにも僕は手遅れなほど君を好いているみたいだ、村瀬君」

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大事な賭け 果実Mk-2 @kaji2

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