悪魔と名高い魔女の奴隷になったけど幸せです

でずな

お互い隠れてヤバいことをしてる



 私の両親は多額の借金を残し、この世を去った。

 その精算として生き残りである私は奴隷となり、体をお金に捧げた。

 牢屋のような場所で過ごし、味気のないカビたパンを口にする日々。



「ぁ……ぁ……」


 喉がカピカピ。鉄格子が二重に見えて、くらくらする。

 奴隷になってからどれくらい経ったんだろう?

 もう、いつか優しい買い取り主が現れると希望を持ちながら過ごすのは諦めた。


「おい。てめぇの買い取り主様が現れた。早くゴミ溜めから来やがれ」

 

「ぅ……ぅ……」


 もう何日もまともなご飯を食べてないから立ち上がる筋肉すらない。

 地面を這いつくばりながら、男の跡を追った。


「こちらが貴方様の求める奴隷ですが、見ての通り体は衰弱しており、心も疲弊しています。私共の奴隷商には、これ以外貴方様の条件に見合うものはありません。……以下がなさいますか?」


 男の前にいる女に目が奪われた。

 全身を覆い隠すのは青紫色の服。ボディーラインが綺麗な女性。

 あんま頭が働かないけど魔女みたいな、怖いオーラが漂っているのが伝わってくる。

  

「あら。そんなに私のことを見て、何か顔についてるのかしら?」


「ぁ……うぅ」

 

「んふふ。あなた、中々可愛い子じゃない。……でも親の都合で人生を狂わせられて、奴隷になったにも関わらず、抗うことをせず、自分の運命を受け入れるのはあまり気に食わないわ」


 何を言ってるのか全然聞き取れないけど、真面目な顔をしている。

 この人が私のご主人様になる人。

 優しい……のかな?


「あっはっはっ! 流石魔女と名高い高名なお方。力だけではなく、ユーモアにも溢れているとは。いやはや感服いたしました」

 

「お前は黙ってろ」


「はひっ」


 怖い目を男に向けて、私の目線に合うようにしゃがんで優しい目を向けてきた。


「君はどうしたいんだ? このままずっと地獄にいるのか、それとも何も知らない私のところについていき人生を賭けるのか」


「ぃぎたぁ……」


「そうか。わかった。じゃあ君の人生、私が貰い受けることにしよう」


 この後、意識が途絶え気づいたときにはフカフカなベットの上で横になっていた。


 それから周りから魔女と呼ばれることが多い、ハニ様にメイドとして雇われて……。



「んふふ。んふふ」


「なんで変な声出してるの? 洗濯物を干すのにそんな面白いことがあるのかしら? これは興味があるわ」


「いえ。違うんです。ちょっと昔、ハニ様に拾われた時のことを思い出してつい」


「ふ〜ん。でもそこには笑う要素なんて思うのだけれども?」


 ハニ様は窓からひょこっと顔を出し、私のことを訝しげな表情で見てきた。

 

 この方はまるで子供のように好奇心旺盛。なので、一つ疑問に思ったらそれが解消されるまで追求するような人。


「今のは笑っていた、というより顔がほころんでいた、と言った方が正しいかと思います」


「ふふぅ〜ん。なるほどなるほど。昔の記憶を思い出して、顔がほころぶ。ということはさっきしていた、私の服を嗅いで笑っていたのも顔がほころんでいたということか」


「ちょ! どこから見てたんですか!?」


「えっと……魔法で服を洗う前に、私の服をポケットに入れようか迷っていた時くらいかな」


「結構最初の方から盗み見してたんですね!!」


 恥ずかしい……。


「盗み見ではなく、外を眺めていたらあなたがいたっていうだけの話よ。そんな、いつも見てないわよ?」


「いつも見てるんですね」


「見てないわよ……」


「見、て、る、ん、で、す、ね?」


「………かもしれないわね」


 ハニ様の洗う前の服を、あんなことやこんなことをしていたのがバレてたなんて……。

 もう私は終わったかもしれない。


「いっそ殺してください……」


「急に物騒なことを言うのやめてちょうだい。別に、あなたが服をどうしたかなんて気にしていないわ。私もあなたが入った後のお風呂を、十分堪能させてもらってるもの」


「……え?」


 この人は何を言ってるの?

 本当だとしたら私よりヤバいことしてるんじゃ……。


「あっいや、もちろん飲んだりはしてないわよ? さっきも言ったけど、堪能させてもらってるの」


 そんなこと訂正されても見方は変えられない……。


 あまりのことに私が絶句していると、ハニ様は慌てて外に出てきた。


「いやぁ〜。うん。それなら、今日から一緒にお風呂に入ることにしよう。そしたらどんなことをしてるのかわかるし、安心してもらえると思うからさ」


「は、はぃ」


 結論から言うと、ハニ様はかなりえげつないことをしていた。残り湯をどうこうというより、もっとヤバいことを。

 絶句を通り越して、固まってしまったのは今でも忘れられない。


 今はお互いにお互いよくないことをしてたね、と謝ってこの件は解決している。最も、まだハニ様はお風呂場で堪能しているのかもしれないけど。


 実はここだけの話、一つハニ様に隠していることがある。

 それは、少し前に盗った服を返していないということ。ハニ様が言及してこないので、私も毎晩堪能させてもらってる。


 どんなこととは言えないけど、うん。

 この匂い大好き。


「んふふ」

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悪魔と名高い魔女の奴隷になったけど幸せです でずな @Dezuna

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