共同戦線(5)

 私とレイジは、功を競うように騎士団の先頭に立ってレナリア王国軍に襲いかかった。

 大盾では受け止めきれないほどの剣技、あるいは大盾をかいくぐって本体に攻撃を加えることで、相手の大盾部隊を蹴散らしていく。

 しかし、私やレイジだけが頑張ったところで、この戦線を崩すには時間がかかりすぎる。


「皆、私の戦い方は見ているな? 大盾を対処する方法はいくつもある。出された時点で動きを止めるほどのものではない!」


 背後の騎士たちに声をかけながら、私は戦場を縦横無尽に駆けまわる。私の姿を騎士たちへと見せるために。

 あれほど苦戦していた大盾部隊を、私が圧倒している。ならば、自分たちにだってやれないことはない。そう奮いたたせるように。


「ステラリア様に続け!」

「ステラリア様にすべてを任せるなよ!!」


 私の後を追ってきた騎士たちが、大盾部隊に取り付いていく。

 私の戦い方を目に焼き付けていた彼らは、これまで以上に自信を持って敵軍にぶつかっているように見える。



 私とレイジが最前線に出たことで、戦況はこちらの圧倒的優位に傾いている。

 だからといって、片時も油断することはできない。最前線にいる私は、いつどんな手段で命を落とすことになるかわからないのだから。

 だけど、それを恐れて後方に控えていることは、今の私にはまだできそうにない。



 堅牢を誇ったルナリア王国軍も、崩し方を知ってしまえばあっけないもので。

 攻撃を仕掛けたその日のうちには収拾がつかないほどに混乱をきたし、その翌日には大盾がただの重荷になるほどの対策を誰もがとれるようになった。


 その結果、ものの二日でルナリア王国軍は戦線を維持できなくなって本国へと逃走。

 ここに、イクリプス王国側の国境防衛戦は一応の終結を見た。


「グライン侯爵。父上と共にルナリア王国軍の残党が再度攻撃しないよう防衛をお願いいたします。我々はこれより、ポーラニア帝国側の国境防衛戦に参戦します」

「かしこまりました、ステラリア様。どうかご武運を」


「父上、慌ただしいお別れとなり申し訳ありません。いずれ落ち着いたらまた帰ります」

「ああ、そのときまで達者でな。……レイジ殿下、娘をよろしく頼みます」

「任せてくれ。この局面だけでなく、生涯をかけて守り抜くと誓おう」


 迷いのないレイジの宣言に、私は頬が熱くなるのを感じる。


「それでは。行こう、レイジ!」


 頬の熱を冷ますように、私は馬に飛び乗ってその場をあとにした。


 ---


 戦争状態であることをいいことに、私たちの騎士団はルナリア王国の国境を越えて平坦な道を駆けた。山越えよりはよほどスムーズに移動ができている。

 とはいえ、ここまでの戦闘で馬も人も疲れていた。


 それは、ようやくバスティエ伯爵領の砦が見えてきたときのこと。


「よかった、国境は無事のようね」


 私が目を凝らすと、砦の前には敵軍と思しき一団が並んでいる様子が見えた。砦の門は閉じられているように見える。

 ということは、国境はまだ無事とみていいでしょう。


「ありがとうございます、お嬢様……!」


 隣に控えていたクラリスが涙ぐんだ。

 砦を守り切れているということは、バスティエ騎士団の指揮系統が今なお生きているということでもある。

 クラリスの家族が生きている可能性は高そうね。


「安心するのはまだ早いわよ。国境は破られていないけど、ルナリア王国軍を追い払えてもいないのだから」


 バスティエ領を攻めるルナリア王国軍は相当な数がいるように見えた。今はなんとかなっていても、どれくらい守っていられるかは見当もつかない。


「戻ってレイジと作戦を考えましょう」

「かしこまりました。……お嬢様」

「なに、クラリス?」

「いつの間にか、すっかりレイジ殿下に頼れるようになっていたんですね」


 心に余裕ができたおかげか、そんな軽口まで飛び出してくる。


「……今まではそんなに頼ってなかったように見えた?」

「ええ。全部自分で考えて結論まで出して、相談というよりは報告していましたよね」


 ……そう言われるとそうかもしれない。

 レイジはあくまで私に難題を課して結果を受け取るだけであって、すべて私がしなければいけないと思っていたから。


「私にも心境の変化があったのよ」


 でも、今はそんなふうには思っていない。

 対等なパートナーとして、自分の意見をぶつけつつ、レイジの意見と合わせることで今までにない発想に至れることを知ったから。

 その時間がとても有意義で、心地よいものだと知ったから。


「さあ、きっとこれが最終決戦よ。心してかかりましょう」

「はい、お嬢様」


 はやる心を静めるように、私たちは無言で天幕へと向かう。

 決戦の時はすぐそこまで迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る