#2-2

 しばらくして彼女たちの飲み会は盛り上がりを見せていた。昔話に花を咲かせては手元の酒を勢いよく喉に流し込む。気が付けば電子レンジや冷蔵庫の中も荒らされていた。しかし華菜はそんな状況下で何もできずにいた。逆らえば殴られる。それがどうにも怖かった。


(こんなことなら護身術でも……いやそれだけじゃ絶対に足りないわよね)


 彼女の取り巻きは四人いた。よく見ると顔つきは変わっているがあの時のメンツと一緒だった。


「ずっと仲良しなの?」


「あ?そりゃそうよ、うちらトモダチだし?所謂ズッ友?」


 なんとなくの華菜の質問に酒で機嫌を良くしたモエカという太った一人の女性が高い声で華菜に笑いながら答える。


「あんたにはいないでしょうけどね」


 太った女性は即座に彼女にそう言って見せた。


「モエカー、それ言い過ぎよ。会社ぐらいならいるでしょ。友人とかさー。まあおっさんばかりだろうけどねこいつの場合。それも大半がケツ触ってくるようなやつね!」


 ゲラゲラ笑って今度は小さい痩せたのが声を上げた。彼女が別のビール缶を開けようとしたときうっかりそれが少し床にこぼれた。


「ちょっとメグ、酔いすぎじゃん!」


 酒を零したメグを笑うように金髪の女性がそれを指摘する。


「いいじゃんムツキ。どうせここコイツの家だし」


 今度は嘲笑するように指をさして肌の露出の多い服を着た女が笑い声をだした。


「マイ、あんた今日よく飲むわね?」


「まあな。明日バイト休みでさ。それにここからなら家近いから。といっても三駅くらいだけど」


「えーいいじゃん。ここ上がり放題で」


「だろ?てかこの家広くない?3LDKじゃない?」


 酔った足取りでマイと呼ばれた女性は椅子から立ち上がるとそのまま華菜の仕事部屋へ入っていく。


「ちょ、勝手に入らないで!」


「いいじゃんせっかくなんだからさー」


 マイは酒の息を浴びせながら華菜の部屋に無理に入り込む。


「うわなにこれ?ほとんどオフィスみたいじゃん!?」


「えーうそー?!」


 一同はそのまま彼女の仕事部屋に入り込んだ。


「うわテレワーク勢とか生意気。アタシとか毎日倉庫とか歩き回ってるのに……」


 いの一番に入ったマイは舌を打ちながらもその部屋の中にあった机の引き出しへ躊躇なく手を伸ばした。そして中にあった箱を見つけた。


「ちょっと勝手に開けないで――」


「いいじゃん別に……ってあれ?え?コレ!?」


 マイはその部屋で一人酔いがさめたかのようにしてその箱を開けた。中のアクセサリーを確認すると美沙を大声で呼んだ。


「美沙!やばいやばい!!」


「どうしたのよ一体?……ってそれ――」


 高く掲げられたそのネックレスを見た途端、それまで笑っていた美沙の表情は一変した。激昂の面で手のビール缶を握り締めて華菜を強くにらみつける。そして――


「テメェ!!」


 そのまま勢いよく華菜に突っかかって手で突き飛ばす。華菜はバランスを崩してその場に倒れ込む。


「なんであんたがこれ持ってるのよ!?」


 周囲は彼女の剣幕に押され、その表情が真顔へと戻される。


「な、なんでってこれは――」


「純也でしょ!?うちの旦那からでしょ!?」


 マイが手に持っていた箱を強引にとってそこに刻まれた番号を見る。確認を終えると美沙はゆっくりと彼女を睨みつけてそしてみぞおちに一発を放った。


「ちょっと美沙?それはやばいんじゃ――」


「マイは黙ってて!こいつ、浮気しやがった!」


 言いがかりをつけて続けざまに蹴りを浴びせてそのまま平手打ち。数発を叩き込むと美沙は華菜の胸倉を掴んでリビングの中心に放り投げる。


「不審に思ったのよね、他人の子供を預かるほどのお人よしなんてさ。そんな度胸ないと思ってたけどさ!」


 怒りのままに拳を、足を華菜に振るい続ける。


「あんたは一生奴隷みたいにふるまっていれば良かったのに!コイツめ!こいつめ!」


 そしてとどめと言わんばかりに近くのビール缶の残りを崩れ落ちた華菜に浴びせた。


「うわぁ、そこまでやる?てゆーかこのアクセって確か――」


「マイの予想通りよ。それにいいのよ。それにここコイツの家だし――」


 リビングに戻るとそのままテレビの上にあった小道具類を手に持った鞄を振り回してはたきおとす。


「や……やめて」


「黙って這いつくばってろこのくそ女が!!」


 渾身の力で華菜に平手打ちをぶちかまし、立ち上がろうとする華菜は再び地面に崩れ落ちた。


「……帰ろ。こんなクズの家で酒なんて飲めないわ。そうでしょ?皆」


 しばらくして美沙は華菜の家の鍵を乱雑にぶん投げる。鍵は床に高い音を立てて落ちた。そして何かが取れたかのように美沙は大笑いで家を出た。続けざまに彼女の取り巻きは彼女に罵声を浴びせながら酒の残りを床にぶちまけて帰っていった。


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