第15話 残ってしまった遺物
モファナの魔術によって傷は完治したとはいえ、体を剣に貫かれたのだ。結局モファナの言う通り大事を取って、その後は仕事をする事なく体を休めて一日を終えた。
「あれ……? おかしいな……」
そして、襲撃を受けたその日の夜。
棚の引き出しを開けたまま、シュネスは首を傾げる。
「どうしたの、シュネス」
シュネスのベッドで寝転んでいたモファナが起き上がって不思議そうに尋ねた。ちなみに彼女はシュネスと一緒にいると言って聞かないものだから、しばらく一緒に寝る事になった。3日は離れないだろうというマストの見立ては当たりそうだ。
「何か探してるの?」
「守り屋に入れてもらった時にお祝い金って、金貨7枚貰ったじゃない?」
「うん。シュネスが試験でぼくから盗ったアレだよね」
「それがね、何度見ても6枚しかないの。部屋中探したんだけど……」
シュネスの物探し能力は相当なものだ。森で小さな魔道具を見つけた時もそうだったが、光っていたり金になりそうな物は特に目ざとく見つける。そんなシュネスが探しても無いというのだから、この部屋には無いのだろう。
「どっかで使ったんじゃない?」
「ううん、この7枚は思い出として使わないようにしてるの。お守りとしていつも1枚持ち歩いてるから、落としちゃったのかな……お金の落ちる音は絶対聞き逃さないと思うんだけどなぁ」
「……もう驚かなくなったけど、やっぱりシュネスすごいよね……」
無いものを探しても仕方がないので、今日の所は諦めて寝る事にしたシュネス。暇が出来たら街中を探してみよう、と金貨に対する異常なまでの執念による意志を固めつつ、モファナとベッドに入った。
「ねえシュネス。ほんとに体大丈夫?」
「それもう十回目だよ? 何ともないってば」
心配してくれるのは嬉しいけど、とシュネスは苦笑を浮かべる。
モファナはいつもマイペースでひょうひょうとしているが、根はとても仲間想いのいい子だ。シュネスは自分が死にかけた事で、彼女の意外な一面を見れて少し嬉しかった。だからといってもう剣に刺されるのは御免だが。
「……それならいいんだ。おやすみ」
「うん、おやすみ」
同じベッドに入って、二人の少女は目を閉じる。どんな環境でも寝れる体になっていたシュネスは寝るのが速い。快適なベッドの中では特にだ。もう既に寝息が聞こえ始めた。
シュネスとは違ってすぐには眠れないモファナは、視線だけ向けてシュネスの寝顔を眺める。
モファナがこんなに心配しているのは、なにもシュネスが剣に貫かれたからだけじゃない。もちろんそれも大いにあるが、それ以上に心配なのは、あの大爆発についてだ。
(シュネスには間違いなく、あんな大魔術を使えるような魔力は無い。というか、あれはたぶん
あの爆発がシュネスによるものだとは、ひとまず伏せておく事になった。あれだけ森を吹き飛ばすほどの力だ。その気になれば人の命など容易に奪えてしまう謎の力が自分にあると知れば、優しいシュネスはきっと思い詰める。だからこそ伝えるのは慎重になる必要があると、三人で決めた。
モファナが防御魔術で盗賊たちを守ったのも、盗賊に対する慈悲では無い。もしシュネスが爆発は自分が引き起こしたものだと知った時、人を殺めてしまった事実に押しつぶされないように、というモファナの咄嗟の考えによるものだった。
(誰も知らない不思議な力。あれは何なんだろう)
戦う術が欲しいというシュネスの願いは切実だったし、クロジアに魔道具の相談をする彼女の心に嘘偽りは無かった。シュネス自身も、自分のチカラに自覚がないのだ。
(……ほんとに不思議だね、きみは)
ぐっすり眠るシュネスの寝顔を見ていると、モファナにもようやく眠気がやって来た。
謎を謎のまま放ってしまうのもモファナの短所――本人曰く特技だ。考え事もそこそこに、彼女も眠りについた。
* * *
「……なるほど、そんな事が」
二人が寝静まった守り屋の一階リビングに、三人の人物が机を囲んで話をしていた。
ルジエ、マスト、そしてクロジア。遠隔通信の魔道具を使って今日の出来事を説明し、絶白の森から来てもらったのだ。
「恨みを持った小悪党が襲って来るのはいつもの事だけど……やはり不思議なのは大爆発と、土の剣の魔道具か」
マストから受け取った魔道具を指でつまむクロジア。一見するとただの黒い小石。だがモファナが言うには魔力を感じるらしく、魔道具職人のクロジアから見ても、これは魔道具で間違いなかった。
「少なくとも、爆発の方はこの魔道具と無関係だろうな。爆発音がコマサルまで響いたって話だし、このサイズの魔道具でそこまでの威力を出すとなると、少なくとも百個はいる」
「……じゃあやっぱり、あれはシュネスちゃんがやったのかしら」
「なんなんだろうなぁ、あの力」
魔術でもない、魔道具の影響でもない、謎の大爆発。危険人物としてシュネスを連れて行かれても困るので、警備隊には『盗賊がしかけたと思われる魔道具が起爆した』とだけ伝えておいた。なのでこの謎を解明するとしたら、身内だけで行う必要がある。
「まあ、分からないものは分からない。今は分かりそうな方から解き明かしていこう」
そう言い、クロジアは腰のポーチからいくつか道具を取り出しつつ、確認するように二人へ尋ねる。
「シュネスが刺された時、周囲には誰もいなかったか?」
「ええ。盗賊らは全員気を失った後だったわ」
「俺たちを見てるヤツがいれば気配で分かる。あの場にいたのは確かに俺たち四人だけだった」
「物凄く遠くから操作してたって可能性も捨てきれないけどね」
「なるほど……」
この魔道具は周囲の土を集め、剣を形作った。そしてひとりでに浮遊し、一番近くにいたシュネスの背中へ突き刺さった。恐らくそれが一連の流れ。
「周囲の素材を集めて武器を作る魔道具は珍しいが、無いわけでもない。それと胸の高さまで独立して浮遊し、体を貫く勢いで飛んで来るのも、一連の流れを細かく設定していれば……まあ不可能ではない」
「『不可能じゃない』なんて言い方するって事は、相当難しいの?」
ルジエの問いかけに、クロジアは頷く。滅多に動かない彼の表情だが、今回ばかりは難題に直面したかのように眉をひそめていた。
「武器の形成、そして無人攻撃。仮に遠隔操作だとしても、こんな小さな魔道具にそこまで細かい工程を組み込む事は出来ないはずだ。長剣を土から作るとしても、必要な魔力量を考えるとこの魔石じゃ小さすぎる」
クロジアは魔道具を指で叩く。
「原動力となる魔石。そこから魔力を必要な箇所に必要なぶんだけ供給する回路。そして、設定した通りの効果を働かせる部品。魔道具に必要なそれらの内部構造がこの石ころサイズに凝縮されてるとしたら、これは俺以上の技術者が手掛けた魔道具だろうな」
「マジか……そんなヤバいものを、なんであの盗賊が持ってたんだ……?」
「彼らの裏に、技術や魔道具を提供している職人がいるのかもしれない。守り屋で言う俺のような」
クロジアは黒い石のような魔道具を、その場で慎重に解体し始めた。
もし彼の言う通り、盗賊連合団の裏にクロジア以上の魔道具職人がいるのなら、更なる脅威がやって来る前に対策を取る必要がある。戦闘力においては敵なしかに思える守り屋だが、今回のように妙な不意打ちをされると怖い。
クロジア本人としても守り屋がやられるのは困る。そして何より、そんな守り屋の新人であるシュネスが今回被害に遭ったのだ。魔道具の修理や開発など山積みになっている仕事を後回しにしてでも、クロジアはここで謎を解き明かすつもりでいた。
「……ッ!?」
だが、その手はすぐに止まった。怪訝に思って手元を覗き込むルジエとマストだが、中身がさらけ出された魔道具を見てもさっぱり分からない。
「これは……
そう呟くクロジアの顔は、それなりに付き合いのある二人でも初めて見るくらいには、驚きの色が現れていた。
「どした? 何かヤベェの?」
「……人工遺物――アーティファクトという言葉は、聞いた事あるか?」
「え、ええ。旧時代の物品だったり、技術の事よね」
「ああ。そして、端的に言うと恐らく、この魔道具がそうだ」
三人の視線の先にある物体。その中身を見て、ありえないはずのその意味を理解出来た者は、クロジアだけだった。だから彼は、その実態を声に出して二人に伝える。
「
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