第二十六集 幽霊の声
「依頼を持ってきてやったぞ」
「……え、
「なんだ、悪いか」
「いえ別に……」
冬の合間に訪れる陽気に目を細めながらお茶をたしなんでいた
「その恵まれた容姿と筋肉で解決できないことなどそうそうないでしょうに」
「お前は俺を何だと思ってるんだよ。依頼人は俺じゃない。友人だ」
「ああ、朱燕軍の幼馴染さんたちの誰かですか?」
「いや、
「将軍仲間ってやつですか」
「
「そんな聡明な方がわたしに何を依頼したいと?」
「なんというか、
「夢のようなもの?」
「どうやら、その……、幽霊? みたいなやつは実体があるようでないようで……」
「はあ」
「とにかく、一度相談に乗ってやってくれないか。一か月後には遠征に出てしまうんだ。今のうちに解決してやりたくて」
「いいですよ。わかりました」
「じゃぁ、さっそく明日頼む」
「今日は駄目なんですか? わたし暇ですよ」
「いや、
「……
「うっ。よくわかったな……。そうだ。あいつもまだ独身だ」
「最近の若者は晩婚化が進んでますねぇ」
「お前もいずれそうなるだろ」
「失礼な!」
「まったく。困った男ですね……。はっ!」
翌日、
琳家と朱家は同じ規模の軍を擁しているとはいえ、その立ち位置的なものは少し違う。
琳家の夫人は長公主、つまりは、皇帝陛下の姉妹なのだ。しかも、宗室。
陛下も長公主も太皇后から生まれた正当な血統ということ。
皇帝家とのつながりは朱家よりも強く、その分、しがらみも多い。
苦労の絶えない家なのだ。
「おお! 来たな」
「
「……様なんてつけるのやめろよー」
「あはははは。わかってるよ。ちょっとからかっただけだ」
「いいから、二人とも早く入ってくれ」
末子であるが、幼い頃は身体が弱かったため、長公主の願いで近所に建てられたのだ。
「とても風情のあるお
建物に取り囲まれるようにして存在する庭はとても手入れが行き届いており、季節に合った植物が誇らしげに咲いている。
邸自体も、床や梁、柱は艶やかな光を内包しており、大切に住まわれているのが想像に容易い。
「ありがとう、
「もちろんです。好きにお呼びください」
「この庭は父上の趣味でね。うちは四人兄弟なんだが、全員の家の庭の草木はすべて父上が選んでいるんだ。まったく。戦場で見る鬼のような姿とは正反対だよ」
「
「それはすごいですね」
「そんな、十年以上前の話だよ。今はただただ顔が怖い強いおじさんって感じ」
「仲がよろしいんですね」
「まあね。そういえば、
「うっ……」
「聖域とやらを追い出されたのかぁ。大変だな」
「愛の鞭ってやつらしいですけど、酷いですよね」
「まあ、いいんじゃないか? 楽しいだろう、人間と関わるのも」
「それはそうですけど」
話しているうちに部屋へとたどり着いた三人は、用意されていたふかふかの座布団に座り、向かい合った。
「それで……。なにやらご相談があるとか」
「
「……そのようですね。力があるのがわかります」
「やはり……。それで、最近困っているんだ」
「なにやら、実体がある幽霊だとか」
「そうなんだよ。女性だとは思うのだが、毎夜現れては『気づいてください……、助けてください……』と言われるんだよ。一度なんか身体を揺さぶられてね。さすがに怖かったよ。でも、居場所を聞こうとすると
「ううん。それは妙ですね」
「だろう? 困っているのなら助けてあげたいのだが……」
「……今夜泊ってもよろしいですか?」
「え? いいのか⁉ むしろ、こちらから頼もうと思っていたところだ」
「おそらく、その女性の周囲、というか、行動範囲にいる頼れそうな霊能力者が
「なるほど。では、その女性を救いに行けるんだな?」
「本当に困っているのであれば、はい。ただ、
「なぜだ」
「霊能力というものは、己の中で肯定すればするほど強まっていってしまうものなのです。今はこの程度で済んでいますが、もし幽霊と関わり続けたら、四六時中彼らの声が聞こえるようになってしまいますよ」
「な、なるほど……。たしかに、幼少期視えはしても聞こえなかったのに、成長するにつれこうなってしまったからな……。わかった。私は手を退こう。ただ、手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれないだろうか」
「もちろんです。あ、
「え、俺は幽霊とかまったく視えないからいても無意味だぞ」
「呑もう! せっかくだし」
「それなら泊まらせてもらおう」
「どうぞお二人は飲酒してください。わたしは楽しくお仕事しますのでっ!」
「拗ねるな、拗ねるな」
「ほら、お前も行くぞ。なんでも好きなもの作ってやるから」
「……それならいいですよ」
酒は飲めないが、
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