第二集 大事な生活
「そういえば、今日の私のお仕事はなんでしょう?」
「いつも通り、
「毎度毎度、よくもまぁ、都周辺に出ますねぇ」
「戦国の世だからな。本来なら善良なはずの木霊が、人間の無念の残滓や悪意を吸い込んじまうんだよ。それが動植物や昆虫に憑依するもんだから、
「それくらい知ってますよぅ」
「……ああ?」
「なんでもないです」
ただただ、怖い。
「お腹いっぱいになったらきっと私のこと怒らなくなりますよ」
「……もう溜息も出ない」
昼時だから混んでいるが、
「今日行ってもらう所は
「え、
「俺は軍議がある。兄上が放っている間者たちの報告で、近々、クハルゥ族が馬市を開くらしくてな。慎重に動く必要があるんだ」
「ああ……。なるほど。それについて朱燕軍に何も連絡が無かったんですね?」
「まぁ、そういうことだ。うちは文官……、特に兵部の奴らに嫌われているからな」
「馬市は軍馬調達にはうってつけの催し物ですからね。そうなると、もし馬市を開くことを知らずにクハルゥ族と戦闘になれば、陛下の御不興をかうどころか、国家間の問題に発展。朱燕軍は解体され、朱侯府も没落することに」
「卑怯だよなぁ、本当に」
「もしこれから馬市の連絡がきたとして、護衛の任務を頼まれても、兵部とクハルゥ族が結託して朱燕軍を攻めてきたら、大打撃を追うし、きっと兵部は『朱燕軍が勝手に動いた』とかなんとか陛下に報告するでしょうね」
「その通り。大長公主 (上皇の姉妹)の祖母がなくなって三年。兵部は攻勢に出てきたってことだろうな。お祖母様はとても人徳があり、国民から慕われていたから、朱家には手を出せなかったんだろう」
「まったく、朝廷はドロドロですね」
「まぁな」
二人で話していると、良い香りが近づいてきた。
「お待ちどう、若様。軍医さん」
「ありがとうございます」
熱々の牛肉麺を受け取ると、机の真ん中に置かれている筒から橋を摂り、美味しく食べ始めた。
「ふあぁ、美味しい。あ、もし
「わかった。お前が来てから毎日風呂に入れるようになったから、屋敷のみんなが感謝している」
「そうでしょう、そうでしょう! 聖域で買った
「本当に不思議な種族だな、
「なんですかどういうことですか! わたしがただの美少年でがっかりしましたか!」
「何が美少年だこの野郎。……まぁ、顔がやたらと綺麗なことは否定しないが」
「ふふふん! 両親が素敵な容姿に産んでくれましたから! でも、なぜ
「はあ? そんなの、武人なら普通だろ」
普通ではない。
「聖域とやらでは人気があるならいいじゃないか」
「……は? そんなことないんですけど」
「え?」
「聖域には必ず
「そ、それは……、その、まぁ、な」
「ぴぎぃい!」
悪気はないが、
そう。人は自分が経験したことのない事象についてはうまく説明できないものだから。
「好みは人それぞれだからな。未来を信じろ。な」
「……けっ」
「では、わたしは気を取り直して
「これ、持って帰っておいてください」
「重いからだろ」
「いえ?
「耳障りの良いこと言ってごまかしやがって。お前の部屋に置いておくからな。俺は薬草についてはよくわからないから仕分けとかは無理だぞ」
「大丈夫です! 仙術で鮮度を保てるようにしてあるので。帰宅したら自分で干します」
「わかった。じゃぁ、気を付けて行けよ」
「了解!」
都から出る門は東西南北にあるが、今いる場所からすると、北の門から出るのが一番早い。
北門は目の前が山なので、都合がいい。
「……よし」
結晶化した桃の木で出来た
空を飛ぶのも、仙術を使うのも、戦うのも、薬の調合にも使うまさに相棒。
「さぁ、行きましょうか。
ここは人間にとっては少し険しいが、山向こうにある鉱山がある州と都を繋ぐ道だ。
使えなくなれば、経済が滞る。
「頑張るか」
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