宇宙船《はこぶね》

***

メリカとノーマが去った後、宇宙船はこぶねが墜落した場所には誰もいなかった。ただ、おびただしい数の死体が積み重なっていた。

その死体が動く。

死体が起き上がる。

死霊だ。彼らは生きていた。死んではいない。

地球外生命体だ。

彼らはビホルダーと呼ばれていた。

ビホルダーは宇宙服を着て、ヘルメットのバイザーを上げた。地球人には見分けのつかないビホルダーたち。彼らが地球外生命体だと知るのは地球人だけだ。

「我らが母なる地球よ、また会う日も遠くないだろう」

彼らは地球脱出教団メフロンティア

ビホルダーは地球での生活に満足していた。彼らにとって地球は住みよい世界だった。大気は酸素に満ちていて呼吸ができた。

地球は彼らの文明より進んだ科学力を持っていた。彼らは地球で学び技術を学んだ。しかし地球の環境に適応できなかった。彼らの遺伝子には地球人の遺伝子情報が含まれていた。その遺伝子情報によりビホルダーたちは、あらゆる疾病や障害に冒されていた。彼らは地球の医学で救えない病人だった。

地球は彼らを拒絶しなかった。地球は彼らを温かく迎え入れてくれた。地球は彼らを理解しようとしてくれた。地球はビホルダーたちを、愛してくれる。地球が与えてくれるのは安らぎと平穏だけだった。ビホルダーたちが望むものを与えてくれていた。地球はビホルダーに優しかった。だから地球を愛していた。

地球には、まだ知らないことがたくさんある。それを知れば地球はさらに優しい存在になるはずだ。地球を、もっと理解したい。いつか、きっと。

いつか必ず……。

※ ドラゴンフライは墜死した。メリカとノーマが生きている可能性はない。それでも二人は再会できたのだ。奇跡に近い確率だが、これが二人の出会いを祝福していると信じる者もいた。二人を悼む者もいる。そして今日もまた、新たな犠牲者が宇宙船はこぶねに乗り込む。


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