第6話
第六話
ようやく見つけた。目の前には咲夏ちゃんと黒髪の男が手を繋いでるところだった。なんだ、いい雰囲気じゃん。そう思って胸がなんだか痛むのを感じた。咲夏ちゃんは笑っているように見えるけど。
ちょうどトイレに入ったので私も行くことにした。なんと咲夏ちゃんはトイレをせずに手をよく洗っていた。
「咲夏ちゃん……。」
「わっ!!雨季ちゃん!!なんでいるの?」
後ろから声をかけるととても驚く彼女。彼女は笑顔で対応してくれるけれどなんだか元気がない様子。
「金曜日咲夏ちゃんの様子が気になったから来た。大丈夫?手繋いでたよね?」
「うん、大丈夫。」
鏡越しの少し困った顔で答える。こんなの心配だよ。
「本当に大丈夫?無理してない?」
君の娘がママが大丈夫って言う時は大丈夫じゃないって言ってたから。
「この数日、ずっと連絡が来ててわたしのこと好きだって言ってくれてる。相手の気持ちに答えられないのに手を繋いでる私は最低なの。」
涙目で話してくれるけど、ここはトイレで変に注目を浴びるから場所を移したいところ。
「ちょっと移動しよう!」
自分の帽子を咲夏ちゃんに被せて手首を握り、強引に連れ出す。トイレに出ると黒髪はスマホを触っていてこちらに気付いてなかった。
トイレの場所から結構離れて薄暗い場所に移動する。ここなら顔も確認しづらいしわかんないだろう。被せた帽子を取りまた自分で被る。今度は帽子を前向きにし深く被る。あ、髪の毛が乱れちゃったね、ごめんねと心の中でつぶやく。
「さっきの話だけど、咲夏ちゃんは最低じゃないよ。付き合ってもないのに咲夏ちゃんの気持ちを察せず、手を繋いでくる人の方が悪いの。」
互いに目の前に広がる水槽の中に魚達に視線を向けてまま話をする。
「そんなことないよ。わたしがはっきり断らないから。流されたままだから。」
そうやって自分が悪いと責める。この子は誰にでも優しい。自分より他人を優先させるタイプ。
「全部自分のせいにしてると心が死んじゃうよ。このままさ、私と一緒にどこかへ……」
ふと咲夏ちゃんを見ると眉を下げて困った顔をしてしまっていた。本音を聞いて気持ちが昂って勝手な言動をしてしまった。本人に意思を聞かずに連れ出したことに罪悪感が芽生え始める。困った顔をするということはつまり、迷惑ってことだろう。
「ごめん、勝手に連れ出しちゃって。戻ろっか。」
私はこう言うしかなかった。この場所からすぐ逃げたくなった。咲夏ちゃんの中で私は重要な……大切な存在じゃないんだ。自分の言葉で動いてくれると期待してしまった。季星ちゃんの言葉を間に受けて……。少しは考えるべきだった。
「うん、そうだね……。ごめんね。」
謝られたことにより余計に虚しくさせ、私は水族館を後にした。
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