第9話 HP:ゼロとビショップの鑑定

早朝、宿屋を出て、さっそく「寺院」に行って鑑定してもらう事にした。身分証明書ステータスプレート無しでは生活が困難らしいしな。


寺院には「鑑定」の専門受付があり、ステータスプレートのオールゼロ表示を見せて「故障…」と言うと、すぐに待合室に通された。良くあるトラブルらしい。


「お困りだったでしょう」


と、カウンター越しに鑑定師が言う。

プレートと本人をそれぞれ鑑定し、プレートの誤表示を確認したら新しいプレートに交換してくれるらしい。プレートは徴税にも使われており、国から補助金がどうたらこうたらと丁寧に説明してくれた。

まずはプレートの鑑定だ。


「高いところから落としました…」


プレートを差し出すと、表示を確認する。

名前は表示なし。

数値はオールゼロ。


さて、ステータスプレートの異常表示についての鑑定は終了。

続いて、俺自身の鑑定。ここで問題発生。


「では、ステータスを鑑定します」


名前→なし。

魔法・スキル・称号→なし。

ステータス補正→なし。

HP→なし。

MP→なし。


まずチートなし。これはしょうがない。チートとはズルだ。無くて普通。

そして魔法やスキルが無い。これもこの世界の一般人モブとしては普通だそうだ。

ここまでは受け入れよう。俺も元々凡人モブだ。そんなもんだ。


問題は「ステータス補正なし」だ。

この世界では全員が神のギフトとして「ステータス値」を持ち、その恩恵を受けているという。

俺はステータス値オールゼロ。つまり…余裕で世界最弱確定。

世界最底辺のゴミ虫、それが俺。…受け入れたくない。


そして、それをさらに上回る大問題なのが、HPゼロだ。

MPゼロはわかるよ。魔法もスキルも使えないし。

HPゼロってどういうことよ。ちょっと意味が分からない。

故障の誤表示じゃなくて、ガチで俺のHPがゼロってことか?


鑑定師君が、解説してくれる。

「HPゼロだと、まあ、普通死にますよね。」

わかる。普通そうだよね。すごく理解できる。

「HPゼロでも動いてるのは、ゾンビとかスケルトンとか…まあアンデッドですね」

わかる。普通そうだよね。すごく理解できる。

「副業で鑑定師やってますが、私、この寺院の司教ビショップでして。アンデッドを浄化できるんです。」

ゾンビ、チガウ!オレ、ニンゲン!

なんか俺、モブより弱いクソ貧弱な上に、アンデッド疑惑までかけられちゃって笑える。どうしてこうなった…。


鑑定師君もとい司祭様が、浄化魔法の詠唱を始める。ウソだろ俺成仏しちゃう…。

すごいピンチなんですけど!


***

(注)

主人公は、最後までのままです。

本作品は「チート無双」とは対極の物語となっております。

***

脚注 「寺院」

「神」を信仰する宗教の寺院。信者は人間族の割合が多く、そのため聖職者も多くは人間族。一神教。というか多神教という概念がこの世界には無い。

鑑定や解呪、浄化などの窓口があり、国からプレート再発行業務の委託を受けている。そのため信者以外の利用者も多い。宗派は「主流派」と「不可知派」におおきく分類される。宗教のシンボルマークは漢字の「神」。

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