第5話 しゃべる犬の伝説
この世界はえらく平坦だ。視界良好ならば恐ろしく遠くまで見通せる。
戦死した衛兵が守っていた関所の物見やぐらに登ると、背後に俺が流れ着いた大河、大草原、前方におそらく都市と思われる城壁が遠くに見えた。
ゴブリンたちはその都市に向けて進軍していったのだが、背の高い草に紛れてもう見えない。あんな大軍なのに!
小柄で緑色のゴブリンを、見張りの衛兵は見落としたのだろう。そして、接近を許した。伝令の騎馬兵が必死に逃げながら街の城壁に向かっているのが見える。大丈夫だろうか。
ともあれ、腹が減った。やっぱ朝食抜きで登校しちゃダメだな。
関所の小屋に入る。
お?軍服のズボンがハンガーに掛けて吊ってあるな。
俺の変態的ビジュアルを隠すために、拝借させていただこう。
下半身が隠れれば、ずいぶんマシになる。
…待て、ステータスプレートの確認を忘れるな。
検索…赤点アリ!いた!ゴブリン1匹!
まあ、占拠した拠点に、連絡員くらい残すよな普通。
小屋内部にいるゴブリンの留守番兵を目視確認。
戦う?無理だよ。俺は弱いんだ。逃げるしかない。
怯えながら様子を見ていると、小屋の中のゴブリンが棍棒で犬を激しく殴打している。抵抗できない相手をタコ殴りにするのが好きなのか、このクソゴブリン野郎。あーこいつ、さっき見たぞ。衛兵の勇者氏の背後から攻撃して致命傷を与えた、あのゴブリンだ。棍棒のイビツな形。衛兵の血糊。おぼえてる。
わかった。理解した。
お前らゴブリンが俺のこと「弱い」からと無視するなら、上等じゃねえか!
「空気」の恐ろしさ、わからせてやるよチクショァ!
なめんじゃねえぞコルァ!
俺は長剣を腰だめに構え、助走をつけて体重を乗せ、ゴブ野郎に体ごと背後からぶつかった。…偶然。運よく。ゴブリンの首筋…うなじに剣先が綺麗に刺さり、ゴブ野郎は死んだ。
勝利のファンファーレは鳴らなかった。
…犬は大丈夫か?
良かった、死んでない。よろめきながらこちらを見る犬。
犬「ありがとう。助かった。」
…犬がシャベッタァ!
あれか、こっちの犬はしゃべるのか?
「忍勇」の忍犬みたいなアレか?ヤベー。
あの衛兵さんの飼い犬だったのかな。
俺「衛兵さんは亡くなったよ」
俺は彼の遺品である長剣を見せる。
犬「!…そうか…彼は我が部下の中でも最も優秀だった…」
意外!犬が上司!
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