第4話 死

衛兵「ここは通さんぞ!」


進撃のゴブリン集団を追跡すること小一時間。

遠くの関所らしき場所で衛兵らしき人物が叫んでいる。

ゴブリンの群れと対峙しているのだろう。


日本語だ。顔つきも日本人っぽいのに、服装がゲームの登場人物みたいないでたちなので、コスプレにしか見えない。

関所の建物から騎乗した兵士が飛び出し走り去る。おそらく伝令だろうな。

最初に出てきて叫んでいた衛兵は、吶喊とっかんしながらゴブリン軍先鋒に斬りつける。


衛兵「ゴブリンども!俺が相手だ!でやぁぁ!」


伝令を行かせるためにオトリになったのだろう。わざと目立つように叫んでいる。

超人的な動きでゴブリンを斬りまくり、時折「必殺技」のようなものを繰り出している。勇者という言葉がふさわしい姿で、気を放ちながら戦っているが、所詮は多勢に無勢。次第に劣勢になっていく。

おびえながら遠巻きにそれを観察する俺。

イヤ、あんなの無理だよ怖すぎる。巻き込まれたら一瞬で吹き飛ばされて即死だ。俺は貧弱なんだよ。やべえ腰抜けた。


衛兵「そこの君!危ない!逃げるんだ!」


衛兵の勇者氏が叫ぶ。

俺?俺のこと?

俺のことはお構いなく!

ちょっと腰が抜けて動けないだけ。


衛兵「今のうちに逃げるんだ!早く!うおおぉぉ!」


ああダメだ!彼は死ぬ気だ…捨て身の攻撃を続けて、傷を増やしている。

そして…背後から棍棒の一撃を受け、致命傷。

動けなくなった衛兵の勇者を打ち捨て、ゴブリン軍団は進軍を再開する。

俺は取り残された衛兵のもとに駆け寄る。


俺「大丈夫ですか?」


…傷が深すぎる。もはや瀕死ひんし状態だ。

俺には回復アイテムも回復魔法も無い。できることは無い…。


衛兵「おお君か。無事で良かった」


俺のことはどうでもいいよ。

回復アイテムとか持って無いの?


衛兵「私はもう無理だ…君に頼みがある」


首から下げたステータスプレートを外しながら、衛兵の勇者がつぶやく。

おいあきらめるなよ。なんか方法あるだろ?


「家族に、これを…」


首から外したプレートを俺に押し付け…もう動かなくなった。

…この死はゲームじゃない。現実だ。

コスプレじゃない。現実だ。

彼は強かったが、結局のところ戦いは数だ。最後は背後からの一撃だった。

ひどい。…ファンタジーの世界なんだから、蘇生そせい魔法とか無いのか?ちくしょう。


「お前ら、ふざけんな!」


俺は石を拾ってゴブリンに投げる。命中!…したが、全く効いておらず、ゴブリンたちは俺たちを無視して進軍していく。

くそ!


俺は大きめの石を拾い、ゴブリンどもの背中を追いかける。


「無視すんじゃねえぞ!この!」


石をゴブリンの後頭部に振り下ろし命中!

しかし全く効かなかったのか、ノーリアクションでそのまま走り去るゴブリン。


「チックショー!ふざけんな!うぉぉおお!」


叫ぶが、ゴブリンどもはだれひとりとして反応せず、去っていく。

おいおい、俺が弱すぎて、相手にならないから無視するってのか?

ふざけやがって!


俺は衛兵氏から渡されたプレートを確認する。

首から下げるストラップが付いている。

「名前:マモル」

「HP:0」と表示されている。マモルは衛兵氏の名前だろう。

死んでいる、ということか。


この世界で初めて知り合った人間である衛兵の勇者氏は、出会って早々に亡くなってしまった。

この世界はゲームじゃない。現実だ。

そして・・・俺の事なんか気にして、救おうとして死ぬなんて・・・

重すぎるよ。なんだよ。「助けて」なんて頼んでないよ。

なに勝手に助けて死んでるんだよ。重いよ。


あー、でも俺も同じか。

用水路に流されてる小学生を勝手に助けて、勝手に死んだんだからな。

小学生を助けられて良かった、と思ってたけど…あの助けたガキからすりゃ、やっぱ重いよな。勝手に助けて、勝手に死にやがって、ってな。

これが業ってやつか。

クッソ、彼の遺品を家族に渡す、そのくらいのお使い、やりとげなくちゃな。


俺は彼の遺品となる長剣を拾い、ゴブリン軍団の跡を追い街に向かう事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る