第5話 幻の記憶と思い出のピース

私達は、自家用クルージングで、旅に出る事にした。




「流石にお金持ちのお嬢様だな。船を持っているとはな」


「私は好きじゃないよ」

「えっ?」


「やっぱり、人数の多い方が私は好きかな?大型船クルージングの方が私は好き」


「そうなのか?」


「うん…まあ、静かに出掛ける旅もいいけど」




私達は色々と話をしていた。





それから月日は流れ、一ヶ月が過ぎ―――




「雄史」

「何だ?」

「雄史は彼女いないの?」

「彼女?いない」

「じゃあ、立候補しようかな?」



「立候補?するか?でも、あいにく候補者が多過ぎて選ぶには厳選な抽選だが?」



「えっ?どれだけいるわけ?」

「嘘だ」

「えっ…?…嘘!?」

「真に受ける所、本当、お嬢様だな」

「そうとは限らないよ」



「まあどちらにしろ、候補者はいない…でも正直な所、女は面倒だし、いらない方が正しい使い方かもな」


「えっ?どうして?」


「…2年前…愛する女は死んだ」



「………………」


「えっ…?」


「それから恋をするのは辞めた。あれから2年…月日が流れ空白のまま…」


「思い出だけ心の奥にしまって今を生きているんだ」


「…どうだろうな…」




「そうでしょう?だって人は思い出だけ残して死んじゃうんだよ!思い出が1つ減る度に別の思い出が増える。思い出は新しいものが増えていって、どんどん積み重なってく…心の扉の奥にしまってあって…時々、思い出す度に、その扉の鍵を開けて、扉を開くの……」



「………………」



「…ごめん…私…」

「いや…別に構わない」



「………………」





それから私達は雄史のマンションに行く事にした。


まだ屋敷は危険過ぎるからだ。


両親が私に遺した代物の件は雄史の口から聞いた。




更に1か月後――――




「ねえ…雄史…海に行かない?」


「海!?1か月前、嫌という程、見ていたのにか?お前は、どれだけ海が好きなんだ?人魚姫か魚の生まれ変わりなのか?」



「あのねー!顔に似合わず冗談を真顔で言うの辞めてくれる?」



「じゃあ、笑って言う方が良いのか?」

「雄史…案外言うね…?」

「悪いか?お前の発想に驚いてるだけだ」


「私も雄史の容姿から、真面目に冗談が出てくるのは驚いてるんだけど」


「じゃあ、お互い様だな」

「えっ?」

「海に行くぞ。準備しろ!」

「あ、うん…」



私達は海に行き、足早に砂浜を歩く。




「…海か…アイツも…好きだったな……」


「あっ!貝殻……綺麗…ねえ雄史…見……」




ドキン……


私は一瞬、瞳に浮かぶ光景が交差し、瞳を閉じた。


砂浜を歩く人影が近付いて来ているのが分かった。




「…佳…?…悠佳…どうしたんだ?」




瞳を開ける私。


そして涙がこぼれ落ちた。





「…悠…佳…?体調でも悪いのか?」



私は首を左右に振る。





「…雄史…私…数年前…事故で光を失ったんだ……」


「えっ…?そうだったのか?」


「でも…手術して見えるようになって…その時…あなたが私の瞳に…最初に飛び込んだの…」


「…えっ…?」


「信じられないかもしれないけど…本当の話…ねえ…雄…」




グイッと私を抱きしめられる。




ドキーーン…




「…雄…」



「…海で別れを告げた後…俺達は別れ…海を後に帰った、その後だ。彼女が事故でなくなった…」



抱きしめた体を離す。


海を眺める雄史。



「病院からの連絡に…さっき別れたばかりだというのに…俺の目の前にいるのは…今にも目を覚ましそうな綺麗な彼女の姿だった…まだ体温の温もりもあった……俺が別れを告げなければ…きっと……」




「雄史のせいじゃないよ…きっと…彼女は分かってくれてる…」


「…いや…俺のせいだ…」


「…雄史…」




私は雄史の手を握る。




「…悠佳…」


「雄史は彼女の分も生きてあげて。それが彼女への償いかもよ」


「…そうかもな…」




「……………………」





きっと彼女は


彼を愛していた


もちろん彼も


二人は付き合っていたのだから




彼女に


彼を宜しく


そう言われた気がした……



































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