The very first one.
判家悠久
The very first one.
万物の一番には、それなりの意味がある。例えば、一番メジャーな話では、昔ばなしの十二支の話になるだろう。
その前に俺十河徳延が、それを語れる人物か一応話しておくべきと思う。函館の母光香はそこそこに観音力を持っており、地元の知己からは何かと重宝された。特別にこれと言う、読心や透視や未来予知の棲み分けはないが、その時々の事案によくはまる。それを俺は血として引き継いだかどうか定かでは無いが、同じくままはまる時はある。これは母光香が大凡小さい頃から、ある程度のエーテルフローを感じていれば分かると言うが、凡才に近い俺はそうかなになった。
しかし凡才そのもので無いのは、母光香曰く、徳延は都合8回死んでる筈と言う。病弱、冒険心、そしていつの間にかの失神。数え上げればそんなものかもしれない。その数字良しでいけば、あと残り3回だからよと、地元の大学を卒業して、医療機器中堅メーカーの東京本社に就職する際にきつく言われた。まあ22歳で、あと生死3回を切り抜けれるかは、運では無く、己の手腕次第とその時は思っていた。
ただ東京とは思った以上に物騒なところだった。地縛霊に浮遊霊はわんさか。往来の何よりは、目黒区の本社の夕方の帰り道となると国道246は結構切羽詰まったものになる。
いつも俺の目の前を歩くのは、隣の部署のローファーでも身長が俺と同じ位の長い黒髪近田希美子が、退勤時間のバイオリズムが同じなのか、ままいつもの距離を保つ。この間に近田希美子は携帯で何かと話しているが、噂では大手営業課の課長と不倫しているらしい。まあ結末が悲惨なのは、この先も話が聞こえないであって欲しい。
そんな近田希美子が急に立ち止まり、凝り固まっていた。やれ痴情の縺れか、では無く左側の車線が物騒な衝撃音を立て、カーサイレンもついでに鳴った。玉突き事故か何かだろうと、俺は咄嗟に近田希美子に走り寄った。そこからが修羅場だった。
堪らず身体を支えた近田希美子は重く固まり、建物側に寄せ様にも無理で、せめて抱き締めて庇うしかなかった。ここはどうしてもの危険への本能だった。そして、目の前に視線を送ると、玉突き事故で車両底部が宙に直立に起き上がった国産車の何かが立ちはだかった。俺はまじまじと見て、何故か感じた、何かが割れる。
ここからは追憶の時間の中で、舞い上がった国産車の車両底部のガソリンタンクを見つめると、バキンと大きな亀裂音が伝わった。まずい、俺の観音力で割ったのか。そして爆発か、いやその前に、前のめりに転がってきたら、俺と近田希美子は押しつぶされる。あと3秒、その勢いで2回転したら俺達は運悪く圧死する。どこを破壊すれば良い、そもそも俺にそこ迄観音力があるのか。そして1回転、続く回転の所で、舞い上がる国産車はガードレールに派手な音を立ててぶつかり辛うじて止まった。
俺は何に驚いたのか、近田希美子の両腕を開いたところで、抱きかかえた彼女の肺が開いたのか、低い声でキャーが上がり、体も解れた。とは言え、近田希美子のガタイは良いので、俺は軸足に体重を乗せて背後に反らし歩道に倒しては覆いかぶさった。来る、ガソリンタンクに炎上した何かが。
そう確かに来たが、ボッツと車両に火が着いただけで爆発は来なかった。そこからは目まぐるしかったが、警察の調書では、ドス低い女性の声、近田希美子の悲鳴が響きわたり、国道商店街から人々が次々飛び出し、大破車両から次々同乗者が運び出され、車両引火も持ち寄った消化器で消火された。
その後、大玉突き事故のトリアージで、俺も近田希美子まとめて病院に搬送された。歩道に転がったものの秋口故に擦り傷は無く、打撲も骨折も無く。いや引火の貰い火でチェックのスーツの背中に穴が開いたが、吊しだからそれ位は何でもなかった。
大病院搬送と警察の目撃証人として、22時迄とどめられ大病院置かれた。その間やや暇も有り、俺と近田希美子は長らく話し合った。互いに帰り道よく合うと、身長やや同じでよく視線合うと、同期の割には話たっけ。そして、特別の御縁の同期のよしみとして、観音力の話をした。俺の観音力でガソリンタンクが割れたかは、生きたい十河さんが咄嗟でもそんな怖い事する訳がないでしょうとあっけらかんと笑われた。近田希美子はうっかり死にそうで、俺も自ら巻き込まれそうになってのあれなのに、この明るさはだ。そして、彼女は生きている実感を戻したか、ふふんと上機嫌に、仕舞いにはあの事実の不倫も赤裸々に話された。俺は一切誘導していないのにだ。
そして目撃証言も近田希美子はハキハキと答え、俺の観音力は上手くマスキングされた。すっかりの深夜食は、一緒にも、共に馴染みである松屋の牛焼肉定食しかないかなと、終電前に滑り込んで満たした。そして別れ際の運良く助かったねと、俺が近田希美子のどっちも持ってるで、死迄のあと3回はそのまま持ち越しになって、互いに笑うしかなかった。
そこからはただ御縁で、近田希美子は俺にあれこれを吐きに吐いたら、世界のたった一人は何て、不倫に違和感をで終止符を打った。大玉突き事故の流れから、徳延話し易いで俺達は付き合う事になった。俺は別に女性に拘りも何も無いので、そうなのかと悪い事は何も無かった。俺は短くはい、希美子は尚結構で、どこに味わいがあるかは、まあ良いか。
ただ俺自身の事で言えば、大玉突き事故に巻き込まれ、時がセンシティブに見えた事で、感覚が研ぎ澄まされてしまった。所謂観音力の発露そのままで、何かと思い倦ねる事が多く、希美子からは何でも話してとせつかれ、そのまま話した。これから始まる仲なのに、気苦労掛けなになると、男女とは一から始めるものと諭された。ここで素直に、それだったら不倫は一度は言わないとを振った、若さ故の過ちあるでしょうと大きな肩を張り上げてえへんだった。それはごもっともですと。若さか、日々俺達はただ二人の道のりを健闘しようにしている。
そして、万物の一番の話になるのだが、ここで存在を信じる世界に多少でも傾いて貰えるとだろうか。
総括出来る観音力とは便利かになるが、全てを神の寵愛で守れるという訳でなく、明るい世界と暗い世界に知れず引き込まれる事がある。江戸川区の賃貸マンションでの就寝後のそれはただ暗い世界で、夢とは明らかに違う結界に俺は飛び込んでしまった。
そこは、ありそうな動物ファンタジーみたいな仄暗い穴蔵で、深いベールを被った薄黒い男女5人の一群に出くわした。
「誰だお前は」
「何処から入ってきた」
「人間か、」
「こういう子、好みだわ」
「ねえ、しましょうよ」
薄汚れた深いベールの女性らしきが、俺の手を引こうとした時に、汚い、受け付けられない、結界の中では会話がそこまで届かず、何かが咆哮した、そして激しい稲妻が俺の面前に落ちては、獣以上の叫びが耳に残った。
俺は、その稲妻そのままの輝きに朝日の差し込む部屋で目を覚ました。まだ5時45分、目覚ましは6時だが閃光の残る目を何度も擦り、早く起きた分、トーストを2枚多く食した。
そして、騒がしい学生のいる賃貸マンションなので、新聞配達屋以外俺が一番の1階玄関開けになる。1階玄関を開けたそのインスピレーション。外来種でもここ迄大きいかの茶色いねずみが仰向けに倒れていた。俺は何もかも分かった、深いベールを被った薄黒いファンタジックな何かは、このねずみかと。俺はポストボックスに戻り、廃棄された広告ビラを5枚掴んでは、死に絶えたねずみの尻尾を掴み植え込みに置いては念仏を唱えておいた。
そのまま目黒本社の朝のカフェテリアに向かうと、あの事件以来ガーリーなミドルボブにイメージチェンジした希美子がどかんと窓際に座る。それはおじさんが好きそうな若い清楚な子ではなく、自然な等身大で良いと素直に思った。希美子のお決まりのルーチンは、持参したおにぎり2個をかなりがっつり食する事だ。俺はそれとなく隣に座り、一般人の感性ならそれどうなのと、天罰の雷光の話を進める。
「そう、不浄な輩が取り込もうと天罰が下る訳なんだよ」
「でもねずみでしょう、同じ人間の術者ならともかく、結構大きなねずみとしてもどうかな。夢、いや隠喩そのまま、天罰のそれは当たりではあるけど、でもね」
「それなら、こういう事は。昔ばなしの十二支の話あるでしょう。神様だけ天上の存在なんて、設定が甘いでしょう。日本には八十神様がいて、そして元日の朝に集まれで、結構脱落した方々いるらしいよ。そもそも集まれって、何処にってならずに、神様の元に夜駆けでも駆けつけるなんて、やはり神様の末席は凄いよ。その1番に手心あっても馳せ参じたねずみ、俺達人間より知恵あるでしょうと言う、込み入った話。それを加味してみて」
「まあ、ねずみっぽい話よね。それなら徳延、野良神様でもしまった、て事にならない」
「そこは神様はあまねくだから、天罰の稲妻が落ちたのでしょう。そもそも人間も様々、神様に近ければ悪鬼羅刹もいる。ねずみも同じ様なものでしょう。もうちょっと突っ込むと、古代から平安迄の熾烈な戦いって、大小問わずだから、人間が観音力出せて、ねずみにも観音力出せないって、ロジックじゃないよね」
「濃いな、それって夜にお話しましょうよ」
「良いけど、夜のフィーリングの前にそういう事話すと、希美子冷めちゃうでしょう」
「まあ、そこはどうしても一般人だから、こう片隅に残ってしまって。ごめん、そうじゃない」
「分かるよ、あの大玉突き事故で切羽詰まって、俺がガソリンタンクを割ったと思ってるでしょう。まあ答えがどうしても出ないよな、俺が堰を切ったら、希美子の息の根止めてしまうかも、いや、ごめん、だから、ごめんは嫌だな」
「分かってる、そういう上品な繊細さが、昨今の男子ではいなくて、実にお気に入り。あの件は、私はきちんと違うと思うわ。確かにガソリンタンクを爆発させたら、回転を逆戻しに出来たかも知れないけど、あの重量では無理ね。徳延の潜在能力だったら、シャフトから何から捻じ曲げて弾き飛ばしたと思うの。神様は徳延に観音力を授けたけど、自身が壊れない様にリミッターもきちんと授けたと思うのよ」
「そう言って貰えるとうれしい。そう、ねずみの話だけど、小さい生命でも侮るなって事。特に万物の一番には、相応に恐れようって事」
「一番ね、」
「因みに俺は何番」
「決まってるでしょう。あとは仕事をどんどん済ませて、いつもの三茶で」
俺達は、社員ややまばらなカフェテリアでも、机の下で指を絡ませた。こういう面倒なお話でも乗ってくれる、希美子がただ愛おしく思う。
The very first one. 判家悠久 @hanke-yuukyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます