第14話
ガロはそれから朝日が彼を照らすまで渡されたメモを読んだ。
『アルフレッド横丁 2-3』
アルフレッド横丁は西町にある比較的閑散とした飲み屋通りだった。そこの二丁目三番。ガロは彼らが立ち去る後ろ姿にいくつか疑問を投げたがその返答はなかった。まるでそこに行けばわかるというように。
朝一番、ガロはダンテにメモを見せた。しかしダンテはそのメモを読むことができない。よく見るとメモの字には紫色の小さな魔法石が擦り込んである。
ガロは昨夜の来客の、卓越した魔術技力を認めた。例えばダンテが彼らを認識し得なかったこと。彼らはそれを魔道具によってと言った。しかしそのような魔道具はガロの知識のうちにない。それどころか現在まで判明している魔術石の法則さえ無視している。魔術石の力は一重に効率化であり、エネルギーの肥大化であり、目的への結果の忠実さだった。しかし如何に魔道具といえども相手に対象の存在を知覚させながら認識させないなどあまりにも行き過ぎている。
さらにこのメモだって不自然だった。魔術石は如何なる力でも砕けない。なのに奴らはそれを字に擦り込ませるほどの小さな魔術石を用いている。技術的に魔術石を加工しているのか、それともそれほどまでに細かい魔術石を探り出す術を知っているのか。
ただ、この魔道具の不可思議さは理性的には重大であるが、直感としてはそうではない。ガロはどうも彼らの訪問が宿命じみたものに感じている。それは先の夢や自身に起こった変化と相まった一種の思い込みかもしれない。しかし彼らはガロの本質を知っていると言った。本質? 何が本質なのか。ガロの変化や夢がその本質と関わり合いがあるのだろうか。
だからといってガロは動かなかった。無論、気にはなる。しかし現在の情勢もある。もう既に共和国自体に危機が訪れようとしているのに、ただ個人の好奇心に駆られてはいけない。
バーンは戦争の危機を回避したと言った。しかしそれがどこまで効力を持つものかわからない。無論、書面での約束を反故していいものではない。しかし例えば例の事件の真相が共和国政府の主導であるとあちらが断定すれば戦争を仕掛ける可能性だってある。
王家復権派の動きも気になる。政府の信頼がだだ下がりになっている現状、王家復権派がより過激にならないはずはない。王家が再び政を司るのはガロにとってもやぶさかではないが、その手段として内乱が起きてしまってはつけこまれる。
しかし、やはりガロはここまで頭を巡らせておいてなお冴えたものがなかった。それは昨日から続く感覚、喫緊の事態に王家の血がたぎっているはずなのに、その一方で別の血が反する方へ向かっている。
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