第12話
ガロは夜遅く、世界が寝入ったような暗闇のなかで目覚めた。頭がひたすらに痛かった。頭蓋の奥で言い知れないものが暴れてるかのような痛みだった。
途端にベッドの傍らで強烈な明かりが灯った。ガロはぎょっとして思わず身をすくめた。二人の男が手提げのランターンを持っていた。
男の一人は浮浪者のような、ボロボロの衣服を身に纏い、白い髪と髭をを肩まで伸ばしていた。それは一見みすぼらしさとも、清貧さともとれる。何故なら彼は思慮深さのあらわれのような眉間や口元の深く刻まれた皺が衣服の汚れよりも印象をもっていたからだった。
もう一人の男はうってかわり豪奢な軍服を着ていた。だがどの軍服かガロにはわからない。軍服は濃い緑をして、肩や首元、ボタンにメッキではない金がはめられている。男は先の男と同じ白髪が整えられ、目は青い。それでいて肌が木の樹皮のように焼けていた。ガロはこのような肌の色の男を初めて見た気がした。
ガロは訊いた。
「誰だ、君らは。こんな深夜にこんなところまで。例の暗殺犯か、今度は俺を殺しに来たのか」
ガロの言い方はどこか投げやりな、半ば殺されることを承知しているような調子だった。
茶肌の男が答えた。
「いや、暗殺なんてしませんよ。我々は貴方の敵ではありませんし、むしろ味方の部類の人間です。我々は貴方のことを知っている数少ない人間と言っていい。貴方の周りの不分別な輩と違って」
「へえ、俺を知っている人間か。新聞でも読む習慣があるのか、街の噂で俺を知った気になったか、どちらにせよ俺が知らない人間で俺を理解しているなんてことはあり得ないはずだが」
「そんなやり方で我々は貴方を解しようとはしませんよ。我々は確かに貴方の人格や仕草の癖は知らない。そういう意味では我々は貴方を知らない。しかし、我々は貴方にある本質を知っている。そしてその本質は形が異なるものの、我々にもある」
「なんだ、哲学でも説きに来たのか。なら昼にしてくれ。俺は眠くもないが哲学論議に付き合うほど暇ではない」
「哲学ではありませんよ。哲学が世界にある無数の真実を手繰る営みとするのならば、我々は初めから真実を知った人間なのです」
「じゃあ宗教だな」
「宗教でもありませんよ。あんな無根拠なものを以て真実を語ろうとは思いません。我々ははっきりとその真実を表せますから」
「よほど熱心なようだ」とガロは嘲て言った。茶肌の男は不敵な笑みを浮かべている。浮浪者の男は我慢できなくなって叫んだ。
「おい! こんな奴を仲間にするのか。本当にこんな人を馬鹿にした奴が選ばれたのか。俺は嫌だぞ! こんな無理解な嘲笑にまみれた王族育ちなんて!」
「仲間の勧誘ならこちらだってお断りだ。何か資料でもあればそれを置いてってくれ。後で侍従に精査してもらう」
そう言うとガロは「ダンテ!」と呼んだ。ダンテは隠し扉の先の隣室に控えているはずだった。
ダンテが灯りを持って駆けつけた。しかし入室して室内を見渡しガロを凝視すると落ち着いた様子で言った。
「どうしました? ガロ様。何か、異変でもありましたか。身体の具合が……?」
「どうしたもない。早くここにいる輩を追い出してくれ」
ダンテはもう一度見渡し、ガロの指した先を具に観察した。そして困惑し、頼りない声で返した。
「ここにいる輩とは……?」
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