第8話
『民的新聞』はこの題目に幾つかの補論をつけた。
『我々は何も無根拠に当社説を振り回し安寧遠き国際情勢を掻き乱すことを是としない。我々の目的は人々の不安を駆り立てることではなく、人々が事の真相を適当に知り、適切な思考せしめる種を蒔くことである。(中略)しかしヴェーリー民主共和国にて勃発した暗殺事件(これを仮にヴィクトルネ事変と称す)はこれまで解明された幾点からも我々の案じる疑惑を免れない。それはつまり第一に当事件に用いられた爆発物がヴィクトルネ新宮廷に設けられた非公開である有事用の地下路に設置されたということ、これは爆発物の主犯が宮廷構造に詳しく、また限定された人間であるということを示唆する。第二に、先の事実に関わらず三日経過した現在においてもヴェーリー民主政府は当事件の主犯を逮捕もしくは公表せず野放しにしている。そして第三に本事件において無念の死を遂げたイリ国首相アンリ=ウェンベックは昨年の一月世界連合構想を打ち出して名高いが、この構想に反対したうちのひとつがヴェーリー民主政府であった。(中略)無論これは読者諸君に決定的な見解を植え付けるものではない。我々が望むことは読者諸君が当紙を以て己の見識を補助し、深い思慮を招くことである。』
『民的新聞』はこの日の記事のみで発行部数五千万部を超え、さらに伝聞が伝聞を呼びその数字以上に世論的な支持を受けた。特にイリ国とユージル王国の民衆は激しい怒気と興奮でヴェーリー民主共和国との交戦論に火をつけた。また各国の仲介者的立場であるいくつかの商人協会も交戦支持の声明を発表した。彼らの目論見は戦争を介した魔術石交易の多大な利益、更には終戦後のヴェーリー民主共和国に残る魔術石の再流入、来る世界連合に向けた協会立場の優遇であったが、人々はそれを知る由もなかった。
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