第4話

「もし香水をつけすぎても、水道で洗えばすぐ落ちますから大丈夫です。みんな通る道ですよ」


 しょぼんと下を向いていると女の人はさらに助言をくれた。


 なんだかそれは、

”嫌なところがあっても直すことはできるんですよ。誰にだって欠点のひとつやふたつ、ありますから”

と言っているように聞こえた。


 顔を上げてその人の顔をちらっと見る。


 おばちゃんの店かなと思っていたけど、違ったな。

 年はあたしより少し上、大学生くらい。

 大学生じゃないかもしれないけど。


 ”ちょうどいいおしゃれ”をする店員さんだな、と正直に思った。


 自分のパーソナルカラーと骨格をちゃんと把握しているのがよくわかる。

 絶対に着ているニットトップスもパンツも有名なブランドのものじゃない。

 きっとここのお店で売っている商品。

 でも今年のトレンドのアイテムがちゃんと取り入れられている。


 メイクは今っぽいカラーを入れつつも、派手すぎず嫌な感じがしない。


 この田舎の商店街の雰囲気をぶち壊すでもなく、芋っぽくもない。

 不思議と調和している。


「……ごめんなさい、いやな臭いだったよね」


 少し距離を保ちつつ、猫に謝る。

 その言葉が理解できているのか、「にゃ」と一声。

 妙な人間くささだ。


「出過ぎたことをしました。どうぞ、ご自由にご覧ください」


 店員さんはぺこっと頭を下げると、猫を抱えて店の奥へと消えた。

 猫はなされるがままおとなしくしている。


 あ、なんかこのお店なら大丈夫かも。

 そう思えた。

 こっちにぐいぐい干渉してこない。

 でも最初から無視するわけでもない。

 ほどよい距離感で接客してくれるお店。


 店をとりあえず一周してみることにした。

 けっこうカオスなお店だ。

 おばさん向けの服が固められているかと思えば、あたしたちが着られそうな服が現れる。

 そんな風にいろんな年代の女の人向けにこの店は作られているんだ。

 タグを見ても聞いたことのないブランドだ。

 どこから仕入れているんだろう。


 店の中にあいつが着ていたワンピースはもうない。

 どれも一点ものということか。


 さっと一周回ったが、やっぱりあたしが着たい服はない。

 あたしには有名なブランドしか似合わない、多分。

 だいたいSNSに映えそうにない。

「それどこの?」って聞かれた時に、恥をかきそう。

 こういう小さい店の服は、あいつにはお似合いだけど、あたしには無理だ。


 黙って帰ろうとしたとき、店の端に一層カオスなコーナーがあるのを見つけてしまった。


「何これ、古っ」


 もう見るからに流行遅れの服だけが固められているコーナー。

 年代もごちゃまぜで流行遅れの服だけ寄せ集められている。


 その中の一つに目が吸い寄せられた。


「これ、中学の頃に流行ったなぁ」


 絶対の絶対に今誰かが街中で着てたら二度見するようなデザインのミニスカート。

 丈の短さも今の流行じゃないし、フォルムもダサい。

 素材もデニムなのだが、色が古くさい。


 よく中学の頃履けたなって今思えば感心するくらいには、古ぼけている。

 とにかくダサい。

 今じゃ絶対に履けない。

 なんでこんなのを好き好んで中学時代には買い込んでたんだろう。

 少なくとも4着は同じスカートを持っていた。


 流行ってそんなものか。

 後から見れば、ダサく感じるもの。

 数年たてば絶対に着られないもの。

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