1着目:ショッキングピンクのスカート

第1話

「このナルシスト! 裏切り者! 働けー!」


 店のドアを開けた途端、女の子の叫び声が聞こえたものだから、一瞬私の足は固まった。

――ひょっとして、喧嘩中かしら?

 いけないタイミングでお邪魔してしまったのかもしれない。

 ドキドキと心臓が早鳴る。

 こういう修羅場が、いちばん、苦手なのだ。子供の頃からずっとずっと。


 お店の奥を覗くと、女の子が一人、真っ白な毛の猫が一匹。


――あれ、喧嘩じゃなかったの?


 私の存在に気がついた女の子がはっと目を見開く。漫画で見るような「えっ」という口の形をしてから、すぐさま、

「いらっしゃいませ」

と笑顔で挨拶してくれる。

 その途端ににゃーと声を上げながら猫はどこかへ逃げてしまった。

 心なしか、女の子はむっと猫をにらんだ気がするが、気のせいか。


 見たところ、大学生といったところ。

 アルバイトの子だとすれば大学生か。

 上から下までばっちりトレンドらしいアイテムで決めている。

 嫁入りしてから、私自身トレンドに疎くなってしまったのでよくわからないが、多分そのはずだ。


「すみません、たまたまそこの県道を通りかかったら、ステキなお店が見えたもので」

「あ、ありがとうございます」


 はにかんだような照れ笑いを浮かべ、ぺこっとお辞儀する。


「何かお探しでしたらお手伝いします」

「……じゃあ、姑への手土産を」

「お姑さんはおいくつくらいですか?」

「72……いや、73だったかしら。70代前半です。背は……」


 私は姑の外見を説明する。太くもなく細くもない、街中でよく見かけるタイプのご老人といった体格だ。


 女の子は店の一角に私を案内してくれた。その辺りが年齢的・サイズ的にもぴったりな服のあるゾーンなのだろう。

 カジュアルなデザインから、エレガントなものまで、テイストは様々に揃えられている。

 秋らしい色合いのものがほとんどだった。


「お姑さんはどんなお洋服がお好みですか?」

「好み……ですか」


 問われて私は答えに詰まる。

 いつもどんな服を着ていただろうか。

 言われてみれば、考えたこともない、姑の好み。

 姑の姿を頭の中に思い描く。


「ごめんなさい……」

「いいんです、いいんです。……良かったらお掛けになってください」


 店の奥にある簡単な応接セットを薦められ、私は言われるがままに腰掛けた。

 女の子は向かいに腰掛け、何も言わず、私の言葉を待った。


「にゃー」

 いつの間にやら先ほどの白猫が帰ってきている。ひょいと女の子の膝上に乗っかり、身を丸める。


 見知らぬ人と向かい合っているのに、不思議と圧迫感はなく、むしろ私はリラックスさえしていた。

 白猫のおかげだろうか。

 女の子はいつまでも考え込んでいる私を急かすことなく、小さく微笑みを浮かべている。


「姑は――」

 自然と私の口が開く。

「あまり私のことが気に入っていないんです」

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