第2話

 声のする方へ進んで行くが、声の主は見当たらなかった。それどころか声がいつの間にか聞こえなくなってしまったのだ。

 

 仕方なく帰ろうと思った時だった。繁みの中に白い物体を見つけた。

 

 僕は躊躇なく近づいた。

 それは白い鳥だった。種類は分からない。図鑑でもテレビでも見たことも無かった。その鳥は繁みに引っ掛かかり、もがいていた。

 

 僕はその鳥を繁みから外してやった。すると….


 「ありがとうございます。助かりました。」

 鳥は人間の言葉で喋り出したのだった。


 腰を抜かしそうな僕をよそに鳥は話を続けた。

 「お礼をしたいと思います。私の後に続いてください。」

 鳥はそう言って、すぐに低めに飛び始めた。僕はそれを慌てて追いかけた。


 いつの間にか豪華で和風な屋敷に辿り着いた。

 中から鳥や獣たちが出てきて「ようこそ」と口にする。僕を案内した鳥があれこれ指示を出している。

 

 僕は案内されて歓待を受けることとなったのだ。

 料亭並みの食事に踊りの鑑賞。

 

「舌きり雀」、「ねずみ浄土」、「浦島太郎」。僕の頭の中で昔話のタイトルが踊り回る。

 それに三兄弟の末っ子である僕だけがおもてなしを受ける。末っ子だけが成功する。この構図はまさに昔話によくあるお約束だった。

 

好奇心に従って正解だった。僕はそう確信した。


僕の目の前で美女が扇を持って舞を披露する。しかしよく見ると美女には獣の尻尾が生えている。

 思わず「尻尾…。」と口にしそうになったが黙ることにした。


 昔話のお約束を思い出したからだ。

 

 「鶴の恩返し」に「葛の葉狐」。美女に化けた動物は正体がバレたと分かると立

ち去ってしまうからだ。

 僕はもっと美女の美しい舞を見ていたいからお約束は守ることにした。


 途中、屋敷の部屋を案内されて「この部屋だけは見ないでください。」と言われることもあった。

 見ないでと言われたら見てはいけない。昔話でそう学んでいる。


 宴が終わると白い鳥がやって来た。後ろには様々な大きさの箱や袋を掲げた動物たち。

 「お土産にお好きなのをお一つどうぞ。」

 白い鳥はたくさんの箱と袋を僕に見せた。


 またもや昔話のお約束が出てきた。

 「舌きり雀」で意地悪ばあさんの失敗なんてしない。僕は一番小さくてズボンのポケットに入りそうな袋を選んだ。


 最後に「この事は誰にも話さないでください。」と念を押された。

 もちろん、この約束は守る予定である。「雪女」みたいな展開にはなりたくはない。そもそも誰かに話したところで信じないだろうから。


 それに誰かが僕の真似をしたら大変だ。

 「瘤取りじいさん」、「花咲かじいさん」と誰かの成功を羨ましがってひどい目に合うのは古今東西に共通することだから。


 白い鳥率いる動物たちに別れを告げると僕は家へと帰って行った。




  僕一人が昔話の世界に入り込んだような不思議な体験をしたと優越感に胸を躍らせた。しかし、その優越感は家の玄関を開けるまでだった。



 


 

 

 

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