昔話のお約束
桐生文香
第1話
「むかしむかし…」「今は昔…」といった感じで始まりそうな出来事を体験してみたいと思っていた。
「最近さあ…裏山で変な声が聞こえるんだけど。『おいで…おいで…』って。」
「あっ俺も。低い声で聞こえてくるよな。」
いつもと変わらない夕食の時間。兄二人は興奮しながら口を食事より会話に集中させていた。
「あんたたち。ちゃんと食べなさい。それよりそれ本当?まさか不審者が裏山に隠れているじゃないでしょうね。」
「結構低めの声で妖怪みたいだった。」
「何それ。しばらくの間は裏山に行っちゃ駄目だからね。あんたも約束だから。」
心配性な母はそう言って僕の顔を覗き込んだ。
「はあい…」
やる気のない返事で返す。
正直の所、母に無理矢理交わされた約束など守る気など無かった。
それよりも僕自身もその妖怪の声とやらを聞いてみたいと思った。
僕の好奇心を刺激する声を…。
翌日になると僕は裏山に入った。
薄暗い木々が生い茂る中へ踏み込むと例の声が聞こえ来た。
「おいで…おいで…。」
確かに低すぎて人間とは思えない声だった。
夕食では兄たちは不気味だから立ち去ったと言っていた。でも僕は進んでいった。
何か不思議な体験が出来そうだったからだ。昔話のような不思議な体験を…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます