第五章:デモニウスの家

7つ目の次元の扉を抜けるとそこは庭園だった。庭園の中央にはデモニウスの像があり、周りにはそれよりも小さな像がいくつか置かれていた。ぼくたちにはすぐにそこがデモニウスの屋敷の内にある庭園であることがわかった。色とりどりの草花や大きな樹々に囲まれたその美しい庭園を眺めていると、どこかで物音がした。周りを見回すと、今にも襲ってきそうなクリーチャーの軍団がそこに身構えていた。軍団を統率するのは骨ばった大身のガーゴイルだった。

「どうやら庭に侵入者がいるようだ。番兵たちよ、この招かれざる客たちを始末しろ!」

 とガーゴイルは軍団に命じた。

「そうはいくか!」

 とソウットが言うなり、ぼくたちは一斉攻撃を仕掛け、ガーゴイルとクリーチャー軍団を難なく倒した。

 戦闘が終わると、ぼくたちは屋敷の広大な庭園を奥に進んだ。しばらくすると、次元の扉が見えてきた。

「ソウット、あなたはこの地をよく知っているはず。この扉の先には何があるのですか」

 とぼくは尋ねた。

「もうひとつの謎が、デモニウスの家にたどり着くための手助けとなるはずだ」

 とソウットは返した。そして、ぼくたちは次元の扉の中に入っていった。


 扉を抜けると、今度は実に仰々しい神殿に到着した。大きなデモニウス自身の像が立つ神殿には、金色のきらびやかな装飾が至るところに施されていた。松明に囲まれ、赤い絨毯が長く敷かれた神殿の中央にぼくたちは立ち、何本もの柱で支えられた頭上のドーム状の天井を見上げていた。その時、目の前に八芒星が描かれた壁画があることにぼくは気づいた。奇妙なことに、その壁画にはいくつもの溝が刻まれていた。

「おいおい、今度はなんだ?」

 ダンゲルが言った。

「今すべきことは、あの八芒星の謎を解くことじゃないかな」

 と、ソウンドが言った。皆で壁画に近づいてみると、そこにはすでに水晶がひとつはめ込まれていた。

「今こそこの7つの水晶を使うときだ」

 とぼくは言いながら、持っていた水晶を取りだして、それぞれの溝にはめ込んでいくと、八芒星が光りを放ちはじめた。すると、ぼくたちの後ろで召喚が誘発され、ついにデモニウスがそこに現れた。デモニウスがゆっくりと口を開いた。

「ほほう、おぬしらがわしにあえて挑もうとしておる愚かな人間どもか。わしを封じたソウットがこの次元に姿を見せるとは奇妙だの」

 デモニウスはそう言いながら今度は視線をぼくに移し、じっと見つめた。

「なるほど、やはりおぬしだったか……死ぬ覚悟はできておるだろうな」

 デモニウスはそう言うと、自分が現れ出た次元の扉を覆うように何人もの兵士を召喚して、ぼくたちが扉にたどり着くのを阻んだ。しかし、ぼくたちは全員で力を合わせ、次々と現れるデモニウスの親兵たちを倒し、ついに扉にたどり着くことに成功した。


 次元の扉を通り抜けると、目の前に浮遊城が現れた。城にはいくつもの高い塔がそびえ立ち、巨大な城壁が周りを囲んでいた。大手門は大きく開かれ、そこに守兵の姿は見あたらない。そんな中、扉が開いている塔がひとつあるのをぼくたちは見つけた。ぼくたちはその塔の中に入ってみると、出口に面した壁に巨大な時計がある小部屋に行きついた。また、時計を動かすための仕組みも見ることができたが、時計自体は壊れているのか、動いていなかった。

「ゾラックス」

 ソウットがぼくに視線を向けた。

「これを解決できるものを何か持っていないのか?」

「いや、残念ながら」

「間違いないか? 私に会いに来る前に、誰かが君に何か渡したことは?」

 それを聞いたとき、カルロス神父からもらったものを、ふと思い出して、袋のなかを覗いてみると歯車がいくつかあった。

「これが使いものになりそうだ……」

 ぼくはそう言って、壊れた時計の歯車のひとつに近づいた。すると、そこに文字が刻まれていることが分かった。そこには、こう記されていた。


『幸せを求めるならば、時に立ち向かわなければならない。時を支配する者はすべてを為し、その復活によって最初の封印が解かれるからである』


「さあ、歯車を取り付けるんだ」

 と言いながら、ソウットが歯車の装着を手伝ってくれた。

「できた! これで歯車がぜんぶ揃ったぞ」

 とソウンドが言うと、時計は時を刻み出したのだが、それと同時に城が突然大きく揺れ始めた。ぼくたちが急いでその場を抜け出すと、城の巨大な建物がガタガタと音を立てて崩れ始め、あとには巨大な墓地のようなものが現れた。するとあたりを霧がゆっくりと包み込み、急激に気温が下がった。

「見ろ、あれがデモニウスの家に違いない」

 と、ぼくは墓地の奥にある大きな城門を指さすと、皆がそこに視線を移し、目を丸くした。

「えっと、せっかくこの偉大な発見と驚きに浸っているところを邪魔するようで申し訳ないんだけど、お出迎えが来ているみたいだよ」

 ソウンドが後ろを振り向いてそう言うと、ぼくたちがデモニウスの家に入るのを何としても阻止しようとするクリーチャーの一団がこっちに向かって来るのが見えた。

「さあ、急ぐんだ!」

 ぼくはクリーチャーたちを食い止めながら言った。

「よし、そろそろこいつらを始末してやろう。ペルディトゥム・イッラ・ナッドゥ!」

 ぼくがクリーチャーたちをかたづけると、皆はようやく落ち着きを取り戻し、ぼくたちはデモニウスの家の扉の前まで悠々と歩いて行った。デモニウスの家に到着してみると、扉の周りの壁にはいくつかの図形が描かれていた。しかし、別の図形があるべき場所にまだ3つの空白がある。

「きっと、これをはめ込めということだろう」

 ぼくはそう言いながら、カルロス神父がくれたパズルの残りのピースを袋から取り出し、それらの空白にはめ込んでいった。すると、デモニウスの家のその両開きの扉が大きく左右に開いた。ぼくたちはさっそく中に入り、鎧の人影と松明に囲まれた長い廊下を先に進んだ。途中にあった橋を渡ろうとしたとき、誰か知り合いのような、よく聞き覚えのある叫び声が聞こえたが、誰なのか断定することもできず、とりあえずは最後の扉にたどり着くまで歩を進めた。


「おぬしらは分かっておらぬようだな。誰もわしに逆らうことはできない」

 デモニウスは扉が開くなり玉座からそう言い、ぼくたちを驚かせた。この化け物は6本の腕、蛇のような胴体と牛の脚、赤く光る目、灰色がかった肌など、奇態きわまりない姿をしていた。

「それはどうかな。おまえを倒すのに十分な力を持った者なら、おまえに挑んでも申し分ないだろう」

 とデモニウスに、ぼくは言い放った。

「わしを倒せるほどの力を持った者などおらん」

「何年も前に私がおまえを封じたことを忘れたのかね。しかし、今日は私は手出しをしないでおこう……ゾラックスがすべてうまくやってくれるだろう」

 とソウット。

「ふふん、そうかね、だがわしには関係のないことだ」

 と、デモニウスは言うなり、

「ピラエドラ!」

 デモニウスは炎に包まれた岩石で攻撃してきたが、ぼくはなんとかそれをかわした。

「エレクトロディウム・ライト!」

 ぼくの指先から強力な稲妻が放たれ、デモニウスを呪縛した。

「ほほぅ、たしかに勇ましいのぉ……だがな、ゾラックスよ、ここでこのわしを倒しても、シャドウの秘蔵書もカオス王朝の他の者たちも、この先おぬしの運命に待ち受けているものから、おぬしを守ってはくれないのだ」

 電撃の呪縛から抜け出したデモニウスは必死になってぼくに襲いかかってきたが、冷静さを失ったその自暴自棄の攻撃はあだとなり、大きく振りかぶり打ち下ろしたぼくの剣はデモニウスの体を真っ二つに割った。ついに、ぼくはデモニウスを討ち果たした。

「見事な戦いぶりだったぞ、ゾラックス」とソウット。

「……さてと、そろそろ帰る時間のようだ」

 ソウットはそう言葉を続けて、デモニウスの玉座のすぐ後ろに現れた次元の扉に顎を向けた。


 ソウットの王国の城下、ドームの街に戻ると、ぼくは、エージュ、ダンゲル、ソウンド、ソウットたちに別れを告げた。彼らをこの魔法界に残し、ぼくはここに到着したときにソウットが教えてくれた次元の扉を出現させる呪文をつかい、自分の世界に戻った。次元の扉を抜け出ると、例のごとく地下墓地の鏡の前に着いた。教会員のための区画にあるロビーに戻ると、そこにカルロス神父がいた。ぼくは、今回の旅で起こったことすべてを一気に神父に語った。そして、ぼくたちはシャドウの秘蔵書を再び封印することに決めた。神父との話が終わると、ぼくは妻とのひとときを楽しむために家路についた。ところが、家に帰ると家の中が散乱していてめちゃくちゃになっていた。

「これは一体どういうことだ?」

 ぼくは、その惨状に驚きながら言った。

「バルバラ!」

 すぐにぼくは妻を探そうと叫んだが、返事がない。しかし、寝室に入ってみると机の上に一枚のメモ書きが置いてあった。


『ゾラックスよ、シャドウの秘蔵書の他のページを読め』


 そのメモ書きを読むやいなや、カルロス神父と話すためにぼくは教会に走った。

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