第ニ章:転生(第二部)

建ち並ぶ家屋や風景、空、空気の匂いまで、すべてが異なっていた。到着して、確かに自分がいまこれまでとは違う時代にいることがはっきるすると、いくつかの考えが頭をよぎった。ここはソウットの王国、人々は幸せそうだし、みんなとても社交的だ。到着したばかりのぼくに、さっそく村人のひとりが声をかけてきた。

「あんた、ここの者じゃないな」

 と村人は言った。

「そうです。いま着いたばかりなんです」

 とぼくは固い声で返した。

「ドームへよくぞいらした。ところで、よそ者さん、どういったわけでこちらに? 探しものでも?」

 と、村人はぼくが神父から譲り受けた鎧をしみじみと眺めながら言った。

「ソウットを探しに来ました」

 そう言うと、村人はすっかり驚いてしまった。ぼくの返事にではなく、ぼくの探している相手がぼくのすぐ後ろに立っていたためだ。

「誰が私を探しているのかな」

 そう言われて、ぼくは振り返った。

「ぼくの名前はフランシスコです。もっとも、あなたにはゾラックスのほうがなじみが深いかもしれません」

 と彼に言った。

「ゾラックス…… その名前を聞くのは何年ぶりだろう」

 そう言って彼はぼくの顔を眺めた。

「とはいっても、君が魔導師ゾラックスの生まれ変わりであることは分っている」

「おっしゃる通りです。シャドウの秘蔵書を読みましたし、ハイドゥムの事情も知っています」

「事情を知っているなら、私の宮殿に一緒に来てくれ、明日はパーク大陸へ侵攻する」

 彼はそう言った。その後、ぼくはソウットとともに彼の宮殿に向かった。


 ソウットの宮殿には驚嘆させられた。堅固な石造りの宮殿で、入り口の大きな扉を開けると、目の前には巨大なロビーが広がり、長い廊下には絨毯が敷かれ、ソウットの像がいくつも並べられていた。

「どうかな、私の宮殿は?」

 ソウットがぼくに尋ねた。

「美しい。とにかく素晴らしい、どこをみても見事なものばかりだ。彫像もどれも完璧だし、ステンドグラスはぼくの時代の大聖堂のようです。そしてあの有名なソウット団の印、小三叉槍」

 ぼくは宮殿の美しさを堪能しながら彼にそう言った。

「居心地のいい場所だと感じてくれてよかった」

 とソウットは言うと、彼はぼくが泊まる部屋まで案内してくれた。

 部屋で荷解きしていると、彼が昼食を注文しているのが聞こえたので、ぼくはそれをさえぎった。

「いや、ちょっと待ってください! よければ、ぼくが昼食に何か作りましょう。ぼくの得意料理を作らせてください」

 とぼくは言った。

 ソウットは快くその提案を聞き入れ、ぼくを調理場まで案内し、食材の貯蔵庫も見せてくれた。パン、麺、トマト、レタス、ジャガイモさえあれば、ぼくの得意料理はできる。昼食の席でソウットはぼくの料理をとても喜んでくれた。気に入ってくれた証拠に、彼は料理を三回もお代わりしたほどだった。

「じつに美味い昼食だったぞゾラックス、おかげで満腹だ」

 とソウットは言ってくれた。その後、二人はそれぞれの部屋へ戻って休んだ。


 目が覚めると、ソウットに誘われて星型の部屋へ行った。その部屋は壁も天井も床も水で覆われていた。そこは魔術を磨くためのトレーニングルームだった。

「さて、パークに攻め入る前に、君が優秀な戦士であることを私にみせてくれるかね」

 とソウットはぼくに言った。

「いいでしょう、お手合わせしましょう」

 打ち合いが始まると、ソウットはぼくが宿敵のハイドゥムであるかのように本気で打ち込んできた。彼の全力の攻撃にぼくは怯んでしまい、その恐怖からソウットの攻撃をかわすのが精いっぱいだったが、その後、勇気を奮って、ソウットを教会のあの青年だと思って戦った。

「そうだ! その調子でかかってこいゾラックス!」

 と、戦っている最中にソウットは言った。その試合は、ぼくの時代の映画でしか見たことがないような大迫力な戦いとなった。打ち合いは五分五分で果てしなく続くようにみえたが、訓練の成果がでてきたのか、ぼくも剣の扱いに慣れ始め、次第に強くなっていた。結局、ぼくの入魂の一振りで、この試合は終わった。

「素晴らしい! みごとな剣さばきだ」

 とソウットは言った。

「ありがとう」

「おやもう11時半だ、試合のせいで体も疲れただろうし、魔力も消耗しているだろう」

「そうですね。では、ぼくは失礼します。おやすみなさい」

 ぼくはそう言って、部屋へ戻り、眠りについた。6時間にもおよぶ戦いで、ぼくは疲れ切っていた。


 翌日、パークへの侵攻の準備が整った。ぼくはとても緊張していたが、ソウットは私を落ち着かせ、準備を整えてくれた。その間、ぼくは周りの景色や空、海、打ち寄せる波を眺めていた。そして、ソウットの軍隊に属し、ぼくたちの進軍に付き従うガーゴイルたちを目にした。ぼくは鎧、魔剣、魔法の杖、呪文集を身に備えていた。こうして、ぼくたちは軍船に乗りパーク大陸へ航海を始めた。


 パーク大陸は、起伏のある地形が特徴的な巨大な島だった。それは大海に浮かぶ火山島で、山頂に雷雲で覆われた城が小さく見えた。ぼくたちは軍船から下船してハイドゥムの城に向かって進軍を始めた。

「緊張しているかね?」

 ハイドゥムの城に近づいたところで、ソウットが言った。

「まあ、少しは」

 とぼくは返したが、彼はぼくがひどく緊張していることを察していたのだろう。ぼくは、この戦がどのような結果に終わるのか不安で仕方がなかった。ところで、ぼくには疑問に思うことがあった。

「ソウット、ところで7つの水晶は何のためにあるのですか」

「あれかね、あれは君が自分の時代に戻るために必要なのさ」

 とソウットは言った。その言葉を聞いて、ぼくはすっかり安心した。

 

 ハイドゥムの城はぼくの住む街のあの教会と姿かたちがよく似ていたが、城の細部を注意深く見ることもなく、ぼくたちはハイドゥムが玉座に座って待っている中庭に向かった。

「ほほう、これは驚きだ! ソウットに……そっちの若者は?」

 とハイドゥムは言った。

「彼はゾラックスの生まれ変わりだ」

 とソウットが言うがいなや、余裕のあったハイドゥムが怒りに震えだしたのがわかった。

「モルフィス・アビクルス」

 とハイドゥムは唱えながらぼくにいきなり呪文を投げかけた。ぼくはなんとかその呪文をかわしたが、後ろに従っていた戦士のひとりに当たると、その戦士はニワトリにされてしまった。

「うぁ、ニワトリにされてしまった!」

 ぼくはひるんでそう叫んだ。

「おいゾラックス、受けて立て!」

 ハイドゥムがそう言うやいなや、ぼくとハイドゥムとの対戦が始まった。戦いは午後から夜にかけて延々と続き、呪文や打撃、爆発が二人の間を行き来した。それは激しい戦いなどと簡単に言葉では言い表せないほど壮絶なものだった。しかし、ぼくが渾身の一撃をハイドゥムに打ちつけると彼は倒れ、対決は幕を閉じた。

「死ぬ覚悟はできたか?」

 ぼくは、ハイドゥムの怯えた表情を見つめながら言った。

「死んでたまるか」

 と、ハイドゥムは挑発的に返した。

「ペルディトゥムイッラナッドゥ」

 呪文を唱えると、たちまちブラックホールのようなものが現れ、ハイドゥムはその中へ吸い込まれていった。

「きわどい戦いだった」

 とぼくは額の汗をぬぐいながら言った。すると、ソウットはぼくに近づき、あの次元の扉を出現させた。

「そろそろ君は帰るんだ。でも覚えておきたまえ。われわれが会うのはこれが最後ではない」

 ソウットは言った。


 ぼくは次元の扉に入ると、教会の中と同じような廊下に出た。そこにはソウットの像がたくさん並び、像は、赤いマントを羽織り、腰には黄色の帯を巻き、魔法の三叉槍をもち、赤い目をした顔はフードで覆われていた。廊下はとても長かったが、その廊下の突き当りには7つの溝がある石があった。その溝は7つの水晶が収まるのにぴったりだった。ぼくは溝に7つの水晶を収めると、石はその場所から動き出し、火とシャドウの秘蔵書のテーブルが見えた。「教会の裏側から入ってしまった」と思ったぼくは、まだ地下墓地にいるはずのカルロス神父のところに駆けて行った。

「神父様、帰ってきました。ハイドゥムを打ち負かし、ソウットの王国から戻ってきました」

 そう言うと、神父は驚いた。

「ずいぶんと戻るのが早かったのう。ちょうど侵攻の時にあちらに着いたはずじゃが」

「早かった? でも、3日間もソウットの王国にいたんですよ」

「3日じゃと? しかし、ここではまだ30分しか経っておらん」

 神父の言葉にぼくは驚き、なぜこのような時間の差が起こるのかを考えた。

「まあ、フランシスコ、今は家に帰って休むことじゃ」

 と神父に言われ、ぼくは教会を後にした。


翌日、教会に行くと神父が待っていて、シャドウの秘蔵書について話してくれた。

「フランシスコ、ひとつ問題があるのじゃ」

 と神父は言った。

「問題とは?」

「シャドウの秘蔵書を読んでみよ」

 神父にそう言われて本を開くと……


悪意のある他の者に悪用される恐れがあるため、本を封印せよ。

ゾラックスよ、これが最後の冒険とはならないが、少なくともバルバラと結婚できることを喜べ。


 その予言を読んだ後、ぼくは神父と一緒に秘蔵書を封印した。その封印の儀式には30分かかった。儀式が終わり家に帰る途中、ぼくはバルバラに出会った。


「あら、フランシスコ」

「やあ」

「ねえ、あなたの家に行ってもいいかしら?」

 とバルバラは聞いてきた。

「もちろんさ」

 そう僕が言うやいなや、彼女はぼくにキスしてきた。

 自分の未来を知ってしまった今、ぼくは少し心配になった。次元の扉が開いたままだったとしたら、ソウットはどうなる?  ハイドゥムは死んだのか? 浮かび上がる数々の疑問は、いずれ運命が答えをだしてくれるだろう。今のぼくはただ自分の人生を生き、次の冒険を待つだけであった。

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