11.ラスティールのお父様だってっ!?
「それでここが洗面所で、ここにある道具はすべて使って頂いて結構……」
(でへへへっ……)
(可愛い子だなあ。あ、ちょっとだけステータスを……)
そう言って村比斗は勝手に彼女のステータスを覗く。
(ほう、『田舎出の雑用勇者』か。何だ、俺と同じ底辺じゃないか。親近感がわくな~)
そう言ってその女勇者の形のいいお尻に触れようとする。
バン!!
「痛っ!!」
その伸ばした手を横にいたミーアが思いきり叩く。
「なんだよ、ミーア!」
ミーアは無表情で答える。
「こんなところでおイタはいけませんよ~。次やったら村比斗君、燃やしちゃうからね~」
目は笑っていない。次やったら本気で燃やされると思い村比斗は素直に頷いた。
「何か困ったことがあったら教えて下さいね」
『夜寂しいから添い寝を……』と言いかけて、隣にいるミーアからただならぬ圧力を感じ村比斗は言葉を飲み込む。
雑用勇者は笑顔で別邸から出て行った。笑顔で手を振る村比斗。そして言う。
「いや~、それにしてもラスティールの屋敷ってホント、女の子ばっかりで最高だな~。まさにハーレム? ここのボスって変態かよ!!」
隣にいたミーアが顔色を変えて村比斗に言う。
「む、村比斗君……」
「なんだよ?」
その異変を感じ取った村比斗が振り返る。
「私がボスだが、なにか?」
「ぎゃっ!!」
いつの間にか村比斗の前に背の高いナチュラルグレーの髪をした男性が立っている。落ち着いた初老の男性ではあるが、その顔はエネルギッシュ。横にはラスティールの姿もある。
「む、村比斗!! お前はなんて失礼な!!」
「彼が村比斗君かね?」
男性の問いかけにラスティールが代わりに答える。
「は、はい。お父様」
その会話を聞いた村比斗が驚く。
「お、お父様!? ってことはお父さんか?」
「当たり前でしょ! ほら、ちゃんと挨拶するよ!」
隣にいたミーアが村比斗と共に頭を下げる。父親が答える。
「まあ、そう硬くならずに。私の名はベルフォード。さ、中で話をしようか」
「はい……」
村比斗達は父親と共に奥にある居間へと向かう。
「改めまして、お父さん。私は村比斗と言います」
「ミーアはミーアだよ!」
村比斗とミーアはラスティールの父親に頭を下げて挨拶をした。
「『村人』?」
父親の顔が一瞬驚きの色に変わる。すぐに村比斗が言い直す。
「あ、いえ、『むらひと』です。はい……」
大して違いはないと思いつつ村比斗が言う。父親は少し村比斗の顔を見てから言う。
「変わった姓だな。で、名前は?」
「
「魔物っ!!??」
そう言って父親は腰につけた剣を抜き構える。慌てて村比斗が言う。
「ち、違います。違うって! 『まほの』、まほの、です!!」
そう言って必死に誤解を解く村比斗。そして父親の隣で一緒になって剣を抜く娘のラスティールを見て溜息をつく。父親が剣を収めて言う。
「ああ、すまない。『魔物』と聞くと勝手に体が動いてしまってね。分かると思うがこれが勇者の
(おいおい、俺はこの世界じゃ自己紹介するたびに命に危機になるのかよ!? って言うか、なんでラスティールまで一緒に剣を抜いてるんだ、あいつ!!)
ラスティールは何事もなかったかのように一度咳をしてから父親に言う。
「……と言うことで、お父様。彼らは私の命を救ってくれたの。村比斗さんは今、ちょっと記憶を失っていてあまりまともに会話ができないけど、受けた恩を返すのがホワイト家の家訓。しばらくは家に滞在して貰おうと思うの、ね。お父様。いいでしょ?」
ラスティールは冷静に、次から次へと様々な話を皆に向かって話した。本当のことも違うこともあるが、すべて辻褄が合わせてある。村比斗が思う。
(ほお、俺はただ相槌打つだけで見事に話を作り上げている。こいつ、やるな……)
村比斗は意外な才能を持つラスティールを見直す。父親が言う。
「話は大体分かった。娘が無事に帰って来られたのも君達のお陰と言う訳だ。ここは自由に使ってくれ。遠慮しなくていい。あ、それから一応伝えておくが、私は変態じゃない。ただの女好きだ。じゃあ」
ラスティールの父親はそう笑顔で言うと部屋を出て行った。村比斗が言う。
「ま、まあ、いいオヤジさんじゃねえか……」
村比斗がちょっと引きつった顔で言う。ラスティールが答える。
「当たり前でしょ。ホワイト家の当主、なんだから……」
しかしそう言った彼女の顔が少し曇る。
「さて、それでこれからどうするんだ? 俺はこの世界のことも良く分からないから決めて貰ってもいいぞ」
椅子に座り直した村比斗がラスティールとミーアに言う。
「ミーアもラスティちゃんが決めたことに賛成するよ!」
ミーアは水色の髪を揺らしながらラスティールに言った。ラスティールが言う。
「分かった。まずは状況整理しよう」
ラスティールは部屋に三人以外誰もいないことを確認してから話し始める。
「ミーア、まずここがどこだか分かるか?」
ラスティールがミーアに尋ねる。ミーアは人差し指を顎につけ考えてから答える。
「ベガルド王国、かな?」
「その通りだ」
「ベガルド王国?」
知らない村比斗が尋ねる。ラスティールが答える。
「ああ、魔王達に世界が襲われて多くの国や街が滅んだが、私が知る限りでは世界で数少ない国としてしっかり形を残しており、
「なるほど」
村比斗が頷く。
「で、その最後の砦を守るのがベガルド王国最高の守護者である『六騎士』と呼ばれる者達だ。ミーアは知ってるよな?」
「知ってるよ!」
「強いんか?」
村比斗の質問にラスティールが答える。
「ああ、強い。私はこの世で唯一魔王に対抗できるのがこの『六騎士』だと思っている」
「ほう、それは凄いな」
「うむ。我がホワイト家も以前はその六騎士の一角を占めていた」
「以前?」
「そうだ。残念ながら何者かによる計略と、あとはそうだな。私が弱すぎたということだ」
「は、何だそりゃ?」
ラスティールが自嘲気味に答える。
「弱かったんだよ、私が。父の後を受け継ぎ六騎士になったものの、残念ながら降格させられた」
「……」
無言になる村比斗とミーア。ラスティールが言う。
「まあ、そんなことはいい。個人的な話だ。で、これからだが、差し迫っての危機はやはり『魔王ガラッタ』だろう」
「魔王ガラッタ。お前が遭ったと言う奴か」
村比斗の問いにラスティールが答える。
「そうだ。危うく殺されかけたがな」
場が静寂に包まれる。ミーアが言う。
「大丈夫だよ~、こっちには村比斗君がいるんだからね~!!」
村比斗は勇者をレベルアップさせたときの激痛を思い出す。
「い、いや、その『六騎士』っていう強い奴がいるんだろ? だったらそいつに任せれば……」
「魔王達の力は底なしだ。雑魚勇者を殺し、どんどんレベルアップしていく奴らに対して、我々の強化は微々たるもの。仮に今日互角でも、明日には全く歯が立たなくなることだってある」
再び静かになる一同。
ラスティールは魔王達の恐ろしさを肌身で知っているからこそ、楽観視できないことを理解している。村比斗が思う。
(全く素直じゃねえなあ。こいつは性格も口も悪いが、美人だしえっちい体してるんだから、可愛く『お願いします、村比斗様ぁ♡』とか言ってちょっと谷間なんか見せて頭を下げれば考えてやらんこともないのに。ツンツンとまあ、腹が立つ!)
一方のラスティールも思う。
(これだけ危機が迫っているのになぜこの男は平然としていられるのだ? やはりアホなのか? それとも村人と言うのは知能も低いのか? ならば……)
ラスティールが言う。
「魔王に負けたらどうなると思う?」
ラスティールの質問にミーアが答える。
「みんな皆殺しでしょ?」
「ああ、そうだ。特に今話題上がっている魔王ガラッタ。奴は『殺戮王』とか『狂気の王』とか呼ばれている残忍な奴だ。捕まったら最後、最も残虐な方法で殺されるだろう」
(ま、まじか……、俺、村人だし、真っ先に殺されそうだな……)
顔を青くし黙り込む村比斗。同時に思う。
(た、確かに俺が勇者を育てねば世界が、俺も殺されるな、こりゃ。とは言え、この目の前のツンツン女じゃなきゃいけないってこともないだろう? もっと可愛くて美人で、胸も大きくてえっちくて、それで気立ても良くて優しくて、俺だけに尽くしてくれるような美少女勇者を探し出してふたりっきりで秘密の特訓をして……、ぐふふふっ、それで魔王を倒せばみんな幸せじゃないか!!)
ニタニタと節操のない笑みを浮かべる村比斗。それを見たミーアが頭を殴る。
コン!!
「痛た! 何するんだよ!!」
「もー、また何か変なこと考えてたでしょ! だーめっ!!」
不満そうな村比斗。ラスティールが悲しげに言う。
「今日はここまでにしよう。疲れただろ、ゆっくり休んでくれ……」
そう言って席を立つと、ラスティールは笑顔で出て行った。
「ラスティール……?」
村比斗は少しだけつまらないことを考えた自分を反省した。
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