第13話 可愛い彼女の秘密

『変な意味じゃなくてね! お母さんも家にいるし! 普通に、健全なデート!』


 途端に冷静になり、真昼は補足のメッセージを送った。


 さっきまでの自分はどうかしていた。


 もう、西野カナの歌みたいに会いたくて会いたくて震えていた。


 夜一の気持ちは嬉しいし、大事にしてくれている事は全身にビシビシ感じている。


 なのに何故か不安になってしまう。


 寂しくなってしまう。


 余計に会いたくなってしまう。


 もう、会わない事にはなに一つ手につかない。


 生きてる事すら辛くて、夜一に会えるその日まで眠って時間を飛ばしたいくらいだ。


 それでどうにか夜一と会う方法はないかと考えて出した答えがお家デートだった。


 それなら夜一も親も心配させずに済む。


 理由を話したら母親も「あらあらまぁまぁ」とオッケーしてくれた。


 そのせいで時間が空いて夜一に余計な心配をかけてしまったが。


 ともかくそういう訳でお家デートを切り出したのだが。


 冷静に考えると大胆過ぎる。


 付き合って三日で家に呼ぶなんて破廉恥だ!


 ただでさた見た目だけはギャルなのに!


 そういう軽い女だと思われたくない。


 それで慌てて追加メッセージを送ったのだった。


 手遅れだったかもしれない。


 夜一はメッセージを返してこなかった。


 やだやだ、嫌われちゃったかも……。


 ううん、夜一君はそんな事で嫌いになったりしないもん!


 そうだろうか?


 真昼の周りを天使と悪魔が飛び回り、尖った槍でチクチクハートを刺してくる。


 それで真昼は反省した。


 会いたいのは夜一も同じだ。


 それを必死に我慢して心配してくれたのだ。


 わがままを言って困らせたら良くない。


 寂しいけど、一日くらい我慢しよう……。


 なんかもう、そう思うだけでズドーーーンとがっかりした気分だが。


 仕方ない。


 全部自分が悪いのだ。


 なので、やっぱりなしのメッセージを送ろうとした。


『真昼と親御さんがいいなら俺はいいけど』


 真昼はニャハー!? っと耳が生えそうな勢いで笑顔になった。


『大丈夫! お母さんにはもう許可取ったから!』


 やったやった! 明日も会える! しかもお家で! 夜一君とずっと一緒にいられるんだ!


 もう、真昼は嬉しすぎて小躍りしたい気分だ。


 というか実際した。


 お尻フリフリ、不思議な踊りだ。


 そうと決まれば夜更かしなんかしてられない。


 明日に備えて今日は早く寝て、早起きしてばっちり準備万端で出迎えないと!


 夜一も心配しているので、遊びに来る時間を決めたら今日のラインはおしまいにした。


「夜一君とあっえる~、夜一君とあっえる~、にしししし」


 大きな胸に携帯を抱いて、うっとりいい気分。


 明日会えると決まっただけで、お腹の底で渦巻いていた嫌なモヤモヤは消滅してしまった。


 代わりに今は、いてもたってもいられないソワソワが渦巻いていたが。


「そうと決まったら、お部屋綺麗にしとかな……い……と……」


 真昼の顏がサァーっと青ざめた。


 壁にはアニメのポスターとタペストリー、棚には漫画とフィギュア、床の折り畳み机にはミシンと作りかけのコスプレ衣装、他にも色々イケてるギャル的にアウトな痛いグッズの数々。


「あばばばばばばばばば!? どどど、どうしよう!? 隠さないと、あたしがオタクだって夜一君にバレちゃうじゃん!?」


 イケてるギャルは見た目だけ。


 中身はゴリゴリにオタクの真昼である。


 こんなの見られたら絶対引かれちゃう!?


「どうしようどうしようどうしようどうしよう!?」


 こんなパーフェクトなオタク部屋、ちょっとやそっとじゃ隠せない。


 それこそ引っ越し業者が必要なレベルだ。


 でも、今更夜一にダメとは言えない。


 だって会いたいんだもん!?


「お母さん! 余ってる段ボールない!?」


 半泣きになって母親に聞く。


 どうやら今日も、寝るのは遅くなりそうだ。

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