第14話 お家デートの誤算

 付き合ってまだ三日。


 それで彼女の家に遊びに行くなんて破廉恥過ぎる。


 でも会いたい。


 なんだかんだ夜一だってめちゃくちゃ会いたい。


 あまりしつこく断ると、それはそれで真昼を傷つけてしまいそうだ。


 そんな言い訳を自分にして、夜一は誘惑に負けてしまった。


 まぁ、行く事になってしまったのだから仕方ない。


 あとは野となれ山となれだ。


 それはそうと、付き合ってまだ三日の彼女の家で昼食をご馳走になるのは厚かましすぎる。


 お家デートで家には親もいるのだ。


 今後の事を考えて、そちらにも失礼のないようにしておかないと。


 ただでさえ、デートに誘って娘を体調不良にさせたダメ彼氏だ。


 夜一は夜一で結構その事を気にしていた。


 だから行くのは午後からにしようと言ったのだが。


『お母さんが昨日のお礼にお昼ご馳走したいって』


 本当かよ!? と思いつつ、そう言われたら断れない。


 そういうわけで、夜一はお昼ちょっと前に和無田家を尋ねた。


 インターホンを鳴らした瞬間扉が開いた。


 扉の前でずっと待っていたとしか思えないタイミングだ。


 緊張した顔の真昼は、なにか言おうとして言葉が出ない様子だった。


 夜一も言葉が出なかった。


 一日も経っていないのに、千年ぶりの再開みたいに嬉しい気持ちが込み上げた。


 大体、なんと言えばいいのか。


 おはよう? バカみたいだ。


 おじゃまします? まだおじゃましてない。


 好きだ? バカだろ。


 でも、油断したら言ってしまいそうだ。


 お互いに言葉が見つからず、もじもじしながら見惚れ合う。


「……よ、ようこそ」


 程なくして、絞り出すように真昼が言った。


「おじゃまします……」


 他に言葉が見つからない。


 真昼の家は結構立派な一軒家だ。


 お昼ご飯なのだろう、ふんわりカレーの良い匂いがした。


「きょ、今日はアロハじゃないんだね」


 恥ずかしそうに真昼が言う。


 なんだか一日で好感度が戻ってしまったみたいだが、そうではない。


 むしろ好感度が上がりすぎて、逆に緊張しているのだろう。


 夜一も同じ状態だったので気持ちは理解出来た。


「だって、親御さんもいるんだし。チャラついた格好じゃ来れないだろ」


 夜一にしては珍しく、今日は大人しい格好だった。


 地味な色をした無地の半袖シャツのボタンをしっかりしめて、下は七分のチノパン。


 ム印良品のマネキンみたいな格好だ。


 親受けを狙って清潔感を重視した。


 自分が父親だった、アロハに短パンの彼氏なんか絶対嫌だ。


「そんなの気にしないでいいのに」

「俺は気にするんだよ」


 緊張する夜一を見て、真昼がからかうように笑った


「意外に真面目なんだ?」

「自分でも驚いてるよ」


 真昼と付き合うまでは、そんな事考えもしなかった。


 決まりとか礼儀なんか、クソッタレと思っていた夜一である。


 ともあれ、それで夜一も少し緊張が解けた。


「親御さんは? 渡したい物もあるし、ちゃんと挨拶しときたいんだが」


 小中学生ではない。


 高校生の彼氏が娘の家に遊びに来たのだ。


 正直あまりイメージは良くないだろう。


 今更感はあるが、少しでも好感度を稼いでおきたい。


「渡したい物?」


 真昼が覗き込むので、夜一は手に提げていた紙袋を掲げた。


「お土産。つまらないもんだけど」


 来る途中の洋菓子店で買ったケーキだ。


 夜一を合わせて四人分買ってある。


「もう! そんな気にしなくていいのに!」

「そういうわけにはいかないだろ。いいから、先に挨拶させてくれ」


 いまだに夜一は玄関で立ち話をしている。


 両親への挨拶が終わるまでは、真昼と楽しくお喋りなんて気にはなれない。


 ところがだ。


「えっとその、これは本当に狙ってたとかじゃなくて、たまたまの偶然なんだけど……」


 困ったように真昼が苦笑いを浮かべた。


「お父さんはお仕事で、それはいつもの事なんだけど……。お母さん、お友達とカラオケに行っちゃって……」


 あんぐりと、夜一の口が空いた。


「そ、それってまさか……」


 真っ赤になって俯くと、恥ずかしそうに真昼がいった。


「……お家には、あたし達二人だけです……」


 なんてこった。

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