第11話 百万点

「……夢みたい」


 自室のベッドの上でくったりして、夢見心地で真昼は呟いた。


 さっきからずっと、夜一とラインをしながらほっぺをムニムニしている。

 もう、全身が幸せで溶けたみたいだ。


 あの後、無理しないで早く帰った方がいいと、食事は手早くマックで済ませた。


 本当はビッグマックが食べたかったのだが、小食ぶってフィレオフィッシュにしてしまった。


『そんなんで足りんのかよ』


 やっぱり夜一は怪しそうにしていたが。


 バカバカバカ! なんで見栄張っちゃうんだろう。

 あたしってそんな見栄っ張りな子じゃなかったのに!?


 夜一君の前だとめっちゃ可愛い子ぶっちゃう!?

 なにしても嫌われそうで怖くなっちゃう。

 少しでも可愛いって思われたい。


 恋って怖い。

 別人になった気分……。


 で、結局真昼は全然足りなくて、あっという間にフィレオフィッシュを平らげてしまった。


 ……ヤバい。

 もっとゆっくり食べるんだった。


 後悔しつつ、手はパクパクとポテトに向かう。


『足りないんだろ』

『そ、そんな事ないもん』

『無理すんなって。ほら』


 そう言って、夜一は食べかけのビッグマックを渡してきた。


 真昼は固まった。


『あぁ悪い。食べかけは嫌だよな。もう一個買ってくるわ』

『これがいい!?』


 思わず叫んでしまい、注目が集まる。


 やだもう、死にたい……。


 また泣きそうになっていると。


『素直でよろしい』


 夜一に頭をポンポンされた。


 そんなん好きになっちゃうじゃん!?

 いや、好きなんだけど。


 ていうか間接キスじゃん!

 いや、分かってて言ったんだけど。


 別に食べかけのビッグマックを齧ったって夜一の味がするわけじゃない。

 それなのに、今まで食べたどのビッグマックよりも美味しく感じられた。


 もう、この時間が永遠に続けばいいと思った。


 食べ終わると、これで解散かと思って寂しくなった。


 そしたら言われた。


『家まで送ってく』

『え、いいよ』


 そんなの悪い。

 今日はずっと、迷惑をかけてばかりだ。


『よくないって。心配だろ』

『大丈夫だよ。お腹いっぱいだし。元気百倍!』


 本当にもう大丈夫だった。

 これ以上面倒をかけて嫌われたくない。


『……もうちょっと一緒に居たいんだよ。言わせんな』


 頬を掻きつつ照れ顔で言われて、真昼は完全にまいってしまった。


 なにこいつ。可愛すぎ。


 もう本当に可愛すぎ!?


 大好き!


『……じゃあ、お願いします』


 それで家まで送ってもらった。


『じゃ、帰るわ。俺は今日、最高に楽しかったから。寝坊とか具合悪いのとか、本当気にすんなよ。嫌じゃなけりゃ、またデートして欲しい』


 ちょっと寂しそうに言うのである。


『あ、あたしも! すっごく楽しかった! その、こんな面倒な女で良かったら、またデートして下さい……』


 やだ。まだ帰らないでほしい。もっと一緒に居たい。なんなら泊って行ってほしい。いや、流石にそれは無理だけど。


『それを聞いて安心した。じゃ、またな』


 ニヤリと笑って背を向ける。


『ちょ、ちょっと待って! 助けてもらったし! お母さんに紹介させて! 送ってもらうから!』


 これはちょっとやりすぎかもだけど。


『え、いいよ。悪いだろ』

『も、もうちょっと一緒に居たいの!』


 大慌てで家に戻り、母親に全部説明した。


『あらあらまぁまぁ』


 母親はニコニコで了承してくれた。

 それで二人で後ろの席に座って夜一を車で送ってくれた。


『……すみません。送ってもらって』

『いえいえそんな。娘がお世話になりました。不束者ですが、よろしくお願いしますね』

『お母さん! 余計な事言わないでいいから!』


 この辺もちょっと失敗だが。

 でも、総合的には最高だった。


 自分はマイナス百点。

 でも、夜一のおかげでプラス百万点だ。


 付き合って二日目の最初のデートでこんなに幸せな事ってある?


「あ~ん! 早く次のデートがしたいよぉおおお!」


 ジタバタジタバタ。


 なんなら、明日だってかまわないくらいだ。


 ていうか、明日も会いたい。


『ねぇ夜一君。明日暇?』


 はぁ、彼氏って最高。

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