第5話 あたしを見て
『早っ』
送りつつ、夜一は心底ほっとした。
色々我慢の限界で最高にがっついたメッセージを送ってしまった。
なんなら速攻で削除しようと思ったくらいだ。
そしたら音速の『する!』だ。
『する』じゃない。
『する!』だ。
夜一は浮かれた。
だってこの返信の速さだ。
夜一と同じで、向こうも携帯を握りしめて連絡を待っていたとしか思えない。
その証拠が『する!』だ。
なんだよなんだよ、イケてるギャルの癖に可愛い所あるじゃんか。
もしかして、超SSRを引いちまったか?
さっきまでゲロ吐きそうなテンションだったのに、真昼からの返信一つで夜一は盆と正月と誕生日とクリスマスが一緒に来たような気分だ。
おいおいマジかよ。ちょっと前まで名前も知らない女だぞ。今だって名前しか知らない女だぞ。そんな奴と付き合っただけでこんなに嬉しくなるもんか?
夜一はビビった。付き合った瞬間、あの女の事が好きになってしまった。『する!』の返事が来た途端、それは確信に変わった。
なるほどこれが恋ってやつか。そりゃみんなしたがるわけだ。
最高にいい気分だ。世界の主役になったみたいだ。
なんて思ってる内に返事が来る。
『……だって、ずっと待ってたし。てか、連絡遅いから!』
はぁ? なんだこいつ。可愛すぎかよ。もっとサバサバした怖そうなギャルだったろうが。こっちは遊ばれてるんじゃないかって不安だったんだぞ!
口元でニヤニヤしながら返信する。
『ごめん。あの後日射病みたいになって昼寝してた』
『大丈夫? ていうか、そんなんで明日デート出来るの? 無理しない方がいいと思うけど……』
おいおいこいつ、噂に聞くオタクに優しいギャルじゃねぇか! ただのSSRじゃない。期間限定の周年キャラだ!
夜一は右に左にベッドの上を転がった。さっきから嬉しくって落ち着いていられない。なんなら何回かベッドから転げ落ちて妹にうるさい! って怒られたくらいだ。
とはいえ、これでデートが流れたら困る。相手は可愛くて胸もデカいオタクに優しいSSRギャルだ。絶対にモノにしたい。夏休みだしクラスも違う。積極的にいかないと何も起きずに自然消滅まったなしだ。
『余裕。寝たら治った。折角の夏休みだし遊びたいじゃん』
『……そうだけど。本当に無理しないでね?』
一度ならずに二度までも。
優しすぎる。まるで彼女みたいだ!
って彼女か! がははは!
『してないって。てかさ、和無田さんってギャルなのに優しいのな』
『ギャルは余計』
やばい。
調子に乗って怒らせたかも。
『ごめん』
『怒ってないよ!』
ほっとした。
『!』がついてるならセーフだろう。
『マジビビった』
『意外かも』
『なんで?』
『変人ぽいから』
『よく言われる』
やばい、無限に会話が続く。
こんなにすいすい女子と会話するのは初めてかもしれない。
まぁ、ラインだからだろうけど。
『てかさ、真昼でいいよ。彼女だし』
「くぅ~~~~!」
嬉しくって夜一は転げた。
彼女だし。つまり彼女だ。間違いない。言質取った。嘘告の線はないと思っていい。むしろ向こうもウェルカムだ。だって真昼でいいんだもん。
『ワンダもよくない? 外人みたいで』
変わった苗字だ。
大和撫子みたいな字面なのに異国感がある。
『それ、みんな言うから』
『じゃあ真昼で。俺も夜一でいいよ』
いかんいかん。テンション上がりすぎてウザい感じになっている。
夜一の悪い癖いだ。自嘲せねば。
『てかあたし達、昼と夜じゃん』
『それ思った』
キザっぽいかなと思って黙っていたが。
相手に言われると結構嬉しい。運命感じちゃう。
『ベンチでなにしてたの?』
ころころと話題が変わる。それはいい。真昼の事をもっと知りたい。ずっと我慢していた。話したい事が幾らでもある。でも、その話題はまずい。
『日光浴』
咄嗟に誤魔化した。
まさか女子バレー部を眺めてたなんて言えない。
『本当に?』
本当だって言えばいい。ちょっと無理があるけど、まぁ誤魔化せるだろう。
……でも出来ない。
だって彼女だ。嘘をつくのはやましい。
どうしよう。早くしないと変な感じになってしまう!
『走ってる女子バレー部眺めてたとは言えないっしょ』
結局夜一は正直者を選んだ。
『言えないっしょ』の所に悪あがきが滲んでいる。
『……サイテー』
グサリなんてもんじゃない。グチャリだ。夜一は心底後悔した。絶対嫌われた。おしまいだ。こんなんなら嘘つけばよかった。
慌てて挽回を試みる。
『いや冗談だって』
『……本当?』
さぁ、今度こそ上手く誤魔化すんだ!
こんな所で失恋RTAをしてたまるか!
『……嘘です』
『……サイテー』
あぁ俺のバカ! バカバカバカ! でも仕方ない。彼女に本当? って聞かれて嘘をつくようじゃ彼氏失格だ。
でも嫌われたくない!
『そうだけど、嘘つくよりいいだろ?』
桜の木を切った大統領も正直に言って許されてたし、付き合う前の事だから勘弁して欲しい。
祈るような気持ちで返事を待つと。
『これからはそういうの禁止。彼女がいるんだからあたしを見て』
危うく夜一は心臓麻痺で死にそうになった。
『……ごめん。重かった?』
『全然! 重い女大好き!』
もう一度頬を抓る。
こんな彼女、夢でだって見た事ない。
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