第4話 する!

「もー! なんで連絡して来ないの!?」


 携帯と睨めっこして数時間。

 待てど暮らせど夜一からのメッセージは来ない。


 おかしいでしょ!? 付き合った初日だし、こういう時は向こうから連絡してくるもんじゃないの!?


 これからの事とか、お互いの呼び方とか、デートの予定とか、色々話し合う事あるでしょうが!?


 じたばたじたばた真昼が泳ぐ。時々お母さんにうるさいわよ! と怒られる。

 だってお腹の底がもぞもぞして落ち着かないんだもん!


 気付けばもう夜だ。

 もしかして、このまま連絡をしてこないつもりだろうか?


 思い返せば変な奴だった。だって、真夏に校庭のベンチで一人黄昏ているんだ。その時点で普通じゃない。見た目もなんか一匹狼の変わり者って感じだった。ていうかもう、全ての要素が普通じゃない。


 ちょっとチャラそうだし、もしかして普通に女がいっぱいいて、セフレだと思われてるとか? 一応真昼は見た目だけはイケてるギャルだ。モテたくて高校デビューしただけで、中身はむしろ陰キャ寄りだ。ともかく、勘違いされる要素はある。


 セフレはやだ。そんな爛れた関係真っ平ごめんだ! こっちはピュアピュアの処女なのだ。そりゃ、エッチな事には勿論興味はあるけど、ちゃんと甘酸っぱい恋愛をしていい感じになってお互いに好きになってしっかり好き好き見つめ合ってロマンチックに迎えたい。


 ともかくどうしよう。こういう時、こちらから連絡を取るべきだろうか。彼氏持ちの友達に相談したいが、こんな訳のわからない流れで彼氏が出来たなんて言ったら笑われるか叱られる。


 あんた、なにやってんの!?

 仰る通りだ。反省してます。


 大体、からかわれてるだけかもしれない。もしそうだったら赤っ恥だ。

 ちゃんと関係が軌道に乗るまで、友達には相談できない。


 でもどうしよう!


 こっちから連絡したらがっついてるみたいで嫌だ。尻軽だって思われて軽く見られるかも。友達も恋愛は駆け引きだって言ってた。焦ってアクションを起こすと相手に主導権に握られる。男ってのはズルいんだから! だそうだ。


 一方で、連絡しないとそのまま自然消滅しそうで怖い。全然あり得る話だ。向こうだって冷静になったらわけのわかんないギャルと付き合うのは嫌だって思うかもしれない。


 それに、折角の夏休みだ。こうしている間にも時間は過ぎていく。本当なら明日にだってデートしたい! だって、折角の彼氏と夏休みだ! 思いっきり遊ばないと勿体ない!


 あぁどうしよう!?

 あたしはどうしたらいいの!?


 気付いたら九時過ぎだ。こんな時間になったら余計に連絡が取りずらい。

 明日遊ぼうとか誘うにも急すぎる。つまり今日はもう閉店ガラガラ。


 本当に? やだやだやだ! 連絡してよ~!


 なんだか真昼は泣きたい気分になってきた。


 全然知らない男の子なのに、今日一日夜一からのメッセージをずっとずっと楽しみにしていた自分に気付く。この気持ちがぬか喜びじゃないって証明して欲しい。じゃないと胸がドキドキお腹がズシン、頭がグルグルしてバラバラになっちゃいそう!


 このままじゃとてもじゃないけど眠れない。ていうか、寝てる間にメッセージが来るかもしれないし。無視したって思われたら嫌だし!


 ……もう無理、限界。こっちから送ろう。


 そう思って携帯を構えるが、なんと打つべきか。


 とりあえず、『ヤッホー?』とか? 

 意味不明だし、既読スルーされたら死ねる。


『今日暑かったね~』とか? 

 くそつまんない。夏なんだから当たり前だ。

 変な奴っぽいし、つまらない女だってがっかりされそう。


 もう、直球で『明日暇?』って聞こうかな。


 それが一番な気もするけど、暇って言われたらどうしよう。そりゃ勿論デートだけど、デートしようって言うのはまた違うじゃん。大体、デートってなにすればいいのかわかんないし。


 わけわかんないままホテルとか期待されても困るし。

 その辺ちゃんと考えてからじゃないとデートなんて言えないよ!


「う~……考えすぎて頭痛くなってきたああああああ!』


 携帯を胸に抱いてバタバタバタバタ。

 こんなにバタバタしたら筋肉痛になりそうだ。


 ブブブブ。


「ひやぁん!?」


 胸の上で携帯が震え、真昼はうっかりヤバい声が出た。

 恥ずかしすぎる。親に聞こえてませんように。


 ともかくラインだ。


 お願い神様! 夜一君からのメッセージでありますように!


 目を瞑ってお祈りし、そ~っと薄目を開く。

 木戸夜一。彼氏からのメッセージだ!


 それだけで、真昼は身体が跳ね上がりそうなくらい嬉しかった。


 なんで、どうして? 

 まだろくに喋った事もない男の子なのに?


 なんでただ彼氏になっただけでこんなに嬉しくなっちゃうの!? 


 超理不尽! 

 マジで意味不明!


 わかってる。

 これは俗にいう、恋に恋する状態だ。


 でも嬉しい。

 分かっていても嬉しいんだから仕方ない。


 なにかななにかな!

 期待して確認すると。


『急だけど、明日暇ならデートしない?』

『する!』


 即レスして、真昼は青ざめた。


 バカバカバカ!


 これじゃあ携帯に張り付いて待ってたのがモロバレじゃん!?

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