第3話 WHY!?
「……夢じゃないよな」
そんな事は分かっているが、何度だって頬を抓って確認したくなる。
だって夏休み初日にいきなり知らないギャルと付き合う事になったのだ。
しかも可愛くて胸がデカい。
こんなの誰だって夢だと思うだろう。
変に慌てたりがっついてもダサいので、とりあえず連絡先だけ交換して家に帰った。
……バカバカバカ!
そこは向こうが補習終わるまで待ってる所だろうが!
で、適当に喫茶店でも入って改めて自己紹介とかして親交を深める所だろ!
いや、それは夜一だって分かっていた。
実際真昼が補習に行った後、十分程ベンチで悩んだものだ。
けど、特になにも約束してないし、向こうの補習が終わるまでベンチで待ってたらなんかストーカーみたいでキモイ。てか暑い。普通にもう限界。ちょっと日射病かも。
自己紹介云々だって、なんかマヌケな感じだ。大体お互い初対面なのに、喫茶店なんか入っても会話が続く気がしない。その後どうすんのって話。てか頭いてー。彼女ってマジかよ。
そういうわけで家に戻り、頭を冷やして昼寝した。
で、冷静になって焦った。
夢じゃないよな? 携帯にはバッチリ和無田真昼の連絡先。
夢じゃない。うひょ~!
そこで夜一は困った。
彼女が出来たのは良い。実に良い。
夏休み初日だ。滑り込みセーフ。最高のタイミングと言える。
でも、どうすりゃいいんだ?
お互いに知っている事と言えばクラスと名前くらいのものだ。
二年一組 木戸夜一。
二年五組 和無田真昼。
以上。
付き合う事になったのはいいが、ここからいったいどうすればいいのやら。
というかあの女、どういうつもりで告って来たんだ?
意味が分からん。
接点なんか一ミリもない。
痴漢とか暴漢から助けた記憶なんかまるでない。
というか今までそんなイベントにあった事がない。
……からかわれてるんじゃないよな?
なんかやり手のギャルっぽかったし、有り得ない話じゃない。
夜一はクラスで浮いてるし、変な奴だって噂になっていて嘘告されたのかも。
だとしたら……がっくりだ。
超落ち込む。ぬか喜びも良い所だ。
ちくしょうあの女! 俺の純情を弄びやがって!
けど、そうと決まったわけじゃない。というか、なに一つ決まってない。
なんならまだラインのやり取りもしていない。
連絡先を交換してそれっきりだ。
WHY!?
昼寝したからもう夜だ。
その間、一つくらいメッセージがあっても良さそうなもんじゃないか?
やっぱり嘘告か? 確かめたいが、どうすればいい? 嘘告ですか? なんて聞いて正直に答える馬鹿はいない。嘘告じゃなかったら普通に怒られて破局だ。
なんてったってカップ麺もびっくりの即席カップルだ。なんのバックボーンもない。いつ別れたっておかしくない。そもそも本当に付き合ってるのかも怪しい。
それはそれとしてラインを送りたい。だってやっとできた彼女だし。とりあえず彼氏っぽい事をしたい。デートの予定を立てたり、お互いの呼び名を決めたり、どんな感じで付き合っていくか相談したり。
でも、嘘告だったらバカだ。馬鹿丸出しの証拠が残って笑い者だ。それは嫌だ。
向こうはやり手のギャルっぽいし、結構遊び人なのかもしれない。ドライな関係をお求めなのかも。そう思うと、出来れば向こうの出方を見たい。
一件でもいい。そうすれば雰囲気が掴める。その後の方向性もわかる。というか、純粋に最初の一歩が難しい。昼寝で時間が空いたせいで余計に気まずい。
携帯を握りしめたまま、時間だけが過ぎていく。
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