第2話 出来ちゃった♡

「うわあああああああああ!?」


 帰宅するなり、和無田真昼わんだ まひるはベッドに飛び込みバタ足の練習を始めた。


 やばいやばいどうしよう!

 なんか彼氏出来ちゃった!?


 人生で一度の高校二年の夏休み初日。

 華の女子高生が彼氏も作らず学校で補習。


 くそだりぃ。


 あたし結構可愛い方なのに、なんで誰も告ってこないの!?

 これじゃあなんの為に見た目に気を使ってるかわかんないよ!?


 そんな気持ちでイライラしながら英語の補習を受けに行った。

 友達はみんな彼氏持ち。そんな状況にも焦りがある。


 そしたらいい感じの男子が気だるげにベンチでダレている。口の端でアイスをチューチュー吸いながら、この世の理不尽を嘲笑うようなシニカルな顔で黄昏ているじゃないか。


 ちょっと漫画みたい。どうせ付き合うなら、ああいう変わったタイプの男子がいい。まぁ無理だろうけど。真ん中に植えられた木を避けるように、二股になって合流する道。右に進めば謎の雰囲気イケメン。前を通ってちょっと太ももでもアピールしたら声かけてくれないかな。


 なんてそれこそ漫画みたいな事があるはずない。

 なんだかんだ奥手な真昼は彼の前を避けて左の道を選んだ。


 はぁ、そんなんだから彼氏出来ないんだって!


 自分に呆れつつ、だって怖いんだから仕方ないじゃん! と思う。


 そしたら聞こえた。


「あー。誰か俺と付き合ってくんね~かな~」


 丁度真後ろに来たタイミングで。


 こんなの狙ってるとしか思えない。


 どうしよう! 遠回しに告られちゃった!


 そう思って勇気を出した。


 勘違いだったら恥ずかしいから、やり手のギャルを装ってクールに言ってみた。


「じゃあ、あたしと付き合う?」


 きゃー! 漫画みたい! あたし凄くない!? 少女漫画の主人公じゃん!


 そしたら向こうもクールな感じで仰け反って、ニヤリと笑って言ってきた。


「もろちん!」


 なにそれ、バカじゃん。


 予想外の返答に真昼は笑ってしまった。

 なにこいつ、おもろ。


 で、連絡先を交換して補習を受けて帰ってきた。


 冷房の効いた部屋で冷静になる。


 あたし、どうかしてたでしょ……。

 あんなの全然まともじゃない!?


 夏の暑さで頭が茹っていたとしか思えない。

 あのクソ暑い中校庭のベンチで黄昏てるとかおかしいし。


 名前も知らない男子に告る自分もおかしいし。

 それを受けちゃうあいつもおかしい。


 しかも「もろちん!」だ。

 ド下ネタじゃん!?


 あーやばいやばいどうしよう! 絶対変な奴だ! 

 初彼なのにわけわかんない奴と付き合っちゃった!?


 焦りと恥ずかしさでバタ足がバタフライに変わる。


 暫くベッドの上で溺れると、真昼は枕元のデカいぬいぐるみを抱きしめた。


「……でも、彼氏出来ちゃったぁ~」


 でへへと口元が緩む。


 とりあえず、どうするかはもうちょっと付き合ってから考えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る