夏休み初日に知らないギャルと付き合う事になった話
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 もろちん
「……くそだりぃ」
購買で買ったボトルみたいなアイスをチューチュー吸いながら、
人生で一度きりの、高校二年生の夏休み初日。
本当なら朝日が昇るまでゲームをして、昼過ぎまで惰眠を貪りたい所を、数学のテストで赤点を取った為、嫌々補習を受けに来ていた。
わざわざ一科目の補習の為に朝起きて制服を着てクソ暑い中登校して見たくもない先生の顔を拝んで嫌味を言われて帰る。
しかも、夏休み初日に。
くそだりぃ以外のなにものでもない。
手ぶらで帰るのも癪なので、アイスを食べながら校庭のベンチに座っている。
校庭では先程から、半袖短パンの女子バレー部が汗だくではぁはぁ言いながら走り込みを行っていた。
Tシャツは汗で透け、色とりどりのブラが薄っすら存在感を主張している。普段は屋内で練習をしているのか、まだ日に焼けていない白い肌が目に眩しい。まったくもって良い眺めだ。
女子バレー部の連中には不審な目を向けられているが、夜一はさして気にしなかった。元から夜一はクラスでちょっと浮いている。変な目で見られるのは慣れっこだ。どうせ知らない女子ばかりだし、元より他人の目なんか知った事かと思っている。
夜一には彼女がいない。いた試しがない。告白なんかされた事がないし、誰かを好きになった事もない。そういうの、よくわかんねぇ。
女は好きだ。だって男だ。
可愛い、綺麗、エロい、興味津々。
彼女だってそりゃ欲しい。
イチャイチャ、デート、セックス、したいに決まってる。
けれど、その彼女に具体的な顔と名前を与えられない。
夜一には女友達がいない。別に嫌われてるわけじゃない。普通だ。普通にちょっと話したり、挨拶したりする程度。
でも、ちょっと以上の関係を持つ女子はいない。大体みんなそんなもんじゃないかと夜一は思う。女は女の世界で生き、男は男の世界で生きている。一部の例外を除けば、関わることは稀だろう。
これが部活にでも入っていれば少しは違うのかもしれないが、夜一は辛い練習も集団行動も偉そうな顧問も真っ平ごめんだ。自由気ままな帰宅部である。当然出会いなんかない。
恋をした事もない。大体恋ってなんだ? 赤の他人を女ってだけでどうして好きになれる? そりゃ、可愛いエロいおっぱい揉みてーって女は幾らでもいる。けど、そんなのは恋じゃない。ただの欲だ。
別に欲で付き合ったって問題ない。全然おっけーだろう。けど、欲だけでは彼女は作れない。女に告白するにはそれなりの勇気が要る。勇気は動機から生まれる。欲にはそこまでの力はない。
精々、誰か告ってくれれば付き合うのによ~! と思う程度だ。余程ヤバそうな女でなければ、ありがたく頂戴する。そう思って今日まで生きてきた。その結果の年齢=彼女無し。
別に焦るような歳じゃないが、そうは言っても高校二年の夏休みだ。
限られた青春と言う意味では、結構焦る時期かもしれない。
そういう意味でもくそだりぃ。
「あー。誰か俺と付き合ってくんね~かな~」
校庭のベンチでそんな事を一人で言ってたら変な奴だ。
そして夜一は変な奴だ。
けど、ちゃんと周りに人がいないか確認するくらいの分別はある。
生憎人間の目では後ろまでは見えなかったが。
「じゃあ、あたしと付き合う?」
背後から声をかけられ、夜一はぐいっと仰け反った。
逆さになった視界には、結構いい感じの金髪ギャルがつっ立っていた。
どこかで見たような顔だが、面識はなし。
学年すら定かじゃない。
怪しい男の怪しい独り言に即レスする妙な女。
かなりヤバい。
でも、それを補う顏と胸。
なにより夜一は思ったのだ。
おもしれ~女。
ならば行かない理由はない。
「もろちん!」
そして彼女が出来たのだった。
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