第6話 初デート
「うわああああああ!? 寝坊したああああ!?」
そんな事リアルで叫ぶ奴はそうそういない。
でも仕方ない。
昨日付き合ったばかりの初カノとの大事な初デートに思いっきり寝坊したのだ。
待ち合わせは駅前に十一時。
今は十三時。
準備と移動で最低でも二時間半は遅刻だ。
というか、真昼はとっくに怒って帰っているだろう。
あぁバカバカバカ! 俺のバカ!
なんでこんな大事な時に寝坊なんかするんだよ!
悔しくて夜一は自分の頭をドジっ子みたいにポカポカ叩いた。
男がやっても全然可愛くない。
ともかく連絡だ。ひたすら謝るしかない。メッセージじゃだめだ。通話じゃないと! ブロックされてなきゃいいけど……。てか、初通話が遅刻の謝罪とかダサすぎるだろ!?
半泣きになりながら携帯を操作する。
恐ろしい事に真昼からはなんの連絡もない。
終わったと思った。
当然だ。
昨日あれだけ二人で盛り上がっておいて寝坊したのだ。
愛想も尽かされる。
でも言い訳をさせて欲しい。ラインが盛り上がりすぎてやり取りが終わったのは午前二時過ぎだ。それからも興奮して朝日が昇るくらいまで眠れなかった。そりゃ寝坊もする。
幸いラインはブロックされていない。
だが、出ない。
何度コールしても真昼は出ない。
嫌われた。おしまいなんだ。
がっくりうな垂れ通話を切ろうとする。
『……もひもひ……』
その直後、凄まじくドスの効いた不機嫌声がうざったそうに答えた。
ヤバい!
めっちゃ怒ってる!
当たり前だ。昨日付き合ったばかりの初カノとの以下略だ!
ともかく夜一は謝った。携帯を片手にベッドの上で土下座する。
『ごめん真昼! 寝坊した! マジでごめん! 本当ごめん! ごめんごめんごめんごめん!』
『……ふぇ?』
寝ぼけたような声が答えた。
あれ? っと思った。
『……あー、真昼? もしかしてだけど、お前も――』
『うわああああああ!? 寝坊したああああ!?』
大音量の絶叫と共に携帯が床を転がるガチャガチャ音。
『ウソウソやだもう最悪信じらんない有り得ない夢だって言ってよもうやだやだやだああああああ!?』
バタバタと暴れるような音と共にマジ泣き寸前のぐずり声が聞こえてくる。
携帯を拾い直したのか音質が戻る。
『ふぇええええん! 夜一君ごめんなさい本当にごめんマジでごめん有り得ないよねあたしもそう思うなんでこんな事になっちゃたのかあたしも全然わかんないけどとにかく寝坊しっちゃったごめんなさい!』
『ストップ、ストップ! 落ち着けって! 俺もだから!』
『ひっぐ、えっぐ、ふぇ?』
『だから、俺も寝坊したんだよ。あの後デートが楽しみすぎて朝まで寝れなくて今起きたんだ。そんで謝ろうと思って電話したんだよ』
『ぅ、えっぐ、本当? あたしに気を使って嘘言ってない?』
ぐすぐす泣きながら真昼が言う。
可愛すぎて夜一は胸を掻きむしった。
『そんな嘘つかないって。てか、思い出してみろよ。第一声でめちゃくちゃ謝ってただろ?』
『そうだっけ? 寝ぼけてたから全然覚えてないや……』
『とにかく、二人とも寝坊だからセーフだって』
『……でも、夜一君に起こして貰ったし。あたしの方が寝坊だし……しょぼん』
『いやもうここまで寝坊したらどっちもどっちだろ。それよりデートどうする?』
『したい! ……けど、夜一君が嫌じゃなければ……』
食い気味に叫ぶと、真昼は気まずそうに言ってきた。
『嫌なわけないだろ、寝坊するくらい楽しみにしてたんだぞ?』
冗談めかして言うと、真昼も『えへへ』と笑った。
『あたしもだけど……なんかそれ、変な感じ……だ……ね……』
不意に声のトーンが下がる。
『どうかしたか?』
『だ、だって、寝起きのブサイク声聞かれちゃったんだもん!? お願い忘れて!? さっきはたまたま!? いつもはもうっちょっと可愛く起きるから!?』
そんな事、気にもしなかった夜一である。
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