第5話 最終話

結局キャプテンとしてどう変わればいいのかもわからないまま太陽は何度も沈み、頼んでもいないのに昇ってきた。


今日は練習試合だ。チームの士気を上げるのもキャプテンの役目だろう。


先代のキャプテンなら僕よりも上手にみんなの士気を上げたはずだ。

でも僕だって...。


「練習試合だからって勝ち負けは疎かにしないぞ!何が何でも勝って、勝ちから多くを学ぼう!っしゃいくぞぉ!!」


「オォッ!!!」

僕の打順は3番だった。相手の投手を見た。綺麗な真っ直ぐだ。そして曲がり幅の大きいカーブ、キレのいいスライダーもある。いい投手だった。この投手の前に1、2番は凡退、僕に打順が回ってきた。


まだまとまりのないチームが故か相手のテンポのいいピッチングの前に簡単に流れを渡してしまった。

落ち着け、こんな時のためのキャプテンなんだ...!ここで絶対に打つ!

「ストライク!」

アウトローいっぱいに手が出なかった。もっとアウトコースも意識しないと、っと思った次の2球目、インコースに入ってきたカーブに手が出てしまった。


打球はボテボテのサードゴロになった。やってしまった。走ったがアウトだ。そりゃそうだ...。こんな打球、打った時点で負けだ。


3回が終わり1:0。


こちらはいまだに1人のランナーも出せていない。次は打たないといけない、がなんだか打てそうな気がしない。


それが顔に出てたのか後ろからサトルが声をかけてきた。「力みすぎだ。落ち着け、お前はチームを引っ張ろうとか考えなくていいんだよ」

「サトル...」


「そうですよ」


今度はユウキが声をかけてきた。

「キャプテンが思ってる以上にみんなキャプテンのこと好きですしね!」

「ユウキ、お前なんかキモいぞ今の」

「サトル先輩が言い始めたんでしょ!!」

「はははっ、まあ、そういうこったオサム!自分で自分を追い込まなくていい。自分にできそうなことからやってみてくれよ!俺との役割分担ってことでよ」


自分にできそうなこと...それが自分と向き合うということなのだろうか...。サトルは結局シオリと同じことを言ったのだ。


「僕にできることか...」

と考えていると

「だから!いちいち悩むなよ!色々やってみりゃいいんだ。ほら行ってこい。塁でろよ」


ちょうど前のバッターが三振したところだった。


したたる汗と熱く全身を焼く日光、そして、それよりもはるかに熱く背中を押してくれる声援を感じながら確かな足取りで打席へ向かった。


まずは堂々としていようと思った。それでいて泥臭くいよう。僕はやっぱりキャプテンは嫌いだ。キャプテンになって良いことなんて見つけるのが難しい...。


悪いところはいくらでもあるくせに。割に合わないのだ。

「ストライク!」

外のスライダーを体を動かさず見逃した。

狙ってない球なんて打ってたまるか。

周りの声なんて聞こえない、立てたバットが光を反射する中僕は次の球を待った。


キャプテンをなんで続けているのか、何でこんな役を引き受けているのか、多分答えはまだ出ない。将来役に立つ経験になる、何て言われても納得できる気もしない。だけど、だけど、


ガキンッ!

インコースのカーブをまた引っかけてしまった。まだ終わってない...セーフになってやる!


それが僕にできることだから、足を猛回転させ、土にスパイクのあとを刻みながら一塁を目指す。

絶対セーフになる...!だからみんな頼む、ついて来い!

そして僕は一塁に頭から滑り込んだ。

「セーフ!!」


まったく泥臭い...。まあこれで良い。答えなんかまだいらない。


みんなからの重圧、責任、そしてなによりキャプテンという役目なんかに負けたくない。そのために僕は必死でもがいていこう...。不器用なキャプテンとして。


ユニフォームは汚れてしまった。洗濯が大変だ。が、汚れた分だけ心のモヤモヤは晴れていくような気がした。


ー終ー

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