不変の輝き②
降り注ぐ紫色。薙ぎ払うように放たれた稲妻が、大地を引き裂いた。
鳴り止まず炸裂する轟音に、鼓膜がどうにかなりそうだった。霊装を身に纏ってないければ、とうの昔に鼓膜は破裂し、眼球は光に焼かれ、深淵の闇の中でのたれ死んでいたに違いない。
また、躱すのも容易なことではない。眼帯を外したカルラの魔攻は、先までの戦闘がお遊びだったかのように威力を膨れ上がらせていた。
「さっきまでの威勢はどこにいったの、ルリアちん♡」
宙より、まるで指揮者のように雷を操るカルラ。桁違いにまで膨れ上がった戦闘力を前にして、ルリアは言葉を交わす余裕はない。
全方位から襲いかかってくる稲妻と槍の刺突。互いに相殺することなく器用に迫るそれらに加えて、明らかに異質な攻撃も混ざり始めていた。
「―――」
一瞬、歪む空間。そこから稲妻が
「くっ」
苦渋と共に放った剣撃が紫電を迎え撃ち、ルリアの背中に稲妻が、槍が肩を貫く。
痛みに喘ぐ暇もなく、鉄風雷火の結界が畳み掛けてくる。
「ほらほらほら、上手に避けないとサクッと逝っちゃうよ?」
「――っ、ぁッ!?」
前方から放たれた超高速の刺突を真上に弾く。瞬間、ルリアの身体が真横に吹っ飛んだ。
槍による薙ぎ払いだと、地面をバウンドしながら理解する。
「なぜ、って思うでしょ。あるはずのないところから攻撃が浮き出てくる。あーしの動きが速いから? ううん、違う。ルリアちんの目で追えないほどの速度じゃない。ならどうして? 答えは単純」
上唇を舐めながら、カルラは答えた。
「過去のあーしが、未来のあーしがそこに攻撃を加えたから。ただそれだけのこと」
至極当然の理屈を説明するかのような軽快さで与えられた答えに、ルリアは苦渋を飲んで納得した。
「つまりあーしの攻撃は時空を超える。場所も距離も時間すらも関係ない。狙った場所に攻撃を出現させる。これが、淫我だよ。ルリアちん」
淫我――性的興奮の度合によって身体能力の上昇や物理法則を超越した力を扱うことができる魔技。
恐ろしい手管だとは聞いていたが、実際に体験してみるのとではやはり違う。
確かに恐ろしい。格段に戦闘の質が変わった。このままでは敗北するだろう。
故に、カードを切るには最適の段階だった。
「空掌」
両の手のひらを重ね合わせる。瞬間、残光と共に稲妻が弾けた。
「へえへえ。随分とまあ、集めてきたねえそんなもの」
鈍い音を揺らしながら開かれる、無数の黒穴。
奈落から覗く魔物の瞳孔のように開かれたそれから、極光が
唸る雷電を真正面から撃ち落とす、幾多もの
その全てが対
「抱いた聖気の質量なら霊装に劣らない」
「あーしの雷を防ぐには十分ってことねえ。相変わらず飛ばした武器のコントロールもお上手で」
「カルラ。私はね、とても後悔してるの」
一つの惑星が終わりを迎えているかのようにも思える地獄の最中で、ルリアは地を蹴った。
「私がもっと強ければ、私がもっとあなたのことをわかっていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないと――そう思わない日はなかった」
「あーしは確かに不幸だったのかもしれないけれど。今のあーしはとても幸せだよ?」
まるで意志を持つかのように雷雨を迎え撃ち、砕かれ、その役目を終えて散る刃に己を重ねて、ルリアは稲妻と刺突を切り結ぶ。
「あーしは幸せ。ルリアちんに分けてあげたいくらい。ううん、むしろ可哀想に思えてしまうほどに。だから……だから、ルリアちん。彼の抱擁を受け止めて」
「あなたは正気を失ってるだけ。きっとあなたには、私の言葉も心も届かないし理解できないと思う。でも、それはあなたのせいじゃない。悪いのは、全部あの男だから。私だけが、知ってる。本当のあなたを。だから」
一際眩いかがやきを放つ剣。その溢れ出る霊威に、カルラは目を疑った。
「なに、それ……そんなの、知らない――」
「絶剣――でも、見せるのは一瞬だけ」
「―――!」
カルラの背筋を舐めとる悪寒。強烈な嫌な予感に、カルラは無意識のうちに身体をゆみなりに沿った。弓を引き絞るように、全力の淫我を槍に注ぎ込む。
「私はあなたの友達だから」
故に、この一撃を。
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