迷宮街砦の闇堕ちギャルと、崩れた防衛線


「こ……断る、わ。わたしは、聖騎士パラディンよ。たとえ死ぬことよりも非道な目にあったとしても、絶対に魔に屈したりしない……っ」

「そうか」



 震える唇を噛み締め、ルリアは力強く答えた。

 不死種アンデッドのように蒼白な顔。これから起こるであろう未来を憂い、そして絶望しながらも瞳だけは生きている。

 ああ、どこかで視たことがある眼だ。

 百年ほど前に、俺はその眼を視たことがある。



「つくづく、似ているな」



 本当に、生写しのようだ。



「……比べて見るのも、悪くないかもしれん」

「……?」



 脳裏に親子丼というワードが過ぎった。

 ルリアの肉体をコピーし再現することができれば、俺に取り憑いているルミカも納得して受け入れてくれるかもしれない。

 わがままなルミカは、これまで何度も、用意した素体が気に食わず入ってくれることはなかった。だがアールマティの肉体なら文句も言わないはず。

 それに、どうせなら……



「おまえの母の姓はアールマティか?」

「……それを聞いて、どうするの?」

「参考までに」



 訝しげに俺を睨むルリア。程なくして、彼女は口を開いた。



「パパは、婿養子よ」

「なるほど」



 三代まとめていただきます。



「わ、わたしだけにして……! 他の人には、手を出さないで!」



 我ながらに邪悪な考えを察したのかはわからないが、ルリアは懇願するように言った。



「わたしだけなら、いい。わたしだけなら……! でも、ママやパパを巻き込まないでよ。他の聖騎士にも、罪のない民にも……!」

「それはおまえの態度次第だ」

「うぅ……」



 人差し指で頬をなぞる。



「俺に媚びろ。俺に飢えろ。俺を求めて、俺に果てろよ。

 俺は同胞には優しいし、贅の限りを尽くさせてやる。願い事だって何度でも叶えてやる。

 だが、生者の願いなんぞを聞く耳は持っていない」

「……!」

「バカでもわかるように言ってやる。とぼけられないように、鈍感を気取れないように、はっきりと言ってやる。

 ——俺の寵愛が欲しければ、人間をやめろ。自らの意志で、それを示せ」

「………っ」



 迷っているようだった。唇から血が流れるほどに噛み締めて、全身を震わせている。

 いや、口に出したくとも、何かが堰き止めているようにも見える。

 小さな口を何度も開いては閉じてを繰り返し、視線を右往左往させて。


 ああ、このじれったさがたまらなく気持ちがいい。

 結末は視えている。それはルリアだってわかっているはずだ。

 なのに、必死に抵抗し、思索し、希望を死に物狂いで探している。

 愛おしいな。ああ、純粋に彼女を抱きしめてやりたい。

 愛でてやりたよ。じっくりと、草花に水を撒くように。

 一瞬で堕とすなんてもったいないことはしない。

 彼女だけは、時間がかかってもいい。

 ルカヌスのように、自らの意志で堕ちることを選ばせよう。



『主様、シンシアでございます』



 頭の中で、上位幽鬼士オグナの声が響いた。念話だ。



『どうした?』

『こちらの方で金髪の女を捉えました。まだ生きていますが、どうなさいますか? なかなかに美形、さらに面白い過去を持っています。お気に召すかと』



 金髪の女……あのギャルっぽい女の子か。

 配下の視点からみていたが、ルリアと彼女は相当仲が良かったはず。



『面白い過去って、どんな?』

『それが——」



 ほぅ。へぇ。ふぅん。

 なるほど、これは使えるかもしれない。



『その女……カルラだっけか? こちら側に連れて来い』

『御意』



 念話が消える。

 そしてすぐさま、俺の影からシンシアとボロ雑巾のようになった金髪の女が出てきた。



「か……カルラ……!?」

「る、るり、あ……」

「カルラ!? 無事なの、ねえ無事!?」

「動くな」

「!?」



 俺の一声に、ルリアは押し黙る。



「なかなかにおまえの口が固いようだからな。彼女を使ってみることにした」

「や、やめて! わかったから! わたし、あなたの女にでも奴隷にでもなるからッ」

「そんな軽い女に俺は興奮しない」

「な……ッ」



 カルラを地べたに座らせ、頭に手を置いた。

 ビクン、とカルラの体に震えが走った。



「まあ心配するなよ。別に殺したり手をあげたりするわけじゃあない」

「じゃ、じゃあ何を……」

接続アクセス——我が地獄アビス

「ひッ」



 頭部に置いた手から漆黒の魔力が溢れ、カルラが短い悲鳴を上げた。

 第五位階黒魔術『聖なる嘲笑コンフェシオン』。

 平たく言えば、触れた相手を人形のように操る黒魔術だ。

 時間による制限はなし。同位階の白魔術か俺の意志がなければ解くことはできず、触れなければ発動することができないと少々使い勝手が悪い。

 ただ、その分の見返りは大きい。



「な、何をしたの……?!」



 叫ぶルリアを無視して、俺はカルラに命じた。



「〝自分で慰めろ〟」

「———」



 その言葉に、息を呑むルリア。対照的に、カルラは呆然とした顔つきのまま、片方は胸に、もう片方の手は秘部にあてがわれた。



「やめ……て」

「ぁ、ぁぅ、ぁ」

「何して、るの……カルラぁ」



 怯えた表情のカルラ。顔つきとは逆に、声はしめっぽさを帯びて、かすかな水音もこの場に響いた。



「〝名前を教えてくれ〟」

「カルラ……カルラ・ローガンです」

「〝性感帯はどこだ?〟」

「乳首です」

「〝自慰の頻度は?〟」

「ほぼ毎日で、す」

「だいぶ淫乱だな。〝濡れやすいタイプ?〟」

「はぁ、いぃ」



 シンシアと、いつの間にか駆けつけていたルカヌスが不思議そうに首を傾げていた。



「エル様、その質問に一体どのような意図が?」

「ただの性癖だ」

「はあ……」



 ルカヌスが人差し指を唇に当てて、何か思案しているようだった。

 とりあえず、彼女のことは置いておいて。

 ここからが余興の始まりだ。



「〝おまえは処女か?〟」



 問いかけに、カルラは首を横に振った。



「違います」

「……!」



 眼を見開いたのは、ルリアだった。



「〝初体験の相手は?〟」

「お父さん」

「——ぇ」



 その言葉と共に、カルラは大粒の涙を流した。

 人形のように操れるとはいえ、自我までを失わせることはできない。

 そこがまたタチの悪い魔術なのだが、今回に限っては良い方に転んだ。



「〝そのまま自慰を続けながら、ルリアに隠していたことを全てぶちまけろ〟」

「は、い」



 そしてカルラは、ルリアにぶちまけた。

 生涯、隠しておきたかったであろう秘め事を。

 自慰に耽り、表情を崩し、その当時を思い返しながら絶頂を繰り返すカルラ。

 さりげなく付与した性魔術の効果は、過去の性体験の同調。

 つまり、経験してきた性行為を彼女はいま、再体験しているのだ。



「お父さ、ぁぁ、んのとってもおっきいのぉぉっ! それが何度も、何度もカルラの気持ちいとこえぐってぐりぐりぃぃダメぇぇっ——♡♡」

「やめて、やめて、やめてよやめて……!」

「ぁ、ぁ、ぁぁぁぁ♡ お、お父さんのぉ♡ 子ども産みますぅ♡ 産むからいがぜでぇ♡ おクスリしゅきだからぁぁぃぃぃ、ぐぅぅぅあああああ♡♡」

「やめてって言ってるでしょ!?」



 シンシアによって手足を拘束され、耳も目も塞げないルリアはただただ、親友の痴態を瞳に収めるほかなかった。



「B級になったのも嘘ぉ♡ お、お父さんのえっち奴隷としてぇ♡ 三ヶ月間ぅ、んぁ、犬みたいにパコパコしてぇ、子ども産んできたのぉぉぉ♡♡」

「……っ、っ」



 秘部からうねる水飛沫が、ルリアの絶望しきった顔を汚す。



「カルラ……わたし、知らなくて……」



 全身を震わせて、親友の見るに堪えない痴態を噛み締めるように見つめながら、ルリアはぼやく。



「お父さんと不仲なのは、知ってたけど、まさか……そんな、そんなこと……」

「お゛ぉォォおおッ♡」



 記憶の中の父親に何度も犯されながら、とうとう意識を失った。

 ヒクヒクと全身を痙攣させながら横たわる金髪ギャル。

 そこへ、ネクロ式精力剤を飲み干し無理やり勃たせた俺は、ベルトの金具を外しながら近づいた。



「な……にを」

「バカか、おまえは」

「え……」

「誠心誠意、心を込めて俺に全てを捧げると誓えば、おまえの親友はこうも乱れずに済んだのにな」

「……や、やめて……やめて、何して——」

「お゛お゛ぉ゛ぉ゛っ゛♡」

「やめてよ、もう……わたし、あなたに全部捧げるからぁぁッ」

「あー、この豚の声が大きくてなんにも聞こえない」

「ぜ、ぜ、全部あげるからもうやめ——」

「あ、もう出る……!」

「———」



 抜き放った性剣から大量の白濁液が飛び跳ねる。カルラの腹から頭部、果てはルリアの顔面にまで大放出して、しかしまだ俺の性剣は衰えていなかった。



「わたしが、代わるから……」

「いや、ダメだ」

「オ゛ッ゛ォ゛ッ゛♡」



 第二ラウンドは、とても静かだった。

 気絶と覚醒を繰り返すカルラの下品な声だけが、小雨のように鳴っていた。


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