個別ルート150
夜、丑三つの刻。
月の光だけが明るく周囲の暗闇から不気味な印象を感じる中、広い部屋にぽつんと敷かれた布団に入って眠りに就こうと試みてみたが……、
「これっぽっちも寝れる気がしない」
本来であれば喧しい奴らも今日に限っては祭での疲労が出たからか皆静かに寝ている。一人でいる時間が珍しい、だからこそこんなにも深い思考を続けてしまうのだろう。
「夜中あるあるのやつだ……」
そう、自分ではそうは思わないけれど、不安で押し潰されそうな時程考え過ぎて寝れなくなるあれだ。
今日だけでもいろいろあり過ぎてもうお腹いっぱいだ。
「これからどうしようか……」
物想いに耽っていると、
「ん?」
何か突然の違和感に気付き、布団から飛び起きて気配の感じる障子の方に目を向けた。そして障子越しに映る何らかの人影が____
「え、怖……誰だよ」
心だろうか? それとも乱華? 体格から見てその二人のどちらかの様に見えるが、少し違う気がする。
こういう時は確認するに限る。まあホラー映画なら最初に死ぬキャラみたいな行動なんだろうねうん。さて鬼が出るか蛇が出るか……まあこの場合鬼も蛇も嫌なのだけれど、
とりあえず見てみよう、と障子を勢い良く開け放ってみると、
「全くお前らは____って誰だお前はっ!?」
突然の訪問者、それはいつものあれらとは違う存在。ただそれには明確な姿は無く、ハッキリと言ってしまえばそれに身体という概念は存在しなかった。
それは白い人型のモヤがある感じ、要は人ではない”何か”だから驚きはない。
いや驚きがない方がおかしいのか? メンヘラだったり、帯刀だったり、爆弾やら神様、これらのことを日常的に見ている俺からしたら、もはや驚くことを探す方が難しいかもしれないだろう。さて、
「で、お前は何者なんだ? また姫関係の奴か?」
耳も無ければ口も無い。そもそも目もないからコチラを向いているのかも分からない。
そんな不思議でしかない存在に問い掛けてみるが、やはり反応はない。
これはあれか? 気にせず寝るか? そんなことを思っていると、
「お?」
突然そのモヤが動きだした。
ゆっくりと動き出したそれは人間でいうところの腕が少しずつ上がっていき、やがて山の方を指差した。
幾度も殺されそうになって相手からの悪意に敏感になっている俺が不安にならない時点で良くない存在ではないだろうが。
なんだ? この真夜中に山に導こうとしてるのか?
「え、アホかな? この時間に山? 殺す気かな?」
いくら嫌な存在じゃないとはいえ、時間が時間だけにヤバい奴であることには変わりない。
うん、よし。
「寝るわ! お休み!」
モヤのことを見なかったことにして冷静に障子を閉めようとすると、
「あれ閉まんな____って足!!?」
そう、しっかりと閉まらないので困惑していると、その人型のモヤが閉めるのを妨害していた。多分足で、
「おのれはどこぞの受信料強奪業者!!? 足まで挟んで妨害するか!? えぇいやめろ!! 俺は寝るんだ! は、離せぇぇぇーー!!!!?」
抵抗虚しく部屋から引きずり出されモヤによって山へと連行される。
「やめろぉぉぉぉ!! アタシを何処に連れていく気よ!!? やめて犯されるぅぅぅぅ!!!!!」
割とノリノリである。
あ、”犯される”は駄目? 表現的アウト? 冗談でも駄目? あ、はい。
「ら、乱暴されゆぅぅ~~」
もうなんでもありだ。好きなところにでも連れていけ。
●
「んで何処だここは」
モヤによって連れて来られた場所は山の奥の何処か。
最悪一人残されたとしても整備された道があることから、のんびり歩けば帰れるだろう。意外なことに明かりもあるから暗くもない。ま、一人で帰りたくないけどね。
人の気配はないし……そんなことより、
「____ッ!! ____ッ!!」
「だ、大丈夫か?」
ここまで俺を運んでくれたモヤさんは死にそうになりながら呼吸? をしている。
そりゃそうだ山道だしね? 人一人抱えて来たらそうなるわね。てかなんか霊的あれなのに疲労とかあるのか……、
なんか見た目に反して人間らしいというかなんというか……って、そんなことよりもあれだ。
「それでなんで俺をここまで運んだんだ? なんの理由が?」
無慈悲にも息絶え絶えなモヤさんに詰め寄る俺は傍から見れば八九三さんにも感じるだろう。仕方ないだろうこんな夜中に山にへ連れ込む奴に手加減なんていらない。
そんな無慈悲を晒しているとモヤさんが改めて何処かを指差す。
「ん……なんだあれ?」
示された先をよく見てみると、そこには小さな洞窟と祠があるのが見える。
ただ、
「え、あの……扉も閉まってあるし……入れないけど?」
モヤさんの反応的に用があるのは祠の中だと思うが、残念ながら入ることはできない。
え、これどうしろと? モヤさん俺はどうすれば?
そうして助けを求めようと振り返ってみたが、
「っていないし!!? え、置き去り!!? 嘘だろおい!!?」
気が付けばモヤさんはおらず、夜の山に残されたのは俺一人だけ……そんな絶望の中、耳元で何かが囁く。
____アイツのことはお前に任せる。
突然聞こえた声だが直感で分かる、おそらく今の声はモヤさんだろう……いやそんなことよりね?
「こんなところに一人置き去り喰らわせるって良心死滅してんのか???」
お前のことは絶対許さないリストに入れとくわ……覚えとけよマジで……
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