個別ルート148
◆
「……」
畳に寝っ転がり視界に広がるは木目の綺麗な天井、自分の家とは全く違う見慣れない天井だが良い木材でも使っているのだろうか、などとどうでも良いことを考え細かな木目を眺めながら静かに呟く。
「なんでこんなことになったんだよ……」
独り言が広い部屋に響き渡り、より自分の孤独感を実感させる。
思い起こすのはついさっきの事、浜辺で起きたあの出来事だ。
景ちゃんに呼び出され突然のカミングアウトを受け、覚えていなかった……いや実質記憶を消されて景ちゃんにとって理想の応えが言えなかった俺は襲われた。
そこまではわりかしいつも通り、だが一番の問題は姫が起こしたこと。
景ちゃんを力で眠らせ、俺から奪っていた記憶を返し、最後に俺にキスだけして姿を消したあの謎多き神様は色々なことを言い残していった。
さらに今考えてみると、
「あいつなんで俺の名前知ってたんだよ……」
姫と幼い頃に会った時アイツは俺のことを知っていた。どういうことだろうか……記憶が戻った時に色々分かったが俺と姫は初対面だった……筈だ。
なのにアイツは俺のことを知っていた。しかもおそらくかなり昔から……、
「正直色々聞きたいのにここにあいつはいないしなぁ……」
そう”ここ”、現在進行形で俺がいる場所は自分の家じゃない。
物凄く長い一日になってしまったが、一通りのことをようやく終えた俺達御一行は現在東鐘家に泊まる為に来ていた。
もちろん俺は一人部屋。
「いやまぁ当然だけどね?」
若い男女が一つ屋根の下というのもよろしくないのに同室だったら洒落にならないだろう。東鐘ママさん達の素晴らしい配慮だ。
最初は倒れた景ちゃんをどうしようかと思ったが、どうやら姫が姿を消すと同時に景ちゃんも持って行った? ようで景ちゃんの姿も既にそこにはなかった。
「まあ意識の戻らない女子を俺が背負って連れていたら色々なトラブルがあるだろう」
そこは姫の配慮としてありがたく受け取っておこう。さてと、
「これからどうするかだよなぁ……」
他人の家で思考を巡らせていたがいつまでも寝っ転がっているのは良くないかもしれない。
普段ならちょっかいをかけてくる奴らも風呂に行っているからか静かなだけで基本賑やかなのが俺の周りだ。
「いきなりいなくなった景ちゃんや姫のことをなんて説明するか……」
いや本当に人が一人いなくなるだけでもかなりの”騒ぎ”なのに二人も消えたとなったらもうそれは”事件”なんだよなぁ?
色々となんとかしないといけないな……、と言っても解決策が閃いたわけではない。正直なところ思考が散らばり過ぎて一向に考えが整理できないし、ここいらでスッキリしたいところ。
そんなことを考えていると突然だだっ広い部屋の扉が開いた。
「やあご主人様! 私が来た!!」
「うっわ……」
いきなり姿を現した見覚えのある変態。風呂上がりだからかいつもは結んだ髪を下ろし、頬を少し赤らめた東鐘天は珍しく魅力的に感じ……ってそうじゃない。
「不特定多数のいる家でご主人様呼びとか俺を殺す気か? 社会的に」
「なにを言うんだ! 私のご主人様はご主人様だろう!! もうこの呼び方しかする気はないよ!!」
コイツは駄目だもう既に手遅れ過ぎる。
呆れてため息を溢した後、天にいきなり来た用件を聞いてみた。
「そうだご主人様! 皆お風呂から上がったから入ると良い!」
「あ、風呂か」
なんと素晴らしいタイミングだろうか、思考を整えたい時なら風呂はベストスポットと言えるだろう。
「うちのお風呂は凄いからねご主人様! 是非堪能して欲しいものだよ!」
「そうかじゃあ行ってくる」
「まあご主人様が良ければ私が背中を流そうか!! なぁにこれもペットの勤めというものさ!!」
なんかよく分からないことを言っているが、これは無視だ。一先ずは風呂だ風呂。
●
「おー広……ホテルの大浴場かな?」
風呂場に入った時の第一印象はとても庶民的な感想だった。
檜の優しい香りに周りが満たされ、もはや一家庭にあるレベルを超えている。だからこそ思う。
「最高かよ」
先程まで考えてた悩みは何処へやら、気分は旅行気分である。
これはもう気分は最高潮だ。
「だろう? ここの風呂は素晴らしいからね。私もよく入らせてもらっているよ」
「そんなんですか? いやでも入りたくなる気持ちは分かりますわ」
「ん、君も分かる子だね。どうだい隣に入りなよ。なぁに固くならないでさ」
「そうですか? じゃあ失礼して____」
言われたまま従い、隣へ行き湯に入る。
「あぁぁぁぁぁ……気持ちいぃぃぃ……」
「だろう?」
いや本当に気持ちの良い湯だ。全ての負の要素が抜け落ちそ____
「って!? アンタ誰だよ!?」
「お、今更かい? もう色々なことに慣れて動じてないのかと思ったよ」
「んなわけあるか!!」
我に返り隣のお姉さんに問いかける。
だがもう色々とおかしい。突然風呂にいるのもおかしい。
でもなんといっても一番おかしいのは額から生えた二本の角だ。
もうこの時点で俺のセンサーが言っている。おそらくきっと十中八九姫関係の方だろう。
「お察しの通りだ。君に話があったから少し降りてきたんだよ」
二本の角と褐色の肌、さらには蛍の様に淡く発光する髪を湯に濡れないように後ろでまとめたスタイル抜群お姉さんは混乱する俺に言葉をかけた。
「やぁ雨上君、お察しの通り露音姫の知り合いの神だよ。ちょっと今後のことで話をしようか」
まずこれを言おう、とお互い包み隠さない状況の中、お姉さんはハッキリと告げる。
「露音姫の状況が非常によろしくない」
これは彼女の存在に関わる話だ。
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