親友ポジションに憧れる俺は彼女達に狙われている

個別ルート147 露音姫

「え……な……はぁ？」

　何を言っている？　それがシンプルな感想だった。

　今までの姫とは明らかに違う異質な感覚を受け、蛇に睨まれた蛙の様に身体の自由が奪われる。

　はたしてそれが神の力によるものかは分からない。だがハッキリと言えるのは普段の姫とは圧倒的に様子が、雰囲気が、全てがいつもの姫とかけ離れているのだ。

　だからつい身構えてしまう。

「なんじゃ透、なにか言いたそうじゃな」

「え、いや、待てよ姫……今全部思い出した記憶って……」

「左様、お主からの”願い”を受けて儂が奪った記憶じゃ」

「＿＿＿＿ッ！！？」

　いきなり脳内に溢れ出した記憶や、いつもとは違う冷血な表情を見せる姫、そして追い打ちとばかりに神の力により眠りから覚めない景ちゃん。

　様々な状況に追い込まれた結果、俺の中で何かが弾けた。

「いい加減にしてくれよ！！！　なんなんだよお前ら！！？」

「……」

「景ちゃんは殺そうとしてくるし！　覚えていなかったの悪かったけどやり過ぎだろ！！？」

「……」

「姫も姫だ！　何してんだよお前！！　昔に会っていたなら教えてくれても良かっただろう！？　お前との出逢いもハッキリと覚えていなかったし……」

「それは儂の力によるものじゃな」

　なんでそんなこと……、と続けようとした時、姫が割って入る。

「お主がそう願ったからじゃ」

「＿＿＿＿ッ！？　違うだろ！？　俺は出逢わなければ良かったって言ったんだ！！　なんでそれが”出逢いに関する記憶を消す”ことになんだよ！！！　それより俺はお前に願いなんて言ってない！！！」

　当然の叫びだろう。どう考えても姫のやったことはやり過ぎだ。

　しかし姫はそんな俺の訴えに対してもあっさりと応える。

「儂がそうしたかったからじゃ」

「だからなんで！？」

「お主が辛そうにしているのを儂は耐えられぬからじゃ」

　……はぁ？　何を言ってんだよ……。

「分からぬか？　儂にとってお主が大切な存在だからという他なかろう」

　大切な存在？　少し意味が……、

「”好いておる”そうハッキリと告げた方がお主は良いのじゃのう？」

「好いているって……」

「お主が産まれた時から知っておる。その頃からじゃ」

「え、産まれたって……そんな時から……」

「正確に言えばもっと昔からなのじゃがな」

　まぁそれは良いじゃろう、となにか含みのある言い方の後、姫は景ちゃんを抱き抱える俺を見下ろしながら告げる。

「そやつを起こすことは出来ぬ相談なのじゃ、今起こしたところでどのみち儂が止めねば透に襲い掛かるじゃろう。じゃからそやつを起こすことは出来ぬのじゃ」

「そんな……」

「そもそも心、あやつを女に変えたのは男のままではいずれ透に危害を加えることになっておったからの。じゃから変えたまでじゃ」

「え……」

「儂はただ透の災難を回避していただけにすぎぬ、全てはお主の為じゃ有象無象などには興味はないからの」

　有象無象って皆の事を言ってんのかよ……そんな言い方って……、

「事実じゃから仕方なかろう？　儂にはお主だけで良い」

「だからなんで俺なんだよ？　小さい頃からってどういうことなんだよ？」

　それは＿＿＿＿、俺の問いを受けて姫が応えようとした時、突然姫の身体が淡い光に包まれた。

「え、なんだよどうした姫！？」

「なんじゃ彼奴らもせっかちじゃのう……まぁ仕方ないか」

　自分は何も起きていないというのに眼前の状況に動揺する俺と、自身の身に起きたことに驚くほど冷静な姫、という不自然な構図の中、

「どうしたんだよ？」

「ん？　あぁーなに、ちと神々の奴らが話があるから来いとな。心の奴の性別を変えたことや、広範囲の時間停止、今回の景に対しての呪い」

　まぁもっとたくさんあるが、

「”一人の人間にここまで固執したことについて”話があるんじゃと、まあしばらく留守にするのじゃ」

「留守ってお前……」

「じゃから……透よちと立ってこちらへ来い」

「え、おう分かった……」

　先程の圧を感じる雰囲気とは違い、いつもの姫に戻ると手招きをされたので恐る恐る従ってみる。

　すると、ちと屈め、と更に指示され僅かに反抗したい気持ちもあったが、ここは大人しく従うことにした。　

「これはお主を災難から守る最強の神の力じゃ、と言ってもあまり無茶はするでないぞ？」

　……儂との約束なのじゃ、と姫は俺の顔に優しく手を添え、

「＿＿＿＿ッ！！？」

「では透またなのじゃ」

　唇に何かが触れる感覚と共に姫は光の粒子になって消えていった。

　　　　　　　　～おまけ～

「ちなみに透、お主が数にして何回死にかけているか分かるか？？」

「いや流石にそれは分からないだろ……答えは？」

　すると姫は手のひらをコチラに見せ、指を五本立てて見せる。

「五？　……五十回とかか……？」

「今月だけでも五千は超えているのじゃ」

　いや多過ぎ＿＿＿＿って待って五千！！？　桁が狂ってるじゃねぇか！！！

「数多の世界線の透が犠牲になっておる。お主はその命の上に立っておるのじゃ」

　まさかのいきなり壮大なストーリーを感じさせる発言しないでね？？