個別ルート146 過去と今 姫♡カンスト
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「あ……れ?」
何故か突然思考にモヤが降り、僅かな思考停止の後に俺は現在の状況を確認した。
「なんで涙が? あれ……なんで俺こんな所にいるんだ?」
よく知らない場所で何故か涙を流し、身体は汗だくで肺が苦しい。途轍もない疲労度と足の痛みからみて走っていたのだと把握はできるが……、
「駄目だ……全然覚えてない……」
辺りを見回すが、やはり本当に来たことのない場所だ。
不可解な涙とは違いシンプルに心細さから涙腺が緩くなってしまう。
寂しさで泣きそうになった、そんな時……、
「のう小僧よ、どうしたのじゃこんなところで?」
「だ……誰?」
「儂か? 儂は____まあ儂のことは良いじゃろう? それよりも聞いたからにはお主の方から名乗るのが筋じゃろう? 違うか?」
言われてみれば確かにその通りだ。
つい取り乱していたこともあって常識というものが欠けていたのだろう。なのでまずはこちらから自己紹介をしてみる。
お姉さんの名前やらなにやらはその後に聞こう。
「雨上透……透か、良い名前じゃな。とても懐かしい気分じゃ……」
「ところでお姉さんの名前?」
「ん? 内緒なのじゃ」
内緒かよ。
「それで透よ、お主は何故こんな所で一人おるのじゃ?」
「え、何故って____」
あれ? そういえばなんでここにいるんだろう。今ここにいる理由が全く分からない。
「透よならば儂の言葉を聞け」
「は、はい……」
「良いか……?」
”透、お主は儂に逢いに来たのじゃ”
「お、お姉さんに?」
”左様、この夏に儂とお主は共に過ごした仲なのじゃ”
「い……一緒に?」
”そうなのじゃ、お主は迷子になった儂を探しておった”
「迷子……」
「じゃからもう儂は見つかったのじゃ。これより儂とお主は友人、これからの夏を共に過ごす存在なのじゃ」
よいか?
「お主の大切な存在は儂じゃ、儂以外お主の大切な者などおらぬ……じゃから____」
”これより全ての存在に好意を覚えることを禁止とする”
……
…………
………………
そこからの事は記憶が曖昧だった。
何かを言われたような気がするが、なにもなかったような気もする。そんなとても曖昧な感じ。
そしてそこから夏休みの間はお姉さんと一緒に遊んだ……気がする。僅かに曖昧な記憶ではあるが、確かにそう過ごした感覚だけが残っていた。
でもそのお姉さんもいつの間にやら姿を消し、まるで蜃気楼の様に朧気で、霞掛かった想い出を懐かしみながら俺は何年も強く渇望し続けたのだ。
”もう一度あの子に逢いたい”と……、
◆
懐かしい記憶が脳内に溢れ出し、途方もない程様々な感情が押し寄せる。
溢れんばかりに涙が浜辺へと零れ落ち、ようやく全て理解した時には俺は倒れこんだ景ちゃんの下へ駆け出していた。
「景ちゃん!? おい景ちゃん!?」
抱き寄せて声をかけてみるが返事はない。
息はしているし、鼓動も確かに聞こえている。だが反応は一切ない。
まるで御伽噺の眠り姫を連想させる程に存在は確かにあるが、希薄というか、小柄な体格も合わさっていつでも消えてしまいそうな脆さを感じる。
だから、突然溢れてきた記憶に困惑しながらも俺は姫に問う。
「ひ、姫? なんでこんなこと……いくらなんでもここまで……」
そんな俺の問いに対し、なにを言うておる、と姫は当然かの様に答えた。
「お主の為以外なかろう」
「俺の為?」
左様、
「あのまま儂が止めておらねば透? お主は死んでいたぞ?」
「そ、それは……分からないだろ……」
「いやそれはないのじゃ、透に再会した時に言うたであろう?」
「なにを……」
「ん? 忘れたのか? 確かに言ったのじゃ」
”透お主このままでいたら一年以内に死ぬことになるぞ”とな、
「____ッ!!?」
そうだ……そういえばそんなことを言っていた気がする。
「思い出したじゃろ? 儂は幾度となく透の死を回避させておったからの」
「え……マジか……」
「マジじゃマジ、お主死の危機多過ぎなのじゃ」
「そ、そんなに?」
「今月だけでも二十は危機があったの」
嘘だろそんなかよ……。いやでも、
「やり過ぎだ姫……今すぐ元に戻せ」
「断るのじゃ」
「なんで……」
「当然じゃろ」
全ては透お主の為、儂にはお主以外必要ないのじゃ。
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