個別ルート145 透 過去
あの娘と初めて会った時のことを俺は忘れない。
ボロボロな彼女と出逢い、夏休みという期間を共に過ごした栗色の長い髪にあまり口数の少ない、名前のない少女。
彼女と会ったのは偶然だったかもしれないが、彼女との想い出は決して消えることはない悲しくも切ない物で、そんな大切な宝物だからこそ、
……だから俺は事実に気付き涙を流した。
◆
「ただいまー帰ったぞー!」
コンビニで買い物を済ませ俺は彼女が待つ場所へと駆けて行った。
季節は夏、もちろん女の子一人を炎天下の中取り残すというのは俺の考えではない。そんなの余程のゲスだろう。
何故買い物を一緒に行かなかったかというと、彼女自身が嫌がるからなのだ。彼女は何かと人が集まるとこを嫌うし、明るい時間に出掛けることも嫌う。理由は分からないが、
まあ今そんなことは良いだろう。重要なことではない。
今日はそんな出掛けたがらない彼女を連れ出すことに成功したわけなのだが、
「あれ?」
コンビニ前、彼女が待っている筈の場所に着いたのだが……誰もいなかった。
「え?」
理解が追い付かない、それがシンプルな感想だ。
「なんで? さっきまでいたのに……」
怒って帰ってしまったのか、正直確かに機嫌は良くはなかった。仕方なく着いてきている感があったけれどまさか帰ってしまうとは……いや、彼女がそんなことするわけない。短い付き合いではあるがそんなことをしない奴だと容易に想像できる。
「探そう」
瞬間、俺は駆けだした。
「____なんで! なんでだよ! どこ行ったんだよ!!」
海を目前にして来た道を走り出す。向かうはもちろん家だ。
ただその他に寄った場所もあるから真っ直ぐ向かうことはなく、所々立ち寄った場所を訪れながら時間をかけて捜索を開始する。
が、見つからない。嫌な予感がし家まで戻るが何処にもいない。
初めて出逢った廃バス。
忍び込み一緒に遊んだ学校のプール。
僅かな夏の間とはいえ様々な場所を二人で巡ったが、何処へ行っても彼女はいなかった。
「……なんで」
嫌な感情が脳内に巡り続ける。
何かがあったのかも、俺の方が嫌になりいなくなったのかも、そもそもが夏の幻だったのかもと……いやそうじゃない。確かに彼女と過ごした日々は本物だった。
俺の我儘で連れ出したから?
「……うぅぅ……」
真夏に走り回り汗だくの身体には僅かな水分しかない筈だった。なのに自然と瞳から大粒の雫が溢れ出し、熱せられたアスファルトへ落ち続ける。
自分への情け無さ、彼女に対しての純粋な心配、真夏に身体に鞭を打った結果の身体的苦痛、理由はいくら述べてもキリがない。
しかし子供だった俺はこれ以上傷つきたくないという感情から一つの答えに行き着いてしまったのだ。
「こんなことなら会いたくなかった……」
____こんな記憶なんていらない。
「その願いこの儂が叶えてやるのじゃ」
●
「……誰?」
シンプルな感想だった。
いきなり現れた燃え上がる炎を連想させる程に赤い髪に、これまたルビーの様に綺麗な赤い瞳、まるでこの世のものと思えない程の綺麗な造形の俺より少し歳上くらいの女の子は着崩した和服を着こなしコチラに寄ってきた。
いつもの俺なら多少なりとも警戒するはずなのだが、何故かその子の姿に安心感を覚えてしまう。
「なんじゃ泣いておるのか? お主は泣き虫じゃのう」
「え?」
突然の指摘にふと我に帰る。
確かに先程まで泣いていたのは事実だがこの涙は違う。自分でも気付かない何故流れたかも分からない涙。
綺麗な女の子はそんな俺の流した涙を優しく指で拭ってくれた。
「____ッ!!?」
その行動に俺の中の何かが決壊し、全く面識の無い女の子に抱き着き号泣してしまう。
女の子はそんな俺の頭を優しく撫で、耳元でソッと囁く。
「今まで辛かったのぉ……儂は全部見てきたからの」
外国で出逢った女子のことも、公園で出逢った女子のことも、お主には一生忘れられぬ思い出じゃな。
寂しがり屋なお主のことじゃ、今までの出逢いと別れはさぞ辛かったじゃろ。
お主の気持ちは痛い程分かるのじゃ。
先程消えた彼奴もお主のことが嫌いになって消えたわけではないぞ? ただアレにも色々訳があるだけじゃしお主が気に病むことではないのじゃ。
と、まあもうどうでも良い。お主を傷つけた奴を儂は許すことが出来ぬだけじゃしな。
「じゃから儂が”透”お主の願いを叶えよう」
「……え?」
今確かに違和感のあるところがあった。
なんで俺の名前を……、そんな言葉が口から溢れようとした時、女の子は俺の頭に触れ言い放ったのだ。
「お主の”出逢い”に関する記憶や思い出は儂が預かろう」
その瞬間、俺の悲しみは何処かへと消え失せた。
~おまけ~
探し人を見つける為に走っていたところ、突然女子達の群れに遭遇し、1人の女の子にぶつかってしまった。
「っ!? そこの君! どこを見ているんだ危ないだろう!!」
ぶつかってしまったのは俺だ、怒るのは当然。だが急いでいる俺にはメンタル的余裕はなかった。だから一言。
「うっせぇ黙ってろ雌豚こっちは急いでんだ!!!」
「キュン♡」
何がとは言わないが、これがとある誰かとの邂逅である。
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