個別ルート142 紫③ 夏祭り
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先生と祭りを巡り、様々な物を食べ歩いた。
その間に何故か特設会場でライブをしているノアだったり、銀ちゃんと会った時にはゲーム制作仲間の片言お姉さんと眼鏡が本体みたいなお兄さんを紹介してもらったりと、祭りをかなり堪能できたと思う。
そして現在は人気の少ない場所で紫さんとゆったりしているわけで……、
いや疚しいことはない。ただ単に花火が打ち上がる場所におすすめスポットがあるらしく紫さんに連れてこられたわけでだ。
「ここよ透!」
「お、本当に誰もいないんだな」
「私が学生の頃に見つけた穴場なのよ」
「ほうほうそれはまた」
「というかもうお面外してもいいんじゃないか? 誰もいないしな」
あ、それもそうか、つい好きなお面過ぎて……今外しますね。
指摘を受け外してみると紫さんが俺の顔を見つめている。なんかありました?
「……いやあれだな____やっぱり透の顔って安心するなって」
「そうですか?」
「うん。安定の”普通顔”って感じで」
「え、ディスられてない!?」
嘘でしょ? この流れでこれは驚き過ぎるだろメンタル病むぞおい。
そんな俺の反応を見て、クスリと笑う紫さんは星が散りばめられた空を眺めて静かに語り出す。
「……透は昔のことって覚えてる?」
「え? そりゃまぁいつくらいの?」
「……小学生くらいの時かな?」
もちろん覚えています。
そう言おうと思った。だが素早い返事は出来ずにいた。
正直なところ高学年の記憶はしっかりあるが、そこから下の記憶がヤケに不透明というか、ぼやけている感じだったから驚きのあまり言葉が詰まってしまったのだ。
今まで昔のことを考えて来なかったからいきなりの記憶の不透明さに驚いてしまったが、今にして思えばまるで過去に無理矢理蓋がされていたような感覚を覚えてしまう。
「ちょっと透? 大丈夫?」
「……えっ? な、なにが?」
「冷や汗凄いぞ?」
「あ、あぁ……」
俺のこの不自然な状況も気になるが、一先ずは紫さんの話を聞くことにした。
「私が教育実習で行った学校で凄い良い子に会ってさ、その子のおかげで今こうして頑張れるんだよ」
「ほぇそうなんだ」
物凄い他人事だがしょうがないだろう。俺には関係ない事だしな?
「その時に会ったのが透なんだけどね」
「え……」
え、どうゆうこと? なにが起きたん?
今自分の話されていたか? は? 聞き間違いかな?
「子供の頃の透に言われた一言で私は頑張れたんだぞ?」
「ま、マジですか……」
そう言われると薄ら記憶が蘇る。確か昔に教育実習の先生が悲しそうにしていて何かを言ったような? 正直古いこと過ぎてちゃんと覚えていない。
でも紫さんが言うなら間違いないのだろう。
「ちなみになんて言われたんですか?」
覚えていないのだからしょうがないだろう。とりあえず聞けば何か思い出すかもしれないしな。
「愛の告白をされたんだよ」
「嘘やん! 本当にそれ俺か!?」
記憶が無さ過ぎてそれが嘘だったとしても信じちゃうんですけど!? え、嘘だよな流石にそれはさぁ!?
「嘘」
「あんさぁ!!?」(ガチギレ)
本当にやめてくんない!? 純粋なんだから信じちゃうでしょー!?
「でも透に会ったのは本当だぞ? 実際本当に救われたんだから……」
「そ、そうなのか……」
「……そうだからな?」
言いたいことがある、と紫さんはこちらに向き直る。その頬が僅かに高揚しているように見えて、やはりそれが大人の魅力のように感じられて……、
「透!! 私____」
紫さんが言葉を発した瞬間、突然スマホが震えた。これは設定音からして着信を知らせるものだ。
先生に許可を取り出てみると、聞こえるのは波の音だけ、
「……?」
首を傾げしばらく耳を澄ませていた時、波の音が僅かに収まった瞬間静かに声が聞こえた
「先輩……待ってますね」
「____ッ!!?」
突然に鳴り、突然に切れる電話。
声からして間違いなく景ちゃんなのが分かったが、何やらいつもと雰囲気が違う。
何故かそのいつもとは違う景ちゃんの声が耳に残り過ぎて忘れられないのだ。
「透大丈夫か?」
「……紫さんすいません。ちょっと会いたい奴がいるんで行ってきます」
「____そ、そうだよな。分かったよ行ってこい透!!」
行ってきます、と声を張り上げその場を駆け出す。
何故だか知らないけど今すぐ行かないといけない。
「待ってろよ景ちゃん!!」
~おまけ~
「……本当に嫌だなぁ……なんで行けって言っちゃったんだろうなぁ……?」
本当に、
「こんな自分大っ嫌いだな……」
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