個別ルート135 夏祭り
◆
「お邪魔しまーす!!」
天と乱華を連れて家の方まで戻り、一般住宅とは思えない程に広々とした稽古場へと二人を連れて行くと、背中に祭と書かれた半被を着た間違いなく祭り関係者の様な女性と東鐘ママさんが何やら打ち合わせをしていた。
が、二人を連れた俺を見るや否や、話を切り上げ険しい表情を浮かべている。
「天さん……てっきり来ないと思ってましたよ」
「も、申し訳ありませんお母様……」
「か、母様……お姉様は皆と夏祭りを周りたくて……」
「乱華貴女には聞いていません。貴女はここにいなくても良いです。お友達の方々といなさい」
「……ご、ごめんなさい」
「謝らなくて結構です」
「「「……」」」
三人の重い雰囲気が稽古場に満ちてるが、正直いるだけで気不味いのだけれど……。
「天さん貴女には今年の祭りを最後に舞を降りていただきます」
「え……」
「それと同時にこの神社の巫女を辞め、私に巫女を引き継いでもらいます」
「ッ!? しかしお母様!!」
「貴女に拒否権はありません。これより乱華と同じく神事に参加することは許しません。もう好きにしなさい」
「「そ、そんな……」」
母親の発言に二人は目を見開き動揺し、天の瞳には涙も浮かんでいる。
これは非常によろしくないのではないだろうか? 泣きそうになってる二人を見ているとこっちまで胸が苦しくなるわ……。
一先ずこの状況をどうにかする為にママさんに声をかけてみるが、
「なんですか。今は家族の話し合いをしています。貴方は早く出て行ってください」
「えぇ……」
聞く耳を持たないとはこの事、今までにない俺に対しての反応はおそらく娘達がいるからかしっかりした母親を装っているのだろう。
さてどうしたものか、悩んでいると突如俺の手を掴む存在に気付き、振り返ると見知った奴がいた。
「姫?」
「うむ。待たせたのじゃ透よ」
良いタイミングでやって来てくれた相棒兼神様の姫だが、口元がソースやら青海苔で汚れている。さてはお前さっきまでたこ焼き食べていたな。
全くコイツは、と笑みを溢しているとママさんから一言。
「姫? 貴方いきなり誰と話しているのですか?」
東鐘ママンだけではなく姉妹も俺の行動に困惑しているようだ。
あれ……俺だけにしか見えない系? 実は姫に会いた過ぎて幻でも見てるとか?
「あ、今儂の姿はお主にしか見えぬのじゃ。じゃから儂に話しかけていたら変人扱いされるぞ注意するのじゃ」
「……」
遅えのよ。先に言っとけもう変人扱いされてから言うなや。
「今回は透のサポートをしてやるのじゃ。儂がおれば説得も容易じゃろうよ」
あ、なるほどそう言う感じね? じゃあ頼むぞサポート。
「うむ任せよ! じゃあまずはゆーちゃんにこう言うのじゃ……」
ゆーちゃんとはおそらく目の前で厳しい顔をしている東鐘百合ママさんの事だろう。
姫はどうやらママさんのことを知っているようだし、本当に頼りにしてるからな……。
____え?
姫が俺に告げた言葉に一瞬驚き目を見開き動揺してしまったが、この重い空気を変える為だと意を決してママさんの耳元に寄って静かに告げた。
「話を聞いてくれないと____中学生までお漏らししていたのを娘さん達にバラしますよ?」
「天……貴女は舞の支度をしなさい。乱華手伝ってあげなさい」
俺の発言に僅かに驚く様子を見せた百合ママさんは瞳を閉じて冷静に二人に言うと稽古場を後にしようとする。
「私は彼とお話しがありますので、準備をして待っていなさい」
「「わ、分かりました」」
行きますよ、と二人を残して俺とママさんは稽古場を離れて縁側を歩いていると、無言だったママさんがゆっくりと震える声で言葉を溢した。
「……まさかそんな事を知ってるなんて」
「え、あぁ……まあはい」
「……」
「あーそれで話なんだけどな」
「良いです。言わなくても分かっていますから……」
あ、本当? それなら話が早いな。 じゃあなんでアンタは____
「お漏らしのことを黙って欲しければ身体を差し出せと言うのでしょう!!?」
「違いますけど!?」
「クッ!! ここまでゲスな男だとは思いませんでした!! な、なんて卑劣な!!」
「誤解だわ!!」
「嫌がる私に乱暴するつもりなのでしょう!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」
「やっぱり天の母親だな! 思考回路がそっくりだわ!!」
昔からこんな奴じゃから、と背後で姫が言っている。マジか昔からこれか……もう治らないじゃん。不治の病じゃん。
てかアンタ俺の前じゃなくて娘達にその姿を見せろよ。
「それは駄目です。母親としての威厳がありますから」
「どの口で言ってんの?」
「どの口!? なんてこと! そうやって誘導しているのでしょう!? 私が口を滑らせて”下の口”とでも言うと思っているのですね!? そんな罠にハマりませんよ!?」
「お前マジ口閉じろ!!」
ガッツリハマってるどころかそんな罠は仕掛けていないのに自分で色々やらかしている。コイツの脳内がピンク色な所為で取り返しがつかないことになりそうだ。
変なことを言う前に早いところ本題に入ることにしよう。
「そんなことよりなんで二人を遠ざけるのか教えてくれよ」
なんか理由があるのだろう? と聞いてみるが百合ママさんは露骨に嫌そうな顔をして、
「……何故家のことを他所の方……しかもこんなゲスに……」
「……」
へー? ふーん?
姫から色々情報を聞いといて良かった。
「じゃあ、真面目な和服美人に見せかけて和服の下はどぎつい下着を着ている事二人に教えてくるな」
「気が変わりました! 話します!! 話しますから家族には手を出さないで!!」
あれ、それどう聞いても俺が悪者になりそうな台詞だな。心外だから止めようね?
「……ではまず話すことがあります」
「話すこと?」
はい、とママさんは続ける。
「この神社で”巫女になる”ということがどういうことなのかを……」
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