個別ルート136 夏祭り







 天ちゃんが巫女なのか知っているんでしたね、良かったそれなら話が早いです。

 結論から先に伝えますがこの星空神社の巫女になるというのは、


 ”生涯を捧げる”というのと同義なのです。


 意味が分からなそうな顔をしてますね、ならこの神社の成り立ちとこの町の伝説から話すことにしましょう。




 遥か昔、この地域は日照りに見舞われて何ヶ月も雨が降らなかったそうです。人々は解決策を考えたが、どれも成果が出ずに多くのものが倒れてしまった。

 そんな時に一人の少女が立ち上がり、自ら神に祈りを捧げると言い出したそうです。

 人々はその者に大変感謝し、皆が彼女を神に身を捧げた者として”神巫”と呼んだ。


 が、それと同時に山から”鬼”が降りてきた。


 鬼もまた食糧に困っていたこともあり、僅かながらの少ない作物、さらには人々を襲ったそうです。

 そして鬼は神巫に目をつけ、彼女をも奪おうとしたが、人々はそれを食い止める為に神巫の側に見張りの者を配置しました。


 後に鬼は退治され、神巫の祈りにより人々は飢えから逃れることができたのです。


 これがこの地域に伝わる伝説なんですよ。




「それ以降少女の起こした奇跡を語り続けるためにこの星空神社では”巫女”という神に死ぬまで祈り続ける神事が生み出された……というわけか?」

「その通りです」

「ふーんそっか」


 話を最後まで聞いてみたが正直胡散臭いというのが感想だった。

 神巫だの、神への祈りだの、鬼だの実にありがちな昔話感がある。真相なんて誰も分からないのに。


 そんな冷めた考えをしていると、


「貴方……なんで泣いているのかしら?」

「え……おぉマジだ。なんで泣いてんだ」


 突然告げられ自身の頬を伝う感覚に気付き、拭ってみると言われた通り涙が流れていた。

 別に悲しいわけじゃないのに何故か涙が止まらない。なんだろうか病院にでも行った方がいいだろうか? なあ姫的にはどう思うよ?


「……ん? あ、あぁそうじゃな。大丈夫じゃろ心配はいらぬよ」


 あ、そう? なら良かった。

 じゃあお気になさらず話を続けて良いですよママさん。


「そうですか? それなら……分かり易く言いますと私はあの娘達に神社に関わって欲しくないのです」


 娘達の未来の為に、と添えて。


「そもそも私が幼い頃もそうでしたがこの地域の老害共はその風習を今も強いてきますけれど、この科学的説明ができる時代に似つかわしくありません」

「老害ってあんた……」

「事実ですので、それにそもそも私は娘達が大好きです」


 知ってます。丸わかりですけど気付いてないと思ってたのかな?


「娘達の将来に邪魔な存在がいれば叩き潰します」

「ヒェ……」


 この鋭い眼光、そしてあまりよろしくない言葉使い。間違いない変態は天へ、口調は乱華へと遺伝したのだろう。直感だが、


「私も姉がおりましたがくだらない風習に嫌気がさして町を離れてしまいました」


 まさかの妹属性かよ。変態妹和服美人とか属性盛り過ぎてキャラが濃過ぎるだろ。


「それに過去に御告げも来ましたから、私はこの悪習をぶっ壊すつもりです」

「へーお告げねぇ……え? 御告げ? 誰から?」

「神様からです」


 聞いた瞬間、横にいる神様へ目を向けると握り拳から親指を出しドヤ顔をしている。いやムカつくなそれ。


「幼い時に神様からのお告げで「そんなめんどくさい役目なんて気にしなくて良い」と言われましてね」

「へーそうなんですね」


 科学的説明がどうの、と言っていたクセに神様は信じるんだな。などと思ってしまったが、もう話の腰を折るのはやめにしよう。いつまでも話が進まないしな。


「あの娘達にもこっちの事は気にせずに自分の未来を優先して欲しいのです」

「なるほど……」

「乱華は初めから巫女の行事に携わらないようにしましたが、天は幼い頃にやりたいと言っていたので今日までやらせていました」


 ……乱華に対して冷たい態度をとってる理由を聞いても?


「冷たい……?」

「どうした」

「いえ……冷たい態度をとった記憶がないのですが……」


 え? そうなの?


「はい。あの娘は自由にさせてきたつもりですし、巫女の事やそれに関することを聞かれた時に応えないようにしただけですけど……」

「それはどの様に?」

「無視をしたり、貴女には関係のないことです、と言っただけですが……」

「あーなるほどなるほど」


 うんうんそれが原因じゃね? いやそこは俺と話してる時みたいに正直に言えば良いだけだろ。


「それは無理です」


 いやなんでだよ、と言い返してみたところママさんの凛々しいお顔は何処へやら、急に頬を赤らめて照れ臭そうに小さな声で呟いた。


「……しいじゃないですか……」

「え、なんて?」

「……は……」

「は?」

「恥ずかしいじゃないですか……いくら家族でも素の自分を見せるなんて……」

「どの口が言ってんの!!?」

 

 アンタ殆ど最初から俺に対して態度がぶっ飛んでただろ!? それは恥ずかしくないのかよ!?

 当然の疑問を問うてみると、ママさんそれがさも当然かのように言い放った。


「貴方はなにか……素の自分を見てもらいたいと思ったと言いますか。本能的に何かを感じ取ったので」

「本能ってアンタ……」

「さあもう話したから良いでしょう!? 私のことを好きに弄ぶと良いわ!! ただその代わり娘達には手を出さないでちょうだい!?」

「え!? またそのくだりに戻ってきちゃうの!?」

「さぁ!! 早く早く!! 時間は有限ですよ!!」

「いやアンタ割と乗り気じゃねぇか!!」


 本当に良い加減にしてくれよ……こんな所を天や乱華にバレたら____


「その話……本当ですかお母様……?」


 え……? と突然聞こえた声に振り返ってみると、そこには天と乱華が立っていた。




 あ、終わったかも……



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