通常ルート132
◆
日が落ち始め夕方、俺達は海水浴を終えて泊まりということで東鐘姉妹宅へとやって来た。
正直それなりに楽しく遊び、深く考えないようにしていた俺の思考回路は今更その現状に立ったことで危険信号を鳴らしていたのだ。
よくよく考えてみれば今日泊まりだということを、
「天さん? こちらの方々が本日お泊まりになるということで良いのかしら?」
「……そ、そうですお母様」
「そうですか」
「……」
姉妹の家の前までゆき最初に出てくれたのは二人の母親だった。和服がとても綺麗で、当然の如く天と乱華に似ていて美人。
そんな和服美人に俺は既に面識があるわけで……、
「あら雨上さんお久しぶりですね」
「ど、どうも……」
「……その彼女さん達もよくいらっしゃいました」
彼女だって、と心達がはしゃいでいるが俺は一切笑えない状況だ。
「誤解です」
「人様の家に来るのに他の女を連れて来るとはとんだクズ……家で一体ナニをする気なのかしら……」
「ちょ!? 人聞きが悪い!! コイツらは単なる幼馴染や友達なんですけど!!?」
「
「あらぬ疑い過ぎますけど!? てかなに話してんだ!! 年齢制限かける気かこら!!」
見た目は和服美人ではあるが頭はショッキングピンク過ぎる東鐘ママさんは俺を真っ赤な顔で罵っている。
非常に不本意だが……その汚物でも見るような目がとある界隈ならご褒美になってしまうだろう。俺はならないけどね。
「透こんな綺麗な人と親しげなんだね……僕が知らない人だ……」
「先輩またですか……」
またってなに!?
「とー君本当に誰これ構わずいつもだよね」
「透マジでいい加減にしなさいよ?」
ひぃぃ……皆なんか怒ってない? これに関しては俺悪くないのに……。
皆からの冷たい対応に一人しょぼくれていると「あれ?」と心が何かに気付き東鐘ママに質問を投げかけた。
「和服美人……もしかして……あの! もしかして夏休み入ったばかりの時に透の家に行きました?」
「はい仰っている通り伺いました」
俺の時とは違いキリッとした表情の東鐘ママの応えを聞き、皆の鋭い視線が弱まる。
「なんで透の家に?」
「いつも娘達がお世話になっているようでしたのでその御礼に」
「なるほど、だから先輩と少し親しい訳ですね」
納得をしてくれたのか俺への視線から殺意が消えた。
助かった……ただこのお母様嘘はついていないけど肝心な所を言っていないし、天や乱華はもちろん、俺とその他の者に対して対応が違う。キャラでも作ってんのか?
「まあいいでしょう。さあ皆様どうぞ寛いでいってください」
相変わらず俺を睨んだままだがなんとか先程までの気まずい流れを断ち切り、東鐘宅へお邪魔することになった。
◆
「「「おー! 広い!!」」」
「そうじゃな」
家に入りまず心と真白の幼馴染コンビ、それと杏理が息ぴったりな驚いた声をあげた。
その三人に対して動揺せずに姫が頷く。
分かるぞその気持ち、俺も初めて乱華に連れられて来た時は驚いたものだ。
まあ、あの時は乱華と天以外の家の者に会わなかったけれど……、
などと前のことは置いといて、とりあえずそのまま案内されて客部屋へとやって来た。
その客部屋もとても広く、正直この部屋だけで俺の住む学校所有のアパートの部屋がすっぽり入る広さだ。というかそれでもまた余るだろうというえげつない広さ。
ここは宴会場かな? と俺の内心思った疑問に答えるかのように東鐘ママが口を開く。
「娘さん達の部屋はここで良いでしょう。普段は親戚の子達が来た時に使っている部屋だからちょっとだけ広いかもですけれど」
あまりの広さに心達四人が呆気にとられている。そりゃその反応もよく分かるムッチャ広いしね。
ただね?
「では貴方の寝る場所は物置で良いかしら?」
「言いわけねぇだろ」
「まさか娘達の部屋へ!? 一体娘達にナニをする気よ貴方!? 恥を知りなさい!!」
「アンタこそナニ考えてんだ恥を知れ!」
天と乱華が一旦自室に戻ったのを良いことに暴走しだすお母様を制して部屋へと連れて行ってもらい、
「ここでどうかしら」
「ん、どれど……」
案内されたそれは赤い屋根がトレードマークの小札に”ポチ”と記された____って、
「犬小屋じゃねぇか!!」
「失礼ね、ワンLDKよ」
上手くねぇよ!!
「今主人が散歩に行っていてね」
しかも現住民の方が住んでんじゃねぇかよ!!
「ウチのお庭綺麗でしょう?」
「なんですか急に話の脈絡が……」
「広いですしね」
「ま、まあ確かに」
「テントを設営するには充分だと思うのですが」
「そこで寝ろと!? アンタはどんだけ俺を家に泊まらせたくないんだよっ!?」
泊まらせたくないお母様と、もうここまで来たら泊まりたい俺とで無益な争いを繰り広げた結果、皆とは違い離れに泊まることになった。
正直一人だけ離れというのは納得がいかないが……もう早く休みたいので背に腹はかえられない。
「つ……疲れた……」
畳に寝っ転がり今日一日の身体に溜まった疲労がなんとなくドリップコーヒーの様に畳の方へと溶け出してゆくのを感じる中、ようやく休めることに安堵していると部屋の扉が開け放たれる。
「透ー!! 夏祭り行こー!!」
長い髪を後ろで纏めお団子を作り、浴衣を着た心が突然現れてなにやら意味のわからんことを言ってきた。
「……はぁ?」
どうやらまたこの過酷な一日は終わらないようだ。
~おまけ~
「そのお団子ヘア可愛いな」
「チッチッチッ! 透これはね”シニヨン”って言うんだよ!」
「なんそれ。世の男達の何割がその名前を知ってるのか気になるわ」
「この身体になるまで僕も知らなかったよ」
「だろうな」
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