個別ルート131 海編⑥ 真白



「はい注目なのじゃ!」


 一通り遊び終わった後、各自がまったり過ごしている時に姫が皆に呼びかけた。

 どうしたのか、と不思議そうにする俺達の視線を集め、姫は背後に隠した物を皆に見せつける。


「”スイカ割り”するぞお主ら!」

「いきなりだな」


 大きく立派なスイカを持ち上げ、満面の笑みの姫はもう待ち遠しいのか涎が垂れており、そんな姫の態度を見てここで断る奴はいないだろう。


 でもただ一言言わせてくれ。


「姫それ重いだろ……手がプルプルしてるぞ……」

「そう言うなら早う持つのじゃ透お兄ちゃん! お、重いのじゃ! 早う! 皆よ早う!!」


 なんかあれだな、まるで生まれたての子鹿みたいになってるぞ……腕も足もな。


「喧しいのじゃ」

「うっす」


 とりあえずこのままにしておくのも可哀想……というより神様の逆鱗に触れるかもしれないので、早速始めることにした。


「じゃあ私からやるね」

「真白ちゃん頑張って!」

「うん! ありがとねここちゃん!」


 初手は真白ということで、女子同士の仲睦まじい光景に一人満たされていると真白から何かを渡させる。何これハチマキ?


「目隠さないとだからね? とー君が結んでよ」


 あ、なるほどそういうことね、了解しました。

 言われた通りに真白の側へ行き、ハチマキで視界を隠そうと近づいた時、真白が俺を見つめながら頬を赤く染めた。

 なんだなんだ? どうしたよ?


「と、とー君?」

「なんだよ?」

「……目隠しするからって変なところ触らないでよ?」

「水着姿でそんなこと言うな動揺すんだろうがっ! てか俺をそんなクソだと思ってたのか!?」

「でもとー君……私や天さんの胸凄い見てきたし」

「……見てないでちゅわ……」

「そんな二十年以上前のリボン付けた齧歯類みたいなことを……」


 そんな昔のことよく知ってるな真白よ。あと齧歯類って……もっと可愛い言い方があるだろうに……。

 決して嘘はついてない。ただ偶々俺の目が顔よりも鎖骨らへんを見ている所為で勘違いさせたのだな。ふむそれは悪いことをした。

 全く我が幼馴染真白ちゃんは自意識過剰ね、気安くそんなこと言っちゃいけないぞ? 皆を見てみろよ俺を狙おうと凶器を構えてるだろう?


 本当に気をつけてよね(プンプン)


「じゃあ見てないの? 大きいの好きじゃない?」

「大好きです」


 おいコラ呪い! 口を慎め!


「どれくらい好き?」

「いっぱいちゅき♡」


 おい俺ぶっ殺すぞ?


「ふふっ……そっかぁ?」


 既に目隠しを着けている最中ということもあり、真白からは俺の表情は分からない筈だ。だからここは平常心でいかないと……。


 など、雑念を振り払おうとしている時、真白は俺に抱き着き耳元で静かに呟く。




「えっちだねとー君♡」




 その声がとても色っぽくて……なんかもうあれだ……。


「……」

「え、先輩吐血してません!?」

「あ? ってマジか! 何があったんだよ!!」

「ご主人様大丈夫かぁ!?」

「大丈夫だ問題ない」


 これはあれよ、萌え成分過剰摂取症候群と言ってな? 好きな声優の最高なボイス聞いてもなるからね。正常な人体の構造だから。


「僕そんな構造初耳だけど?」

「おうあれじゃよ。どこぞのツンデレヒロインばかりする声優の声を愛する者が発症しやすい”釘〇病”と同じやつじゃろ」

「へぇ……そうなんだ」

「まあよう知らんのじゃ」


 知らんのかい。

 ともかくこの吐血は正常なやつだから気にすんなよ……それにしても少し思うところがあってだな。


「なんか真白雰囲気変わったよな」

「そうかな?」

「おう。なんか話しやすくなった感じ」

「そんなことないよ〜?」

「……」


 君最初に俺のことナイフで殺そうとしたの忘れているのかな? あ、あれかな? 世界線が変わったのかな? 俺だけが前の世界線の記憶を持ってる的な感じかな?

 最近やったゲームがそんな感じで面白いんだよ。


 全く本当に女性の気持ちを読むのは難しいな。同じ女性でも姫の方が分かりやすいわ。


 これだから幼馴染暗殺者ナイフ少女の真白ちゃんはキャラ盛り過ぎなのよ。


「ねぇとー君”ジョニエルさん”って知ってる?」

「……へ?」

「数日前に会った人なんだけど知ってるかなって」

「……その俺に似てる人……」

「うん」

「知らないと言ったら嘘になります」

「なにその回りくどい返事」


 あ、いや……それがどうしたんですか?


「とー君の親戚なのかなって」

「……よく知ってる方ですねぇ」

「やっぱり? 凄く色々な事教えてもらってね。私が好きな人のことで悩んでたらタメになる話してくれてね」

「そうなんですね……」


 だからとー君に言うけどね、と前置きの後に真白は俺だけに聞こえるように静かに言葉を発した。






「私とー君のこと好きだからね♡ もうここちゃんにも譲る気ないからね♡」






 その言葉と共に目隠しをした真白は、なんの躊躇いもなくスイカに向かってナイフを投げて命中させた。

 あっさり終了したイベント”スイカ割り”だったが、俺としてはまた新たな問題が起きたことに驚きを隠せないでいると、


「私一言もジョニエルさんが透に似てたなんて言ってないんだけどね」


 真白からの更なる追い討ち、もうこれバレているのでは?


「またジョニエルさんに色々教えてもらおうかなぁ? ____ねぇとー君?」


 あ、これバレてんだろ。終わったわ。




        ~おまけ~


「ジョニエルさんがゆかりちゃんと二人きりで買い物デートしてたのも気になるしねぇ? ____ねぇとー君?」

「あ、はい」


 おいおい死んだわ俺。


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