個別ルート129 海編④ 景


「行くよ透ー!」

「おー」

「そーれ!」


 心のサーブから始まってボールが打ち上がり反対側のコート、つまり俺のいる側へとゆっくり落ちてくる。


「よし行くぞ景ちゃん!」

「任せてください!」


 名を呼びかけると共に落ちてきたボールをレシーブした後、再び俺が触れトスをし、それを勢い良く飛び上がった景ちゃんが強烈なアタックを行う。


 その結果、


 バチンッ!!!


 ゴリラかのごとく馬鹿力を見せつけ、吹き飛ぶ前に手がめり込んだことで、とんでもない破裂音が響き渡り、ボールの破片がヒラヒラと辺りへ飛散する。


「……」

「……拾わないとな」


 俺はその虚しく散ったボールだった何かを回収するのだ。

 浜辺にゴミを残しちゃいけないしね? いや透さん偉いね流石自然に優しいね。


 そんな状況の中、一人肩を振るわせ涙を浮かべながら膨れっ面でいじける白髪の後輩女子が一言述べた。


「……楽しくない」


 景ちゃんの虚しい言葉が波の音に静かにかき消されたところだが、それに反応する空気の読めない奴。


「プププークソ後輩ださー!! お前の所為でボールまた割れたんですけどー? え、なに? なんなら改名でもしてみたら? 海野景改め”腕力ゴリ美”とかどうかなぁ? 僕お似合いだと思うんだけどぉ?」

「こ、ここちゃん? ちょっと言い過ぎじゃ……」


 反対側で煽りに煽り散らかしている心をチームメイトの真白が制する。


 ルール的に良いのか分からないが、個人的に楽しむならある程度ルールを無視しても良いだろう。などという理由で始まったビーチボールだが、どうやら改造人間景ちゃんにはかなり難易度(力加減)の厳しいゲームだったようだ。


 今のヤツも合わせて既にボールは三つが失われてしまった。


「アイツ……殺す……」


 そしてボールが失われるのに比例し、心に対して景ちゃんの憎悪が膨れ上がってゆく。

 もはやそれは眼光だけで人を気絶させられるレベルでヤバい……。


「透お兄ちゃんよ……あれが覇◯色の覇気かの? まさか実在するのじゃな……」

「いやあるわけな……いやあれ見たらなんも言えねぇわ……」


 もしや他の覇気もあるのやも? と姫がブツブツ言っているがやめとけ消されるぞ。

 呆れてため息を溢しているといじけていた景ちゃんが俺に抱きついてきた。


「先輩! あの男女が意地悪します! 私もうメンタルがボロボロです!」

「あ、うんそうだな。それより離してくんない? 今君が物理的にボロボロにした三代目ボールちゃんを回収してるからね?」

「私とそのボールだった物どっちが大事なんですか!!?」


 うん、とりあえず景ちゃんが抱きついてることで皆の◯王色の覇気が俺に降り注いで気絶しそうだから離してくれない? 大事なのは俺の命だからね?


「先輩も嬉しい癖に♡」

「え、なにが」

「当ててるんですよ♡ 先輩は女の子になんでも言わせたい人なんですね♡」

「え、本当になにが? 景ちゃんに当てる程の凹凸おうとつがあると? 寧ろ感触無さ過ぎて抉れてる疑惑が____イタタタタ!! 腕折れる腕折れる景ちゃん!! 俺の右腕がぁぁぁ!!!」


 嘘が言えない所為で真実を告げている最中、突然景ちゃんが俺に関節技をかけたことで一瞬で右腕の感覚が消え失せた。

 こ、コイツ本気で俺の腕を刈り取る気か!?


「何言っているんですか先輩正直に言いましょうね? 温厚な私でもそんな嘘つかれたら怒るかもしれませんよ?」


 この状況で景ちゃんは怒っていないと申すか!? ってイタタタタ!!!


「ぎゃ! 逆に聞くぞ景ちゃん!!?」

「なんですか?」

「もし俺がそこで『ぐへへ景ちゃんのおぱーい最高ですなぁ!』とか言ったら君はどうするよ!?」


 そんな変態なこと思ってないけどね!? もしそれ言ったらどうすんだよ!!


「もう先輩のエッチ♡ って言って照れちゃいます♡」

「それだけ!?」

「はい♡ それだけです♡」


 本当だな!? 絶対だな!? 信じてるぞ!?


『もしや透やるのじゃな!?』


 いきなりテレパシーで話しかけんな姫!! あぁでもこの激痛を止める為にはやるしかねぇだろ!?


『やるんじゃな!? 今……! ここで!』


 お前最近”にゃんげきの巨人”見たな!?


 って、そんな事どうでも良い!!! 今は乗るしかない!! このビッグウェーブに!!


「いや実は景ちゃんに抱きつかれてドキドキしちゃってぇ!? ぐへへ景ちゃんのおぱーい最高ですなぁ!!」


 言ったぞ!? 言ってやったぞ!?

 運良くなのか悪くなのか呪いは発動しなかったから嘘つけたぞ!! ほらさっき言った通り照れてくれそして離してくれ!!


「もう先輩のエッチ♡」

「グハッ!!?」


 助かる、俺は確かにそう思ったから嘘をついたのだ。

 言ったら照れる、景ちゃんがそう言ったから奇跡的に発した嘘。


 なのに……なのに、




 気がつけば視界には青空が広がり、俺の身体は宙へ浮いていた。


「嘘やん……」


 照れた景ちゃんが恥ずかしさのあまり、俺に平手打ちをかましたことで勢い良く海へと吹き飛んだ。


 もうあれだ。意味分からんわ。


 でもこれだけ言わせて?


「照れるだけって言ったじゃぁぁぁん!!?」


 俺の身体は海へと落下した。




「あ……あいきゃんのっとふらい……」




        ~おまけ~


「でもなんだろう……スク水で抱きつかれることは悪くないな……」

「うわ……変態なのじゃ……」


 あ、いたんですね露音姫様。



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