個別ルート125 紫 オフ会⑤
突然身体の所有権を返され、肝心なところで全てを丸投げしてきた呪いに怒りが込み上げてくるが、そこは深呼吸と共に飲み込むとして、
「な、何を無責任な……」
真白は意外と嬉しそうというか、まるでその言葉を待っていたかの様な満更でもない反応を見せる。
お? これイケるのでは?
最初は呪い先輩が真白の繊細な内面という名の地雷原の中を走り抜けるどころか、裸で野糞し始めたレベルのヤバい暴走かと思ったけれど、意外にも真白の機嫌は良くなった。
良かった。暗殺者によるナイフで微塵切りコースは逃れたらしい……あ、でも状況はよろしくないわ。
余計なことをしでかした呪いの尻拭いを俺がやるということは変わらない最悪だ。呪い君のことなんかもう知らないんだから! これからはもう頼らないからねっ!(プンプン)
くだらない思考を繰り広げているうちに脳が解決策を捻り出し、嘘のつけない俺の精一杯の説得が始まった。
「ここで俺、ジョニエルの話をしようか」
「「え、唐突」」
うるせぇ黙って聞け。
「あれは小さい頃の話だ」
幼かった俺はとある女の子と出逢った。
不思議な雰囲気のその子に妙に惹かれた俺はその女の子としばらくの間遊ぶようになったんだ。
「へ〜ジョニエルにもそんな過去がねぇ? そのイマジナリーフレンドは元気なのか?」
「おい紫その子ちゃんと実在したから、幻想とかじゃないから」
「それでどうなったんですか?」
あぁ、ある日突然いなくなったんだ。
「え、お別れの挨拶とか……」
「ないない。いきなりいなくなったから本当に」
あの時は冗談抜きで驚いたし悲しくもあった……あ、いやね? ただまぁ何が言いたいかと言うとね。
「言おうとするのに早いってことはないんだよ」
「「……」」
「人間ってのは言えなくなってから本当のことに気付くもんだ」
「……ジョニエルさんはその子のことが好きだったんですか?」
「どうだろうな」
昔の事過ぎて正直ちゃんと覚えてはいないが、ただ悲しかったということだけはよく覚えている……だから言えるのだ。
想い続けた気持ちってのはとても尊いものだけれど、押さえ込んでしまった想いはどこまでも苦しく鋭利な棘になって自分を歪ませていくんだ。
「____ッ!!?」
「だから君には正直でいて欲しい。諦めたつもりでもそれはどこまでも”つもり”のままなんだよ。自分がついた嘘で一番苦しむのは自分自身だ」
「……」
決まった!? もう途中から自分でなにを言っているのかちゃんと分からなかったけどイケただろう。ていうかイってくれよなぁ!!?
「なるほど……確かにその通りですね」
イケたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「欲しい物を買わずに諦めてもずっと、あーやっぱり買えば良かったなぁ……、って思っちゃうあれか?」
「はい先生! ジョニエルさんはそれが言いたいんですよ!!」
「要は”やらないで後悔するより、やって後悔しろ”ってことね」
さすが先生!! そういうことっすよ!!
「結局単なる無責任な気も……」
おいやめろ! 今良い感じに閉めてんだろが!!
と、まぁなんとか真白から受けた相談への回答は正解だったらしく、彼女は何かを決意した様子で勢い良く立ち上がり言い放った。
「ありがとうございます先生、ジョニエルさん! 私もちゃんと自分で考えてみます! あ、デートの邪魔してすいませんでした!! 失礼します!!」
「「あ、はい」」
では!! と真白は言うことだけ言ってあっさり去っていった。これぞまるで台風の様。
さて、そこで紫先生は静かに呟く。
「私なんもやってなくね?」
「それな」
●
気が付けば夕方、食事や買い物を済ませ二人でゲームの話をしたりブラブラしているといつの間にやら時間が経過していた。
「今日はありがとな透」
「いやこちらこそ」
「楽しかったか?」
「無茶苦茶!」
そうか、と嬉しそうに笑う先生だったが、途端に寂しそうに俯いてしまう。
「先生?」
「名前で呼べ……いやな、本当に今日が終わっちゃうな、とね」
「紫は楽しかったですか?」
「敬語……まあ良いか。楽しかったよ最高にね」
楽しんでもらえたのなら良かった。実際に買い物をしている時とか、色んな話をした時は学校の時よりたくさん笑顔が見れたし、大人の女性の別の一面とはなかなかトキメキが止まらないものである。
「今日がもう終わっちゃうな……」
「……」
「なぁ透」
「どうしました?」
「またこうして一緒に出掛けてくれるか?」
少し照れた様子の先生の顔に夕日が差し、その姿に男子である俺にも少なからず思うことがあるわけだが、でも先生の表情的に真剣なのが分かる。
俺も今日は本当に楽しかった。だからここは思ったことを応えよう。
「もちろん、俺からもお願いします。また出掛けましょうよ紫さん」
「ん、ありがとうな透♡」
~おまけ~
「次はお家デートだな透♡」
「いや紫さん流石にそれはいくらなんでも____」
「また鯖料理作ってくれ♡」
「そっちかい」
ポロンッ
【皆で海に行こうよ透!! 僕の水着でメロメロにしてあげる!】
【メロメロってきょうび聞かないな】
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