個別ルート123 紫 オフ会③
「紫そういえば聞いていいですか?」
「なによ? てか敬語はやめなさい。カップル設定なのよ?」
「あ、それは失礼……いやいや! ずっと気になっていたんだけど、なんか反応薄くないか? って!」
薄い? 不思議そうにしながらも先生は塩焼き鯖を箸で摘んで頬張り笑みを溢し噛み締める。
「んーー!! やっぱり鯖は最高ね!!」
とても幸せそうというか、普段の気怠そうな先生を知っているからこそ、自分だけがこの姿の先生を独占している様な感覚を覚えてしまう。
可愛いなこの人……って、そうじゃなくて!!
「なんで俺と待ち合わせ場所であった時に驚いてなかったんだ?」
素朴な質問。それでいて個人的にはかなり気になっていた質問に先生はシンプルに答えた。
「結構最初の方から知ってたわよ?」
平然と言い放ち食事を続ける先生は「そもそもな?」とジト目で俺を睨みつける。
「透? 君は馬鹿なのか?」
「え、なんでですか」
「別にな、私と透が会った『トゥルーラブ・オンライン』の年齢制限的には透がプレイするのは問題ない……ただね」
ただ?
「オンラインゲームで実名使うってちょっと駄目でしょ」
「誤解なんです誤解!!!」
「とにかくそれで名前見て気になって、通話してみて確信したわけよ」
「それ無茶苦茶最初じゃないですか!!?」
そんな前から知っていたのかよ……って待って? それ勝手に俺の名前を登録した銀ちゃんの所為じゃない!? ゆ、許さんぞあの野郎……!!
……あれ待てよ?
「それって先生は最初から知っていたわけで」
「こら名前で呼べ」
「知っていたのに俺と遊んでくれてたってことですか?」
「……」
ふと思ったことを聞いてみると先生は黙ってしまい、次第に俯き黙っていた先生の顔が赤く染まり、突然勢い良く立ち上がると、
「これはあれよ!? あの時はまだ確証がなかっただけだし!!」
「は、はい!」
「トオルとゲームしたり、話したりするのが楽しかったから遊んでたの!! 確証がね!!」
「そ、そっすか!!」
「……」
「……とりあえず座ってもろて」
そ、そうね、と俺の言葉に素直に従い静かに座り直す先生。
なるほど確証がなかったのか、それは納得だ。
など、と一人で理解して頷いていた時、先生はテーブルに置いていた俺の手の上に自身の手を優しく添えて囁く。
「嘘……本当は透だって分かったから遊ぶようにしたのよ?」
「え?」
「透にどんな形でも会えて嬉しかったから」
「……それってどういう?」
更なる疑問が生まれ、再び質問を投げかけた時だった。
「あ、やっぱりゆかりちゃんだ! 外から見た時に『あれ?』って思ったんですよ!」
「「!!?」」
突如聞こえてくる声に驚き、手を引っ込める。
その正体は、いつもより可愛らしくお洒落な恰好をしているが俺はすぐに分かった。
この桃色の髪にゆるふわな雰囲気を漂わせているが、実は行動力の塊で誰よりも先に俺に襲い掛かって来た暗殺者……。
てか真白じゃん。
「お、おう琴凪? ゆかりちゃんじゃなくて先生だぞ??」
「あ、ごめんなさい紫先生!!」
「分かればいいのよ……」
「あれ? そちらの方は……?」
「やべぇ……」
どうする! これはもう終わったのでは!?
「どっかで会った気が……」
あれ待って? これバレてない説ないか?
そうだよくよく考えたら俺今バレない為に髪型変えてるし、先生から貰ったサングラスもかけてもいる。なるほどそのおかげで真白も気付いてないわけか、
なら乗るしかねぇ!! このビックウェーブに!!!
「初めまして私の名前は”ジョニエル”デス」
「ジョニエルさん?」
「イエス!」
はいそうです。今日よりしばらく私はジョニエルですはい。
「ぶふっ!!」
こら笑うな先生! こちとら真剣なんだよ! 命が掛かってんだよ!!
冷静に考えてこの状況がバレたらヤバいだろう。主に真白からだと心にバレる可能性があるからマジでヤバいのだ。
一先ず真白には早く帰ってもらいたいのだが、
「先生に聞いて欲しいことがあって……」
「なんだどうしたんだ?」
「実は私好きな人がいて……」
「恋バナかぁ……」
あ、帰らないのね。てかその話俺聞いて大丈夫?? 帰ろうかジョニエル?
「ジョニエルさんも良ければ聞いてください。男性の意見も聞きたいです」
「う、うっす、了解しました」
どうやら本当にしばらくは俺はジョニエルになってないといけないようだ。
「ぶふっ! ジョニエル……優しい奴だなお前は……ぶふっ!」
「いやマジでぶっころ」
どんだけ笑ってんだアンタは!!
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