個別ルート122 紫 オフ会②


「ここよ透ー!!」

「お、ここですか? 結構大きいですね」

「そりゃ今回かなり大きなイベントだからねっ! 気合の入り方がいつもより違う訳なのよっ!!」


 そ、そっすか、と圧に押されてハイテンションの先生に手を引かれ店内へと入った。


「おー凄いわね見なさいよ透!! あのお宝の山を!!」

「お宝……って凄!?」


 自動ドアを通り店に入ってまず視界に映った物は先生の好きなゲームに登場するであろうプレイヤーキャラの等身大パネルだ。それが複数、男女様々なパネルが出迎えてくれている。ハッキリ言ってオタクには絶景過ぎる光景。

 もちろんそれだけで終わることはなく、パネルの他に店内は左右でグッズ売り場と飲食の出来るコラボカフェで分かれている。

 

 というかこれ……!!


「俺も知ってるゲームじゃん!!」

「ようやく気付いたわね」


 しばらく分からなかったがこの店は最近グレープ侍さん……いや紫先生に勧められて俺もハマりだしたゲームのイベントだったようだ。

 そのゲームは三十を超えるキャラをガチャで手に入れ、自由にチームを編成して冒険をする世界的に人気なもので、協力モードで先生と一緒に通話しながらしていた。


 正直俺もガッツリハマっている。


「透も行きたいかな~? って思ってな、まあ私が来たいから来たわけだけど」

「先生……」

「馬鹿違うだろ?」

「……ありがとう紫」

「ん、どういたしまして」


 事前に財布の中身は多めの方が良いと連絡が来ていたことをようやく理解できた。

 俺も最近ハマっているのもあって、限定グッズも欲しいしゲームとコラボした料理も食べたい。ならここは、


「紫一先ずご飯にしないか? グッズ買ってからだと荷物が増えて邪魔だろうし」

「確かに……私はもうグッズを買おうとしてた。さすが透ブレインだな!」

「そこまで?」

 

 紫って学校以外だと実は馬鹿なのでは? と言いたくなったがそこをグッと抑えてカフェへ行き、席に着いて二人でメニューを確認すると、


「「おぉぉぉぉぉ!!!!」」


 二人のテンションは爆上がりした。


「見なさいよ透! このハンバーグランチってゲームに出てくるモンスター意識してない!?」

「このサイダーのジュースとか氷属性のキャラをイメージしてるって! これ確か紫が好きなキャラじゃないか?」

「ほんとだ!! ロム様だ格好良いぃぃぃぃ!!!」

「よだれよだれ!!」


 色々なキャラや、ゲームの世界観を飾り付けなどでイメージされた料理が描かれた注文表はもう見ているだけで最高なもので、頼みたい物が多過ぎて困ってしまう。

 そんな状況でも先生はデザートを見ていたのだが、突然メニューを見るのを辞めた。


「決まったわ」

「え、もう?」

「ええ、元々食べたい物は決まっていたしね」


 なるほど、リサーチは完璧というわけか。


「それで何にしたんですか?」

「鯖の塩焼きランチ」

「アンタそういえば鯖マニアだったな……」


 そうだ、一度しか行っていないけれど紫先生の家には、およそ食べ物と呼べる物が白米やパンと調味料、そして鯖くらいしかなかったんだわ。この人超偏食家じゃん。

 

 でもここはコラボカフェですよ? 折角ならなんかキャラモチーフの何かを……、


「いや鯖は私の最推しキャラの大好物だから、ほらアクスタも付くって」

「マジだ」


 え、そんな偶然あるの? さては紫先生は好きになったキャラで自分の好みとか変えちゃう系なのか? 付き合った相手でキャラが変わる的なアレか??


「最初は運命感じたんだぞ? まさか私だけじゃなくてこのキャラも鯖大好きみたいでね、まあ私程じゃないけどな」


 あ、そうかさすがにこの人程ガチな人はいないよな。

 じゃあもう頼みますね、とどのぐらい鯖が好きか熱弁しだす先生を無視して店員を呼んで注文をしていると、最後に先生がデザートの欄を開いて告げる。


「このパフェを食後にお願いします」


 その一言に対し店員は俺と先生を交互に見て、


「こちらカップル限定メニューですが……」

「え」

「はいカップルです!!」

「なんて!!?」

「ラブラブカップルです!!!」

「アンタはなにを言ってんだ!!?」


 顔を真っ赤に染めた店員さんは「かしこまりましたぁぁぁ!!!」と厨房へと走り去ってしまった。


「待って違うんです俺の話を聞いてください!!!」


 必死に言ったところで誰もいないわけで……、


「透?」

「な、なんですか」

「信じてもらう為にもキスでもすれば良かったかもな、なんて♡」

「アンタは本当に教師かぁぁぁ!!?」


 生徒になんてことしようとしてんだよ!! 地元から多少離れた場所とはいえ知り合いがいないとは限らないんだぞ!!?


「じゃあこれ着けろよ透」

「え?」


 先生から渡されたそれはよくダンディーな漢が着けていそうな黒い眼鏡、


「何故にサングラス?」


 早く早く、と急かされて着けてみる。


「結構似合ってるじゃないの」

「本当ですか?」

「うん、かなり良いわ」


 じゃあ今日はこれで行くか、そんなことを考えていると先生から一言。


「なんかそれでスーツ着て眉間に皺寄せれば完成ねっ!」

「それ全然褒めてないからね??」


 この先生楽しんでやがるな……許せねぇ……。



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